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【敵同士→恋】7話(1)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟むパチリと目が覚め、伸びをして身体を起こす。
数日ぶりに感じる、健やかな目覚めだった。
横を見ると、折りたたみベッドのそばにオイルヒーターが置かれている。
どうりで寒くないわけだ。
カーテンの隙間から射し込む朝の光が、薄暗い室内をぼんやり照らしていた。
家具らしい家具はなく、床にはオーディオや新聞、ファイルや本が直接散らばっている。
寝室というより、仮眠室のようだ。
部屋の隅のサイクリングマシーンだけが、生活の痕跡を示していた。
陽向はそっとベッドから抜け出し、裸足のまま廊下へ出る。
隣の部屋は二十畳ほどの広さで、ひと続きの空間だった。
大通りに面した窓際には木製のデスクと資料棚、その右手には応接用のソファセット。
デスクとソファの間は観葉植物と籐製パーティションでゆるく仕切られている。
一目見て、陽向はこの部屋が気に入った。
おしゃれというより、田舎の祖母の家のような温もりがある。
家具も木目調や自然素材で統一され、どこかほっとする居心地のよさがあった。
視界の端で、もぞりと何かが動く。
茶革のソファの上に、こんもりと毛布の山。
その山がスースーと規則正しい呼吸に合わせて上下していた。
足音を忍ばせて近づくと——やはり玄沢だった。
顔の半分まで毛布をかぶり、窮屈そうに丸まって眠っている。
子供のような寝方に、陽向の口元に自然と笑みが浮かぶ。
ソファの前に膝をついて、しばらくの間その寝顔を眺めた。
ここは玄沢の探偵事務所なのだろう。
昨夜のあと、自分をここまで運んできたに違いない。
(あ~! 本当、なんであんなことに……!)
昨日の記憶がぶり返し、思わず腕の中に顔をうずめる。
けれど——気持ちよかったのも事実だ
それも、かなり。
おかげで体も軽く、頭もすっきりしている。
腹の奥に溜まっていた怒りや失望は、欲望と一緒に吐き出してしまったらしい。
(……もう、荒療治だと思って割り切るしかない。お互いのためにも)
壁時計は五時半を指していた。
今からなら、一度ホテルに戻っても仕事に間に合う。
陽向はテーブルに置き手紙を残し、そっと部屋を出ようとする。
「……どこへ行くんだ?」
毛布の山がもぞりと動き、玄沢が寝返りを打った。
顔だけ出して、じっとこちらを見ている。
「え~と、おはよう?」
「……どこへ行くんだ?」
寝ぼけているのか、玄沢の声は妙に甘い響きを帯びていた。
陽向を見つめる視線も、夢心地のようにぽやぽやしている。
今までの玄沢からは考えられない様子に、陽向は笑いをこらえるのに必死だった。
「ええっと、今日は仕事だし、帰ろうかと」
「仕事……」
長い沈黙のあと、玄沢は「あぁ」とつぶやく。
「そうか……今日は月曜だった……」
玄沢はよろよろと起きあがり、あくびをひとつして大きく伸びをした。
そのまま立ち上がるのかと思いきや、膝に肘をつけたまま、ぼんやりと陽向を見つめている。
「あの……大丈夫?」
思わず聞くと、玄沢は眠たそうに瞬きを繰り返し、
「……あぁ」
と頭をがしがしとかいた。
どうやら、玄沢は朝が弱いらしい。
陽向は心の中のメモ帳にしっかりと書き込み、今度こそ部屋を出ようとした。
昨日のようなことがあったあとで、二人きりは気まずい。
サッと逃げるように頭を下げる。
「色々とご迷惑おかけしました。お礼は今度、必ず。じゃ」
「待て」
振り返ると、玄沢が人差し指で「こっちへ来い」と合図していた。
その傲慢な呼び方に、普段ならムッとするところだが、寝起きということに免じて許してやる。
「……お前、なに考えてる?」
ソファの前まで行くと、玄沢は寝ぼけた声ながらも、真っ直ぐな瞳で問いかけてきた。
「何って、何が?」
「昨日の話、まだ終わってない、だろう……?」
「あ、あぁ」
昨日の夜、海斗の件でぶつかったことを思い出す。
もちろん、陽向は「自分で探す」という意志を変えるつもりはない。
しかし、こんな清々しい朝——近年まれにみる清々しい朝に、口論などしたくはない。
陽向は両手を上げて、降参のポーズを取る。
「わかった。わかったよ。一人じゃ動かない。それでいいんだろう?」
「……本当だな?」
「本当、本当。誓いま——わっ!」
いきなり手首をつかまれ、そのままソファに引き込まれる。
二人分の体重を受けて、ソファがギシリと鳴った。
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺
■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
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