【敵→恋】春雪に咲く花【探偵ミステリーBL】

郁雨いくううう!

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【敵同士→恋】7話(2)【探偵ミステリーBL】

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「ちょっ、玄沢さん!?」

気づけば、すぐ目の前に玄沢の顔があった。
逞しい腕が、自身の上に乗り上げた陽向の体を支え、その腰へと回っている。

「——良かった」

ふっと、玄沢は穏やかに笑った。
目じりを弛ませ、蕩けそうなほどの笑顔。
その瞬間、陽向の心臓は大気圏を突破したみたいに、無重力状態になった。

「ぷ、あはははっ……!」

頬にかかる陽向の髪がくすぐったかったのか、玄沢は急に陽気に笑い出した。
その様子に、陽向はじわじわと背筋に寒気を覚える。

「く、玄沢さん……もしかして、まだ寝ぼけてるの?」
「ははは……さあな! ははははっ……!!」

こりゃ、完全に寝ぼけてるな。

玄沢の腕は腰にがっしりと回り、びくともしない。
体格差に加え、部屋にあったトレーニングマシンの数々を思えば、勝てるはずもなかった。

ふと、無骨な指が首の後ろに滑り込む。
そして感触を確かめるように、ゆっくりと陽向の肌をなぞった。

「く、玄沢さん……?」

慌てて顔を上げると、真剣な色を帯びた黒い瞳が真正面から射抜いてきた。

「お前が……」

玄沢は舌を湿らせ、慎重に言葉を紡ぐ。

「今まで、自分一人の力で生きてきたことは、調査でわかっている。
 おばあ様が亡くなってからも、都会に出てからも──誰も自分を知らない土地で気を張って……」

玄沢の喉仏が、ゆっくり隆起する。

「辛かったら、誰かに頼っていい。甘えてもいいんだ」

玄沢の眉が切なげにきゅっと寄り、腰に回した腕に力がこもる。

「昨日も言ったが、お前を見ていると、甘やかしたくてたまらなくなる。だから──俺をもっと頼ってくれ」

命令でも叱責でもない。
乞うような声に、陽向はぐらりと目眩を覚えた。

気づけば、もう玄沢と唇を重ねていた。

どちらからともなく、自然に近づいていた。
林檎が木から落ちるように、太陽が東から昇るように──何の違和感もなく。

「んっ、ふ……」

触れるだけだった口づけは、徐々に深まる。
冷えきった舌が絡み合い、吐息が溶けていく。

その間も玄沢の大きな手のひらが、髪をやさしく煽るようにまさぐった。

その心地よさに、喉が鳴る。
距離を崩したくなくて、陽向は相手の肩口の服をぎゅっと握りしめる。

ガンガンと頭の中で警鐘が鳴っていた。
このキス一つで、今まで自分が必死に積み上げてきたもの全てが、崩れてしまうような気がした。

人を頼らないという自立心。
誰かの役に立つ、価値ある存在でなければならないという強迫観念。

なのに、玄沢の腕の中では思ってしまう。
──このまま、彼の大きな胸と腕に、すべてを委ねてしまいたい、と。

そんな陽向を煽るように、腰に回る玄沢の腕がさらに強く締まる。
二人の身体が密着し、互いの腰骨が当たった瞬間、陽向はずくりと身体の奥が疼くのを感じた。

「あっ、玄沢さんっ……俺……」

わずかに身を引いた瞬間、信じられない光景が目に飛び込む。

スー。スー。スー。

玄沢は安らかな寝息を立てていた。

陽向はあんぐりと口を開け、何が起こったのか必死に理解しようとした。
ゆっくり、ゆっくりと、笑いが身体の奥からこみ上げてきた。
そして最後には、盛大に吹き出していた。

(そうだ、そうだよなっ! 寝ぼけてただけだよなっ……!)

玄沢はゲイではない。
今みたいに寝ぼけていない限り、こんなことはありえないのだ。

(……きっと玄沢さんも、疲れすぎて頭がどうにかなってたんだろう。昨日の俺みたいに)

そう自分に言い聞かせ、陽向は相手の額にデコピンを食らわせた。

「海斗なんかより、あんたの方がひどい男だな」


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■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI


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