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第10話 朝シチュー、霊術の糸口
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翌朝、日の光で目が覚めた。時計は八時を指している。ミーナを起こそうかと考えたが、自分から起きてきた。
「おはよう、ミーナ」
「んにゃ……おはようございまふ」
ここまでは普通のやり取りなのだが、この後が困った。起き上がったはずみか、ミーナの寝巻きが肩から落ちかけている。
このまま動けば寝巻きがはだけてしまう。
「ミーナ、動かないで」
そう言うと彼女は不思議そうな顔をしていたが、私はそのまま落ちかけていた寝巻きの肩を戻してあげた。
「んん?」
何とも間の抜けた声がした。彼女は寝起きがボケボケだ。
二拍程おいて事に気がついた様であたふたしていたが、すぐに取り直した。
「お、おはようございます……」
今度ははっきり朝の挨拶だ。先程の寝ぼけ挨拶は何とも間が抜けすぎている。
悪いわけではないが。
「朝食にしようか?」
「え、あ、はい!」
ミーナも本格的に目が覚めた様だ。
朝食は夜の様に大掛かりな道具を使う訳ではなく、向こうのキャンプ用カセットガスコンロのそれを使う。違いと言えば燃料が燃石であるという事くらいだ。
コンロに昨日のシチューの残りを入れた小さな鍋を置き、煮えてくるまで暫し待つ。一晩おいたシチューは更に美味いだろう。
「なぁ、どうして真空水球に入れなかったんだ? 疲れからなら心配だが……」
「ええっとですね、このシチューは真空保温よりも温め直しの方が美味しくなるんです。だから真空水球には入れなかったんですよ」
「ほー、料理によって使い分ける、という事か」
料理の保存や調理の良し悪しは到底分からないのでミーナの言葉に疑問はなかった。
それよりも色々話をしている内にシチューも煮えてきたので、いざ実食である。例のごとくパンに付ける訳だが美味くない筈がなかった。
大満足の朝食の後、出発し始めたのだが昨晩聞いたミーナの兄について、彼女から話が出た。ミーナの心持ちが心配だが話してくれる以上しっかり聞こう。
まず、名をヴァイクと言い、二三歳の若さで騎士団第一部隊副隊長を務める実力者で人望も厚いらしい。
売れぬ物書きの私とはまるで正反対であるが別段気にもならない。私はたいしたことのない人間だが、かといって他人の地位や名誉を羨むこともないのだ。
「凄いね、ミーナのお兄さんは。でも何故騎士を?」
「と、言いますと?」
「いや、ミーナの家系は霊術の才を持つ傾向にあるんだろう? なら霊術士や研究者をやっていてもおかしくないと思うんだ。もしやお兄さんは霊術が使えない?」
「ご明察です。正にその通り、兄様は霊術がてんで駄目なんです」
更に聞いてみると、彼は武芸に秀でており、また騎士に憧れがあったのも理由であるらしい。
それに彼は霊術こそ使えないが帯霊気に関しては霊術士のそれに優る程、ということが彼を副隊長たらしめる一因とのことだ。
なるほど、なるほどとミーナの話を聞いていると私の霊気、特に霊気口について話が出てきた。
先にも聞いていた通り私の霊気口は閉じているのだが、ミーナ曰く一種のサビつき状態になっているらしい。
霊気渡しをしている分には問題ないのだが、霊術を使う、というより使うための訓練をするにしてもそのサビを取らない事にはどうにもならないという。
「使える様になる、と言った手前、訓練すら出来ないのは申し訳ないのでサビ取りをして差し上げたく……」
「ああ、いやこちらこそお願いするよ。ありがとうな」
霊気口の修復には先ず霊気渡しを止める必要があったので、手を離した。
「詳しく調べますので前回と同じく額を」
そう言われ額を合わせて十数分程、霊気口を調べて貰った。
