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第五話 「婚約者 登場」
しおりを挟む「おはよう、鈴乃。
彼は?」
(うわぁ…出た……)
名目上、私の婚約者・宝来 白水が朝っぱらから話しかけてきやがったのである。
そして、やはり正真正銘の攻略対象なだけあって、
うゆくんへの視線の移り変わりがやけに早い。
もし、うゆくんが白水ルートに入り、
ゲーム通りのシナリオに進めば、それはトゥルーエンドであり私は断罪される。
バッドエンドの可能性もあるが、うゆくんの可愛さの前では、ほぼあり得ないので一旦置いておく。
まあ、そんなことになる前に絶対に““婚約破棄””をするつもりだ。
そして、うゆくんが誰と結ばれたとしても私は受け入れ生涯支える覚悟はできている。
だから——怖がる必要なんて、何もない。
白水に対しては、ただ大人しく距離をとり、退散するだけだ。
「彼は有栖 結真《ゆいま》、私の義弟よ。
そして彼は、幼馴染の宝来 白水様よ」
仕方ないので、うゆくんを彼に紹介してあげた。
そして初めましてで困惑しないようにうゆくんにも白水を紹介してあげる。
すると白水は、礼儀正しく、しかし一切の隙を見せない微笑みを浮かべて自己紹介をした。
「初めまして、俺は鈴乃の婚約者の宝来 白水。
これから会う機会は増えるだろうから、よろしく」
うげぇ……相変わらずの完璧な愛想笑いに、思わず背筋がぞわりとする。
というか、何故わざわざ私が言わないようにしてた“婚約者”の部分、言っちゃうんだよ…
突然のことで驚いたのか、
うゆくんは「婚約者……」とボソッと呟いた。
少しだけ驚いた表情はしたものの、
うゆくんもすぐに挨拶を返す。
「あ…初めまして、有栖 結真です。
よろしくお願いします…」
少しだけ元気がなさそうに見えるが、
礼儀正しく可愛い義弟である。
挨拶も済ませたので「ごきげんよう」と言って、
さっさと退散しようとした、その瞬間——
白水が唐突に、私の手を掴んだ。
「一緒に行かないのか?」
(…?…彼は何を言っているのかしら?)
「君が言っていたじゃないか。
“毎日、必ず教室まで一緒に行きたい”と」
(…はて?
そんなこと、言ったかしら)
私の中にある記憶を、片っ端から呼び起こす。
…思い出した。
そういえば、私って——
ゲームでの西園寺 鈴乃は、
婚約者である彼のことを、こよなく愛する女なのである。
そして彼女は、
婚約者である彼もまた、自分を深く愛しているのだと疑いもせず信じ込んでいる。
……かなり重症だ。
その結果、
彼が本当に愛することになる義弟・結真に嫉妬し、散々嫌がらせを繰り返し——
最後には、愛する彼自身の手で断罪される。
ただ、今の私は彼のことをこれっぽっちも愛してなどいない。
むしろ、とっとと““婚約破棄””したい所存である。
だからここは、穏便にやり過ごす。
「白水様、申し訳ないのですけれど、
今日は義弟の初登校で、色々と手続きもありまして。
それに、しばらくは不安な彼のそばにいてあげたいのです。
ですので——
当分の間は、別行動にさせていただきたいのですが…」
白水は一瞬だけ目を見張ったが、すぐにいつも通りの完璧な微笑みを浮かべた。
「あぁ、もちろんだ。
しばらくは彼のそばにいてあげるといい」
「ありがとうございます。
それでは、失礼いたします」
私はうゆくんと足早にその場を去った。
しかし、この時“致命的なミス”をしたことに気付かされるのは、まだもう少し先の話になる。
(やはり、おかしい…
あいつは俺に様付けなんてしない。
あれほど俺に執着していた女が、
見ず知らずの義弟のために、あそこまで動くとは考えにくい…
一体、何を考えている……西園寺 鈴乃——)
——こうして、
私の平和的な婚約破棄計画は、
早くも小さな綻びを見せ始めていた。
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