【敵→恋】春雪に咲く花【探偵ミステリーBL】

郁雨いくううう!

文字の大きさ
24 / 55

【敵同士→恋】7話(1)【探偵ミステリーBL】

しおりを挟む



パチリと目が覚め、伸びをして身体を起こす。
数日ぶりに感じる、健やかな目覚めだった。

横を見ると、折りたたみベッドのそばにオイルヒーターが置かれている。
どうりで寒くないわけだ。

カーテンの隙間から射し込む朝の光が、薄暗い室内をぼんやり照らしていた。

家具らしい家具はなく、床にはオーディオや新聞、ファイルや本が直接散らばっている。
寝室というより、仮眠室のようだ。
部屋の隅のサイクリングマシーンだけが、生活の痕跡を示していた。

陽向はそっとベッドから抜け出し、裸足のまま廊下へ出る。
隣の部屋は二十畳ほどの広さで、ひと続きの空間だった。

大通りに面した窓際には木製のデスクと資料棚、その右手には応接用のソファセット。
デスクとソファの間は観葉植物と籐製パーティションでゆるく仕切られている。

一目見て、陽向はこの部屋が気に入った。
おしゃれというより、田舎の祖母の家のような温もりがある。
家具も木目調や自然素材で統一され、どこかほっとする居心地のよさがあった。

視界の端で、もぞりと何かが動く。
茶革のソファの上に、こんもりと毛布の山。
その山がスースーと規則正しい呼吸に合わせて上下していた。

足音を忍ばせて近づくと——やはり玄沢だった。

顔の半分まで毛布をかぶり、窮屈そうに丸まって眠っている。

子供のような寝方に、陽向の口元に自然と笑みが浮かぶ。
ソファの前に膝をついて、しばらくの間その寝顔を眺めた。

ここは玄沢の探偵事務所なのだろう。
昨夜のあと、自分をここまで運んできたに違いない。

(あ~! 本当、なんであんなことに……!)

昨日の記憶がぶり返し、思わず腕の中に顔をうずめる。

けれど——気持ちよかったのも事実だ
それも、かなり。

おかげで体も軽く、頭もすっきりしている。
腹の奥に溜まっていた怒りや失望は、欲望と一緒に吐き出してしまったらしい。

(……もう、荒療治だと思って割り切るしかない。お互いのためにも)

壁時計は五時半を指していた。
今からなら、一度ホテルに戻っても仕事に間に合う。
陽向はテーブルに置き手紙を残し、そっと部屋を出ようとする。

「……どこへ行くんだ?」

毛布の山がもぞりと動き、玄沢が寝返りを打った。
顔だけ出して、じっとこちらを見ている。

「え~と、おはよう?」
「……どこへ行くんだ?」

寝ぼけているのか、玄沢の声は妙に甘い響きを帯びていた。
陽向を見つめる視線も、夢心地のようにぽやぽやしている。
今までの玄沢からは考えられない様子に、陽向は笑いをこらえるのに必死だった。

「ええっと、今日は仕事だし、帰ろうかと」
「仕事……」

長い沈黙のあと、玄沢は「あぁ」とつぶやく。

「そうか……今日は月曜だった……」

玄沢はよろよろと起きあがり、あくびをひとつして大きく伸びをした。
そのまま立ち上がるのかと思いきや、膝に肘をつけたまま、ぼんやりと陽向を見つめている。

「あの……大丈夫?」
思わず聞くと、玄沢は眠たそうに瞬きを繰り返し、

「……あぁ」

と頭をがしがしとかいた。

どうやら、玄沢は朝が弱いらしい。
陽向は心の中のメモ帳にしっかりと書き込み、今度こそ部屋を出ようとした。

昨日のようなことがあったあとで、二人きりは気まずい。
サッと逃げるように頭を下げる。

「色々とご迷惑おかけしました。お礼は今度、必ず。じゃ」
「待て」

振り返ると、玄沢が人差し指で「こっちへ来い」と合図していた。
その傲慢な呼び方に、普段ならムッとするところだが、寝起きということに免じて許してやる。

「……お前、なに考えてる?」
ソファの前まで行くと、玄沢は寝ぼけた声ながらも、真っ直ぐな瞳で問いかけてきた。

「何って、何が?」
「昨日の話、まだ終わってない、だろう……?」
「あ、あぁ」

昨日の夜、海斗の件でぶつかったことを思い出す。

もちろん、陽向は「自分で探す」という意志を変えるつもりはない。
しかし、こんな清々しい朝——近年まれにみる清々しい朝に、口論などしたくはない。

陽向は両手を上げて、降参のポーズを取る。

「わかった。わかったよ。一人じゃ動かない。それでいいんだろう?」
「……本当だな?」
「本当、本当。誓いま——わっ!」

いきなり手首をつかまれ、そのままソファに引き込まれる。
二人分の体重を受けて、ソファがギシリと鳴った。


○●----------------------------------------------------●○

ご覧いただき、ありがとうございます。

現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺

■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI


○●----------------------------------------------------●○
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...