「正確にサビが分かりました。今から修復します」
と、言い、
「少々痛いかも知れませんが……っ!」
と、言うが早いか私の頭を掴んで鳩尾に思いっきり正拳突きを飛ばしてきた。
一瞬なにが起こったか分からなかったが次の瞬間もんどり打って転げてしまった。
いくらミーナが細腕とは言っても、不意打ちで鳩尾に一発まともに食らっては痛くて当然である。
情けない話ではあるが半分気絶しかけたし、そうでなくても転げ回ってしまった。
「はぁ……はー。痛たたた……」
「ああっ、やっぱり痛いですよね」
「いや、そろそろ大丈夫だ」
ミーナが焦ってしまったので、少々痛いが何とか返事をした。
「本来ならあれ程強く、しかも不意打つ様にはしないのですが、余りにも頑固なサビでしたので三属性を乗せた強引なサビ取りになってしまいました。通常ならこれくらいです」
そう言って指先でコツンと額を弾いた。
どうやら相当頑固なサビだったらしい。鳩尾辺りはまだ痛むが、憑き物が落ちるとは正に此のことかと思うほどスッキリしている。
今の状態で霊気渡しをしてみると違う感覚になるらしいのでやってみると霊気の流れが以前よりはっきり分かるから驚きだ。サビを取るだけでここまで違うのか。
そう言えば何故最初にサビ取りをしなかったのだろう。
その事を聞いてみると霊気の流れが全く分かっておらず、使ってもいない者に対していきなりサビ取りをすると、霊気が溢れてしまい霊気枯渇の原因になってしまうのだという。
ミーナは配慮してくれていた様だ。有り難い。
「とりあえずこれで霊術の練習ができます。ついでに霊気口を少し大きくしておきました」
あの一瞬でサラッと別のこともしてしまう彼女は相当の術者であるに間違いない。
暫くしてミーナが荷馬車を停め、
「今から少し練習してみましょう。霊気渡しのお陰で時間に余裕もありますので」
と、提案してきた。
「それじゃあよろしくお願いしようかな」
内心、霊術を使ってみたいと年甲斐もなく思っていたのでそう応えて二人で荷馬車を降りた。
「おはよう、ミーナ」
「んにゃ……おはようございまふ」
ここまでは普通のやり取りなのだが、この後が困った。起き上がったはずみか、ミーナの寝巻きが肩から落ちかけている。
このまま動けば寝巻きがはだけてしまう。
「ミーナ、動かないで」
そう言うと彼女は不思議そうな顔をしていたが、私はそのまま落ちかけていた寝巻きの肩を戻してあげた。
「んん?」
何とも間の抜けた声がした。彼女は寝起きがボケボケだ。
二拍程おいて事に気がついた様であたふたしていたが、すぐに取り直した。
「お、おはようございます……」
今度ははっきり朝の挨拶だ。先程の寝ぼけ挨拶は何とも間が抜けすぎている。
悪いわけではないが。
「朝食にしようか?」
「え、あ、はい!」
ミーナも本格的に目が覚めた様だ。
朝食は夜の様に大掛かりな道具を使う訳ではなく、向こうのキャンプ用カセットガスコンロのそれを使う。違いと言えば燃料が燃石であるという事くらいだ。
コンロに昨日のシチューの残りを入れた小さな鍋を置き、煮えてくるまで暫し待つ。一晩おいたシチューは更に美味いだろう。
「なぁ、どうして真空水球に入れなかったんだ? 疲れからなら心配だが……」
「ええっとですね、このシチューは真空保温よりも温め直しの方が美味しくなるんです。だから真空水球には入れなかったんですよ」
「ほー、料理によって使い分ける、という事か」
料理の保存や調理の良し悪しは到底分からないのでミーナの言葉に疑問はなかった。
それよりも色々話をしている内にシチューも煮えてきたので、いざ実食である。例のごとくパンに付ける訳だが美味くない筈がなかった。
大満足の朝食の後、出発し始めたのだが昨晩聞いたミーナの兄について、彼女から話が出た。ミーナの心持ちが心配だが話してくれる以上しっかり聞こう。
