【敵→恋】春雪に咲く花【探偵ミステリーBL】

郁雨いくううう!

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【敵同士→恋】9話(3)【探偵ミステリーBL】

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陽向は考える間もなく答えた。

「いや、ないよ。一度もない」
「即答だな。本当に一度も? 少しも?」

食い下がってくる相手に、陽向は苛立ったように髪を掻き上げる。

「……あのね。俺だって一応、それなりに経験を積んできた大人だ。自分の気持ちが恋愛かどうかくらいわかる」

ふっと息を吐く。

「海斗といると、楽しくて楽だったけど……胸がドキドキして、締めつけられるようなことは一度もなかった。ただ、一度も」

胸元に手を置く。

海斗に対して抱いていたものは、端的に言えば「郷愁」と「怠惰」と「ちょっとした性欲」が入り混じった、変則的な友情。
——それ以上でも以下でもない。

今ならはっきり言える。

なぜなら——。
目の前の玄沢を見た。

今、この瞬間、玄沢と向き合い、目を合わせている時の鼓動、体温、疼き、切なさ。
たぶん、これこそが「恋」をしている時の感覚だ。

(そっか……俺、玄沢さんが好きだったんだ……)

これまでは海斗への怒りに心が支配されすぎて、気づけなかった。

だが思い返せば、アパートの前で初めて会った時から——いや、駅前で偶然見かけた時から、心を奪われていたのだ。

(そうだ。俺は玄沢さんが好きなんだ)

自覚した途端、想いが雪解け水のように、どっと胸にあふれ出す。

(……玄沢さんは、俺のこと、どう思っているんだろう?)

視線を向ける。
目の前で何も知らずにお茶をすすっている男。

玄沢はストレートだ。
みんながそう言うし、本人も否定していない。

けれど、昨日の物置部屋での一件や、今朝のキスのことを思えば——
もしかしたら頑張り次第で、何とかなる問題なのかもしれない。

たとえ欲求不満や寝ぼけのせいだったとしても、嫌いな相手にあんなことはしない……はずだ。

(となると、まずは現状を好転させないと。今までは散々、情けないところとか怒りっぽいところとか見せちゃったから……これからはもっとスマートで落ち着いたところを見せて、好感度を上げて……。あ、映画とかに誘うのもいいかも。玄沢さんはどんなジャンルが好きなんだろう? やっぱりミステリーとか?)

駅前での待ち合わせを妄想する。
スーツではなく、以前見たラフな私服姿。
子供っぽい笑顔で手を振ってくる玄沢——。

(うぅ~やばいっ! 絶対かっこいいんだろうなぁ~!)

思わず口元がにやけてしまう。

玄沢は海斗に負けず劣らず——いや、ある意味では海斗以上のいい男だ。

見た目に頓着しない点を差し引いても、身体は鍛えられ、強引さはあるが真面目で理性的。
年齢ならではのダンディな色気さえある。

(ん? ちょっと待てよ)

妄想に浮かされていた意識が、急に現実へ引き戻された。

(今夜、もしかして……ここで二人っきり……!?)

雪がしんしんと降り積もる静かな夜。
閉じ込められた二人。

——何が起こっても不思議じゃない。

意識した途端、体温が急上昇した。
爆発寸前の心臓が喉元までせり上がってくる。
ギシギシと雪の重さでしなる枝の音が、やけに大きく響いた。

(ぎゃあぁ~! このまま、このまま、どうなっちゃうんだっ……!)

心の中で手足をバタバタさせていると——。

「さてと」

玄沢が立ち上がり、ソファにかけてあったコートを手にとった。

「俺、そろそろ帰るから」
「……へ?」
「だから、自分のマンションに帰るんだ。これ以上、雪がひどくなる前にな」

そう言って、玄沢はテキパキと説明をし始める。

「ユニットで良ければ、あっちに風呂はある。着替えはサイズが小さいのを適当に出しておく。腹が減ったら冷蔵庫の中から適当にとれ。インスタントも水場の下に多少ストックしてある。質問は?」
「あ、いえ……ないです」
「了解。戸締まりはしっかりしろよ。じゃ」

足早に玄沢が出ていく。
しばらく呆然としていた陽向は、見送りのために慌てて玄関へ駆け込んだ。

「陽向」

ドアが閉まる直前、玄沢が何か言い忘れたように隙間から顔を覗かせる。

真剣な表情に、一瞬ドキリとした。だが返ってきたのは、ときめきとは無縁の言葉だった。

「いいか。バカなことだけはするなよ」

念を押すかのような厳しい声。
そのまま、ドアはパタンと閉まった。

しーん。沈黙が部屋を満たす。


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ご覧いただき、ありがとうございます。

現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
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■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI

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