風漂〜売れない物書きと少女の日々〜

物書未満

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第9話 キャンプご飯、彼女の兄

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 霊術に関して話したり、取り留めのない話をしている内に時刻は一七時半頃となってきたのでキャンプの設置をする事にした。

 どうやら昨日とは違い霊気酔いは殆どなく荷馬車から下りた時に少々ふらついた程度である。
 キャンプ設置自体は三十分程で済んだのだが、

「やはり二人で設置した方が早くできますね」

 と、ミーナは言うので昨晩どれだけかかったのかと聞くと一時間と少しはかかったのだという。

 私は酔いが余りにも酷すぎた為全く記憶がないがさぞ大変だったのだろう。

「私は霊術が使えますので力はなくても設置はできたのです」

 なるほど、風の力を使って持ち上げれば重い物でも軽くなり運ぶことができる。

 確かに出発前にも大樽を楽々と運んでいたからだ。
 もしかすると私も練習すれば出来るようになるのでは、と思っていたのだがそれを遮るように、

「とは言っても慣れていないと普通に運ぶより疲れますし、下手に使うと物を吹き飛ばしてしまいますけどね」

 と、言われたので内心がっくりとした。やはり無理か……
 そんな気持ちが顔に出ていたのかミーナは優しく微笑み、

「ルカワさんなら時間がかかるとしても出来るようになりますよ。元々が風属性ですし、体内霊気も多いので」

 と、付け加えた。フォローも完璧ではないか。

「そう言ってもらえると少しは前向きになれるよ」

 と、ミーナに返して夕食の準備をすることにした。霊術が使えるかどうかも大事だが食事も大事だ。

 火起こしは私がやると言って、料理の下準備は彼女に任せた。

「流石に霊術を使い続けるといくらミーナでも大変だろう。私に出来ることは私がやるよ。昨日何もできなかったのもあるし」

 ミーナの霊術に頼りきりなのはよくない。
 霊術無しでできる事はなるべく私がやることにしよう。

「ではお任せします。正直な所を言うと霊気を多めに使っているので少しでも軽減して頂けるのは助かります」

 やはり霊人のミーナといえども疲れは出るものだ。
 それに今のミーナの心に余計な疲れは非常によくない。

 そうして二人で各々出来ることをしている内に料理の下準備ができ、火もいい具合に起こったので、早速夕食作りである。
 
 今日のメニューはシチューだそうで火にかけた鍋に具材と水、調味料等を入れて煮込んでいくという流れになった。

 時刻は既に一八時半を過ぎており、夕食が出来るまでの間、風呂の水汲みなどの準備をしようと思いそれを伝えると、
「これを持っていって下さい」

 と、首飾りを渡された。

「それには風の霊術加護を施してあります。私が先日使ったあの術を使うことはできませんが力仕事を幾らか楽にしてくれると思います」

 気の利いた事をしてくれるのは本当に有り難い。私は礼を言い風呂の準備に向かった。

 先程の首飾りを付け、大樽を動かして見ると楽々と動かせる。重さを感じはするが屋敷で準備をしていた時より遥かに良い。

 それに目隠しのカーテン設置も支柱が数倍軽く感じ、その上地面にも刺しやすい、カーテンを張る時もヨレヨレにならずキレイにと張れるといった具合だ。

 水汲みは特に効果が顕著でバケツに水が入っていると思わせない程の軽さになった為、通常の倍以上の速度で水汲みを終わらせる事ができた。

 水汲みが終わった後は大樽に蓋をして作業完了だが、それにしてもこの首飾りの効果は絶大であった。
 
 ひとしきり作業が終わって焚き火の前に戻り、首飾りについて話すと、

「やはりルカワさんは風と相性が良いようです。着けているとあらゆる物の重さを軽く感じた筈です」

 まさにその通りの事を言われたので驚いてしまった。
 ミーナには具体的なところまで効果が分かっていたらしい。

「風属性以外の人が付けても効果はあるのですが風属性の人は一番恩恵を受けやすいんです」

 と、説明してくれた。なる程そういう事かと思っていると、

「あ、その首飾りは返して下さい。恐らくもう加護が切れています。その状態でずっとつけているとルカワさんの霊気を吸ってしまうので」

 焦り気味にそう言ってきた。それはまずい、霊気枯渇などになれば大変なのですぐに首飾りを返した。
 さて、色々と一区切りついたところで、

「さあ。夕食にしましょう」

 そのミーナの声を皮切りに食事が始まった。
 まあ、言わずとも美味い訳である。美味くない筈がないのだ。

 少し大きめに切られたジャガイモ(の様な芋)のホクホク感、程よく溶けた玉ねぎらしきものの旨み、しっかりと火の通った人参(の様な根菜)から染み出す甘み、保存用に加工したとは思えない程の肉の柔らかさ、それら全てが溶け出したシチューにパンを浸して食べれば疲れも吹き飛ぶ心地である。

