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【敵同士→恋】9話(2)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む降る雪の音さえ聞こえそうな沈黙が、部屋を支配していた。
やがて、玄沢がゆっくりと口を開く。
「早まるな。まだ、奴が詐欺の犯人だと決まったわけではない」
「じゃあ、玄沢さんはどう思っているの?」
玄沢はじっと陽向を見据え、言葉を選びながら答えた。
「限りなくクロに近いグレーってところだな」
そう言うと、彼は膝の上で肘を組み、身を乗り出してきた。
「今だから言うがな、謝花のボディガードをしていた頃から、何かがおかしいと思っていたんだ。急に『お前は尾行の方に回れ』とか、『女と会うから別の場所で待っていろ』とか言ってきたりしてな」
玄沢は低く息を吐いた。
「それで、やばいことに足を突っ込んでいるんじゃないかと疑って、こっそり調べた。懸念が確信に変わったのは、詐欺の被害を訴えてきた相手が、謝花が五股していたうちの一人だとわかった時だ」
「五股っ!? まさか、その全員が詐欺に……?」
「さぁな。それはまだわからん。被害者が名乗り出てこないからな」
陽向は額に手をやり、乾いた笑いをこぼした。
「ははは、笑える。被害者の一人なら、ここにもういるけどな」
玄沢はそれに答えず、早口で続ける。
「謝花の手口はこうだ。女装バーやクラブで、性転換手術に興味を持ちそうな相手を探す。そして口説き落とすんだ。『結婚したいから、俺のために女になってくれ』とか、『ちゃんと親に紹介したいから』とか、甘い言葉を並べてな」
彼の声は淡々としていたが、その目は鋭かった。
「そうやってターゲットをその気にさせ、知り合いに『いい医者がいる』と紹介して、前金をぶんどる。そして金が手に入った途端、適当に別れて姿を消す。
……それの繰り返しだ。一見アバウトすぎる手口に見えるが、謝花のあの顔と情熱的な口ぶりにかかったら、コロッと信じてしまう奴も多かったらしい」
陽向は苦笑いを浮かべ、頷いた。
「わかる気がする。海斗って、人の懐に入るのが得意っていうか……基本バカだから、警戒心を抱かせないんだ」
「まさに、そこだよ」
玄沢は出来のいい生徒を誉めるかのように微笑む。
「どう考えても、あの謝花にこれだけのことを一人でやれる頭はない。必ず黒幕がいるはずだ。あいつは獲物を釣るためのルアー——派手で中身のない疑似餌にすぎない」
「ひどいいい様だな」
「お前ほどじゃないさ」
さらっと言うと、玄沢は少し間を置いて、気乗りしなさそうに続けた。
「……俺が調べたところによると、あの男がターゲットと付き合っていたのは、短くて三日、長くて二週間程度だ。その間、誰とも一緒には暮らしていないし、ましてや一年も……」
陽向は、思わず相手をまじまじと見た。
「もしかして、慰めてくれているの?」
「違う。事実を述べているだけだ」
「でも結局、俺もみんなと同じように、金をぶんどられて逃げられた。……だろう?」
「だが、お前は泣き寝入りはしないんだろう?」
やけに真剣な表情で、玄沢が問いかける。
陽向はバンとテーブルに手をつき、勢いよく立ち上がった。
「当たり前だ! こうなりゃ、とことん戦ってやるだけだ!」
「それを聞いて安心した」
玄沢は満足そうに頷き、ゆっくり瞼を伏せる。
「……認めたくはないが、謝花とお前の間に何らかの〝情〟があることは否定できない」
「依存じゃなくて?」
「揚げ足を取るな。ただ……そういうこともあるんだと気づかされただけだ。言葉にできない関係性というヤツがな」
玄沢は視線を泳がせ、やがて強ばった声で尋ねた。
「……ひとつ聞くが。謝花のことは、好きだったか? いや、今でも好きなのか? ……その、恋愛的な意味で」
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
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■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
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