32 / 55
【敵同士→恋】9話(3)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む陽向は考える間もなく答えた。
「いや、ないよ。一度もない」
「即答だな。本当に一度も? 少しも?」
食い下がってくる相手に、陽向は苛立ったように髪を掻き上げる。
「……あのね。俺だって一応、それなりに経験を積んできた大人だ。自分の気持ちが恋愛かどうかくらいわかる」
ふっと息を吐く。
「海斗といると、楽しくて楽だったけど……胸がドキドキして、締めつけられるようなことは一度もなかった。ただ、一度も」
胸元に手を置く。
海斗に対して抱いていたものは、端的に言えば「郷愁」と「怠惰」と「ちょっとした性欲」が入り混じった、変則的な友情。
——それ以上でも以下でもない。
今ならはっきり言える。
なぜなら——。
目の前の玄沢を見た。
今、この瞬間、玄沢と向き合い、目を合わせている時の鼓動、体温、疼き、切なさ。
たぶん、これこそが「恋」をしている時の感覚だ。
(そっか……俺、玄沢さんが好きだったんだ……)
これまでは海斗への怒りに心が支配されすぎて、気づけなかった。
だが思い返せば、アパートの前で初めて会った時から——いや、駅前で偶然見かけた時から、心を奪われていたのだ。
(そうだ。俺は玄沢さんが好きなんだ)
自覚した途端、想いが雪解け水のように、どっと胸にあふれ出す。
(……玄沢さんは、俺のこと、どう思っているんだろう?)
視線を向ける。
目の前で何も知らずにお茶をすすっている男。
玄沢はストレートだ。
みんながそう言うし、本人も否定していない。
けれど、昨日の物置部屋での一件や、今朝のキスのことを思えば——
もしかしたら頑張り次第で、何とかなる問題なのかもしれない。
たとえ欲求不満や寝ぼけのせいだったとしても、嫌いな相手にあんなことはしない……はずだ。
(となると、まずは現状を好転させないと。今までは散々、情けないところとか怒りっぽいところとか見せちゃったから……これからはもっとスマートで落ち着いたところを見せて、好感度を上げて……。あ、映画とかに誘うのもいいかも。玄沢さんはどんなジャンルが好きなんだろう? やっぱりミステリーとか?)
駅前での待ち合わせを妄想する。
スーツではなく、以前見たラフな私服姿。
子供っぽい笑顔で手を振ってくる玄沢——。
(うぅ~やばいっ! 絶対かっこいいんだろうなぁ~!)
思わず口元がにやけてしまう。
玄沢は海斗に負けず劣らず——いや、ある意味では海斗以上のいい男だ。
見た目に頓着しない点を差し引いても、身体は鍛えられ、強引さはあるが真面目で理性的。
年齢ならではのダンディな色気さえある。
(ん? ちょっと待てよ)
妄想に浮かされていた意識が、急に現実へ引き戻された。
(今夜、もしかして……ここで二人っきり……!?)
雪がしんしんと降り積もる静かな夜。
閉じ込められた二人。
——何が起こっても不思議じゃない。
意識した途端、体温が急上昇した。
爆発寸前の心臓が喉元までせり上がってくる。
ギシギシと雪の重さでしなる枝の音が、やけに大きく響いた。
(ぎゃあぁ~! このまま、このまま、どうなっちゃうんだっ……!)
心の中で手足をバタバタさせていると——。
「さてと」
玄沢が立ち上がり、ソファにかけてあったコートを手にとった。
「俺、そろそろ帰るから」
「……へ?」
「だから、自分のマンションに帰るんだ。これ以上、雪がひどくなる前にな」
そう言って、玄沢はテキパキと説明をし始める。
「ユニットで良ければ、あっちに風呂はある。着替えはサイズが小さいのを適当に出しておく。腹が減ったら冷蔵庫の中から適当にとれ。インスタントも水場の下に多少ストックしてある。質問は?」
「あ、いえ……ないです」
「了解。戸締まりはしっかりしろよ。じゃ」
足早に玄沢が出ていく。
しばらく呆然としていた陽向は、見送りのために慌てて玄関へ駆け込んだ。
「陽向」
ドアが閉まる直前、玄沢が何か言い忘れたように隙間から顔を覗かせる。
真剣な表情に、一瞬ドキリとした。だが返ってきたのは、ときめきとは無縁の言葉だった。
「いいか。バカなことだけはするなよ」
念を押すかのような厳しい声。
そのまま、ドアはパタンと閉まった。
しーん。沈黙が部屋を満たす。
○●----------------------------------------------------●○
ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺
■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
○●----------------------------------------------------●○
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
