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【敵同士→恋】8話(3)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟むドカーンと大きな爆弾が、頭に投下された気がした。
——屈辱だ。
海斗に情けをかけられていたことも、他人の口からそれを知らされたことも。
穴があれば、どこまでも潜って消えてしまいたい。
いや、そんな悠長なことは言っていられない。
今すぐ掘削機でアパートごと粉砕してしまいたい——そんな気分だった。
「……おい、大丈夫か?」
玄沢が肩を強くつかむ。
このままでは陽向が店中のグラスを叩き割りかねない、とでも思っているように。
陽向はハッと我に返った。
「大丈夫だよ」
ようやく出た声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
数秒前まで怒りは大気圏を突き抜けそうだったが、玄沢の存在が、かろうじて理性を繋ぎとめてくれている。
陽向はふうと大きく息を吐くと、セナに向かって微笑んでみせた。
「あいつがドMだろうと、フェムドム趣味だろうと、もう関係ない。あいつとは、別れた——というより、そもそも付き合ってなんかなかったんだ」
「え……?」
意外にも声を上げたのは玄沢だった。
陽向の肩にかかっていた手の力がふっと緩む。
セナはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「まぁ、私にも関係ない話だわ。あれ以来、海斗とは連絡とってないし」
「そのことなんだが——」
玄沢が慌てて陽向を後ろへ引き、自分が前に出る。
「謝花(じゃばな)が、どこに行ったか知らないか?」
「謝花? あぁ、海斗のことね。知らない。何で?」
「失踪したんだ」
短く切るように玄沢が言った。
「君と会った翌日にね。行き先や行きそうな場所に心当たりは?」
「あるわけないでしょ。なりゆきで寝ただけなんだから……でも、そういえば焦ってたわ。『早く金を作らなくちゃ』『逃げなくちゃ』って」
「逃げる? 一体、何から?」
玄沢と陽向が、思わず視線を交わす。
「さぁね。正妻からじゃない? キレると手がつけられないって言ってたし」
「誰が——!」
「話は変わりますが——」
玄沢がセナから陽向を守るように——いや、陽向からセナを守るように、立ちふさがった。
「失礼を承知で聞きます。近々、性転換手術を受ける予定は?」
陽向に向かってイーッと舌を出していたセナが、一瞬驚いた顔になる。
「えぇ、あるわよ。今はホルモン注射だけだけど、そのうち下も」
「その費用は?」
「十代から積み立ててる分がある」
「……それを、謝花氏に話しましたか?」
セナは、誇らしげに豊かな胸を張った。
「もちろん。こういう話をすると、男はたいてい『派手だけど根は真面目』って思ってくれるから。海斗なんて顔もスタイルもいいし、絶対落としたくてね」
「それで、謝花氏は何と……?」
「名刺をくれたわ。安くていい医者がいるって。前金が必要だと言われたけど、それでも安くて。海斗ったら、余ったお金で結婚式を挙げようって言うものだから、つい」
「結婚式? 奴がそう言ったんですか?」
「そうよ。今考えると急すぎるけど、あの顔と声で言われると逆らえなくて」
「で、渡したんですか?」
「金を? いいえ。渡さなかった」
「なぜ?」
セナは、にやりと笑った。
「あいつ、私のサイズをすっかり気に入っちゃって。ヤった後は何も言わなくなったのよ。コレを無くすのが惜しかったんじゃない?」
「ちょ、ちょっと待って……!」
陽向は玄沢の肩を掴む。
全身に嫌な予感が走った。
「一体、何の話!? 全然ついていけないんだけど!」
玄沢は陽向の手をそっと下ろし、ママのいる席へ向かう。
懐から一枚の写真を取り出し、テーブルに置いた。
「ママ。この男が詐欺被害者の店に来たか、個人的に付き合っていたか——繁華街の全店舗に確認をお願いします」
「わかったわ。すぐ確認する」
ママは煙草をもみ消し、写真を手に取る。
陽向は彼女の背後から覗き込み、息を呑んだ。
沖縄の青い海を背に、かりゆしウェアでキザにポーズを決める男。
そこに写っていたのは——間違いなく、海斗だった。
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺
■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
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