まず、名をヴァイクと言い、二三歳の若さで騎士団第一部隊副隊長を務める実力者で人望も厚いらしい。
売れぬ物書きの私とはまるで正反対であるが別段気にもならない。私はたいしたことのない人間だが、かといって他人の地位や名誉を羨むこともないのだ。
「凄いね、ミーナのお兄さんは。でも何故騎士を?」
「と、言いますと?」
「いや、ミーナの家系は霊術の才を持つ傾向にあるんだろう? なら霊術士や研究者をやっていてもおかしくないと思うんだ。もしやお兄さんは霊術が使えない?」
「ご明察です。正にその通り、兄様は霊術がてんで駄目なんです」
更に聞いてみると、彼は武芸に秀でており、また騎士に憧れがあったのも理由であるらしい。
それに彼は霊術こそ使えないが帯霊気に関しては霊術士のそれに優る程、ということが彼を副隊長たらしめる一因とのことだ。
なるほど、なるほどとミーナの話を聞いていると私の霊気、特に霊気口について話が出てきた。
先にも聞いていた通り私の霊気口は閉じているのだが、ミーナ曰く一種のサビつき状態になっているらしい。
霊気渡しをしている分には問題ないのだが、霊術を使う、というより使うための訓練をするにしてもそのサビを取らない事にはどうにもならないという。
「使える様になる、と言った手前、訓練すら出来ないのは申し訳ないのでサビ取りをして差し上げたく……」
「ああ、いやこちらこそお願いするよ。ありがとうな」
霊気口の修復には先ず霊気渡しを止める必要があったので、手を離した。
「詳しく調べますので前回と同じく額を」
そう言われ額を合わせて十数分程、霊気口を調べて貰った。
「正確にサビが分かりました。今から修復します」
と、言い、
「少々痛いかも知れませんが……っ!」
と、言うが早いか私の頭を掴んで鳩尾に思いっきり正拳突きを飛ばしてきた。
一瞬なにが起こったか分からなかったが次の瞬間もんどり打って転げてしまった。
いくらミーナが細腕とは言っても、不意打ちで鳩尾に一発まともに食らっては痛くて当然である。
情けない話ではあるが半分気絶しかけたし、そうでなくても転げ回ってしまった。
「はぁ……はー。痛たたた……」
「ああっ、やっぱり痛いですよね」
「いや、そろそろ大丈夫だ」
ミーナが焦ってしまったので、少々痛いが何とか返事をした。
「本来ならあれ程強く、しかも不意打つ様にはしないのですが、余りにも頑固なサビでしたので三属性を乗せた強引なサビ取りになってしまいました。通常ならこれくらいです」
そう言って指先でコツンと額を弾いた。
どうやら相当頑固なサビだったらしい。鳩尾辺りはまだ痛むが、憑き物が落ちるとは正に此のことかと思うほどスッキリしている。
今の状態で霊気渡しをしてみると違う感覚になるらしいのでやってみると霊気の流れが以前よりはっきり分かるから驚きだ。サビを取るだけでここまで違うのか。
そう言えば何故最初にサビ取りをしなかったのだろう。
その事を聞いてみると霊気の流れが全く分かっておらず、使ってもいない者に対していきなりサビ取りをすると、霊気が溢れてしまい霊気枯渇の原因になってしまうのだという。
ミーナは配慮してくれていた様だ。有り難い。
「とりあえずこれで霊術の練習ができます。ついでに霊気口を少し大きくしておきました」
あの一瞬でサラッと別のこともしてしまう彼女は相当の術者であるに間違いない。
暫くしてミーナが荷馬車を停め、
「今から少し練習してみましょう。霊気渡しのお陰で時間に余裕もありますので」
と、提案してきた。
「それじゃあよろしくお願いしようかな」
内心、霊術を使ってみたいと年甲斐もなく思っていたのでそう応えて二人で荷馬車を降りた。
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