 ミーナの料理はどれもこれも甚だ美味い。美味いとしか表現出来ない私の食事への表現力を恨むばかりだ。

 先程、グダグダと稚拙な表現をしたが俗っぽい言い方をすれば、

「うっま……」

 と、これだけしか咄嗟にでない私である。

 そう思っているのがミーナに伝わったのか、はたまた私の顔に出ていたのか、

「そんなに美味しそうに食べて頂けるとやっぱり嬉しいですね。兄様の評価はいつも辛口でしたから」

 と、ミーナは呟いた。

 そう言えば「兄様」とやらはどうなったのだろうか。あの襲撃で亡くなったのか。いや、それにしてはミーナが落ち着きすぎている。

 どうにも気になって仕方なかったので聞いてしまった。

「ミーナ、お兄さんはどんな人なんだ?」

 襲撃の時の記憶を掘り起こす事になりかねないが、疑問が拭えなかったのだ。

「兄様は今、首都で騎士団第一部隊副隊長をやっています」

 と、ミーナは応えてくれた。なんとお兄さんは生きている様だ。

「私に残った唯一の肉親、襲撃の折にはもう会えないものと思っていました」

 そう小さく呟いた。やはりこの手の話はするべきでは無かったか。私の疑問はしまっておくべきだった。その後暫く間を開けて、

「兄様との距離が騎士団首都中央本部から早馬で一日分よりも少し遠いくらいになれば何とか霊気伝達で事の次第を伝えられます。そうすれば私達に向かって部隊の一部が来て拾ってくれると思います」

 なるほど、霊気伝達という一種の遠隔通信で兄へ事を伝え、迎えに拾ってもらう算段か。そう解釈すると、

「そういう事です。もう少し早くこの事について話しておくべきでした。つい忘れてしまっていて」

 と、応えてくれた。
 忘れてしまっていても仕方ないだろう。

「ありがとう、教えてくれて。詳しい事はまた今度頼むよ。今日はそろそろお風呂にしないとね。ああっと、晩ご飯ごちそうさま! 言い忘れるところだったよ」

 慣れてはいないが少しばかりでも切り替えられるよう冗談じみた事を言った。

「ふふ、そうですね。もうそろそろお風呂の時間です。あ、ルカワさん、ごちそうさまってちゃんと言っていましたよ。忘れるくらい美味しかった、という事でしょうか?」

 ミーナはおかしげに返してきた。私の思惑は尽く看破されてしまう様である。時計は二十時過ぎを指していた。

 とにかくも一昨日と同じく燃石で湯を沸かし、ミーナに先に入ってもらうことにした。

 私は昨日風呂に入れていないので湯を汚しかねないからである。

 勿論、先に入るなら湯に浸かる前に身体を洗うが気分の問題がある。

 ミーナが入っている間に、明日の出発がスムーズに行くようある程度キャンプを片付けようと思ったが、離れると不安になるかもしれない。カーテン越しに声をかけたが今日は大丈夫だという。

 気を遣って言ってくれている可能性は大いにあるが、変に食い下がってもそれはそれでおかしいのでなるべく早く片付けを終わらせる事にした。

 実は今回の旅においてテントは必ずしも必要ではなかった。何故かと言うとこの荷馬車、しっかりした幌がついている為これ自体がテントの代わりになる。

 更に、荷台は上等な二層構造になっており下段に荷物、上段に人が乗れる様になっている事に加え車体が大きい為、布団を敷いても余裕の広さなのだ。

 それ故、風呂道具一式以外は片付けてしまっても問題ないのである。

 片付けに必要な明かりはミーナが出してくれた霊術光球が一時的に夜中の道路工事現場の強烈な照明じみた明るさになるので問題はない。ミーナの霊術はやはり凄い。

 とにかく片付けはササッと済ませ、風呂場へと向かい片付けが終わった事を伝えた。

 霊術光球は私でも操作出来るようにしてくれてあったので使った後はランタンくらいの明るさにしておくこともできた。
 
 かくしている内にミーナが風呂から上がり、私も風呂に入ってさっぱりした後、時計を見ると二一時過ぎを指している。

 カーテンを開けて先日と同じくミーナに水を抜いてから川に放ってもらって荷馬車に戻り、さて寝るか、と思っていると二人同時に欠伸が出た。

「ふふ、なんだか可笑しいです」
「全くその通りだなあ」

 二人してしみじみとしているとミーナは私に身体を預けて眠りについた。

 この理由がわからない訳ではない。彼女の信頼に応えるべきだろう。

 私もじきに瞼が重たくなってきた。
 どうやらこの世界では睡魔が仕事をするらしい。

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