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【敵同士→恋】14話(1)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む「……玄沢さん」
今にも泣き出しそうな声が出て、自分でも驚く。
「おい、聞こえなかったか!? その汚い手を早くどけろっ!」
再び玄沢が格子を蹴り上げた。
今にも壊れそうなほどの衝撃音が響く。
「……は、はいっ!」
海斗は慌てて、陽向の尻から手を離した。
陽向はすぐさまチノパンを引き上げ、格子の向こうに目を向ける。
玄沢は、それだけで人を殺せそうなほどの剣幕だった。
目は血走り、額には青筋が浮かび、頬はこけ、無精髭も伸び放題だ。
「陽向、出ろ」
顎で扉を示される。
「え、でも……」
「いいから早く出ろ!」
「い、いえっさー!」
陽向は慌てて跳ね起きる。
扉の前で、玄沢がボンレス君に手を差し出していた。
「鍵をだせ」
ボンレス君はブルブル震えながら、首を振った。
「で、できません。誠吾さんから『ここからは出すな』と……」
「いいから出せと言っているんだ!」
怒号が狭い牢に轟いた。
玄沢は呼吸を整えると、一語一語噛みしめるように言う。
「ただ陽向と話をするだけだ。誠吾の許可も取ってある。でなきゃ、ここまで来られないだろう」
ボンレス君は納得して——というより、恐怖に負けて、鍵を渡した。
ガチャリ。
鍵が回る音とともに格子扉が開く。
すぐさま玄沢の腕が伸び、陽向は引っ張り出された。
「いいか。謝花を一歩たりとも外に出すな」
通りざまに玄沢が鍵を放り、ボンレス君が慌ててキャッチする。
「は、はいっ……!」
彼はそのまま、軍人のように最敬礼した。
「やばい……誠吾さんよりも怖いかも」
土牢の扉が閉まりかけた時、ボンレス君のつぶやきが聞こえた。
※
地下牢を出ると、白木造りの長い廊下が続いていた。
天井から吊るされた行灯が白い障子をぼんやり照らし、庭に面したガラス戸からは、ライトアップされた庭園の光が静かに差し込んでくる。
「玄沢さん? ——痛っ!」
出た瞬間、階段口の脇で壁に押しつけられた。
玄沢の掌が顔のすぐ横にバンと打ちつけられる。
目の前に迫る黒い瞳は、感情を塗りつぶしたように深く、陽向をじっと見下ろしていた。
陽向はどうしていいかわからず、視線を彷徨わせる。
「えっと……どうして、ここに……? ていうか、俺の居場所が何で……?」
「お前がアパートで血を見つけた時点で、おおよその察しはついていた。だから、諜報で動いていた松葉組の組員に接触し、お前のことを聞き出したんだ」
玄沢の声は淡々としていた。
「じゃあ……まさか、誠吾さんに俺の情報を教えたのも……?」
「ああ、俺だ。お前が詐欺と無関係だということも構成員に伝えたつもりだったが……うまくいかなかったらしいな」
玄沢は、乱れたシャツに目をやり、眉をひそめた。
そして、再び陽向の目を見すえる。
「……陽向。俺に、何か言うことは?」
来た——と陽向は思った。
でも、何を言えばいい?
「連絡しなくてごめんなさい」?
「今回、俺は悪くない」?
それとも、「怖かった」と抱きつけばいいのか?
——わからない。
玄沢は、どれを望んでいる?
他の相手なら簡単だった。
ベッドの中で、相手の望みを先回りして読み取り、サービスするくらいお手のものだった。
もし今、玄沢が求めている〝正解〟を差し出せたら、この場はまるく収まる。
きっと自分を気に入って、離れないでいてくれる——。
(……いや、違う)
この人は、そんなことで離れていくような人じゃない。
たとえ自分が期待を裏切ったとしても、失望したからといって切り捨てる人じゃない。
(俺の、悪い癖だ)
自分を「価値ある存在」に見せようと、誰かの期待ばかりに応えようとしてしまうのは。
でも、本当に大事なのは——相手の望みじゃない。
自分の気持ちを、素直に言葉にすることだ。
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
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■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
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