51 / 55
【敵同士→恋】15話(2)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む「これは?」
誠吾は書類を手に取らず、代わりに玄沢を見やった。
「名乗り出なかった被害者たち全員の証言を集めたものだ」
玄沢は淡々と告げる。
「これによると、海斗は詐欺グループが架空に作った美容形成外科医の名刺を渡しただけで、契約とは直接関わっていなかったことがわかった」
「名乗り出なかった? なぜそんなことを? 被害者は、金を騙し取られたんだろう?」
誠吾の眉間に、深い皺が刻まれる。
理解不能——とでも言いたげに、苛立ちがその表情ににじんでいた。
それを正面から受け止めながら、玄沢はわずかに首を振った。
「みんながみんな、お前のように〝真実を明るみにしたがる〟わけじゃない。長い間、マイノリティであり続けた者たちは……自らの身を隠す術を、自然と身につけてきた」
玄沢はゆっくりと視線を下げる。
「たとえ、どんな目に遭おうと——世間にも、警察にも、そして……自分自身にさえ口を噤んできた。ヤクザの目をかいくぐるなんて、訳ないさ。残念なことにな」
「そんな奴らを、お前は探し出せたと?」
誠吾の声には、皮肉と警戒が混ざっていた。
「俺には、長年ゲイ専門の探偵として培ってきた信頼とコネがあるからな」
玄沢は一歩も引かず、むしろ静かな自信をにじませて返す。
「ふん」
誠吾は鼻を鳴らし、目の前の書類を指で軽く叩いた。
「だが、この証言が正しいという根拠は? お前が故意に改竄した可能性だってあるだろう」
視線を横へと向け、顎で陽向を示す。
「そこの坊やを救うために、な」
誠吾の視線は、まるで値踏みでもするように冷たかった。
「知っているんだぞ。お前がその坊やを気に入っていることくらい。うちの諜報たちも、ただお前から情報を買っているだけじゃない」
一瞬の間が空き、誠吾の声が、さらに低くなる。
「もし、情に流されて偽証でもしてみろ。どうなるかは……わかってるよな。俺が、お前を買っているのは——〝真実を追求しようとする姿勢〟だ」
誠吾は睨みつけるように玄沢を見つめたあと、書類をぱさりと放る。
「悪いが、これは却下だ。謝花が契約に関わっていなかったとしても、詐欺のことを〝知らなかった〟という証拠にはならない」
「ちょっと待ってくれっ……!」
玄沢が一歩前に出る。
懇願の声は、焦燥にかすれていた。
「もう少し、もう少し時間をくれれば……必ず証拠を——!」
「駄目だ。時間は、すでに充分すぎるほど使った——おい」
パチン。
懐中時計の蓋が閉じられた音が、やけに大きく響いた。
その瞬間、斜め左右に控えていた幹部が無言で動き出し、陽向の両腕を掴む。
「そいつを連れて行け。せめて店くらいは好きに選ばせてやる」
「おいっ、誠吾っ……!」
立ち上がった玄沢を、誠吾が手で制す。
「こいつを返して欲しかったら、真実を持って来い。それまでは、こちらで預からせてもらう」
誠吾は、組員相手にあがいている陽向の姿をちらりと見て、片頬を上げた。
「ま、戻ってきたときには……相当、飼い慣らされて大人しくなっていると思うがな。お前にとっても、そっちの方が扱いやすいだろう?」
「やめろっ……!」
玄沢は自分を押さえる組員の手を荒々しく振り払った。
その目は血走り、声には怒りと焦りが滲んでいる。
「そいつは関係ない! ただ巻き込まれただけだ!」
「巻き込まれる側にも、責任はある」
誠吾は即座に言い切る。
「目を逸らさず、真実を見ようとしていれば〟——こんなバカな彼氏とは、もっと早く別れていた。巻き込まれることなんて、なかったはずだ。……そうだろう?」
その視線が、陽向に向けられる。
陽向は……何も言い返せなかった。
「それは違うっ……!」
今度は、玄沢が声を荒げる。
「真実が全部を決めるわけじゃない! 人には、縁とか情とか……そういう、つながりもある!」
「……お前、少し変わったな」
誠吾は珍しそうに玄沢を眺め、やがて静かに首を振った。
「悪いが、話はここまでだ」
声音は静かだったが、そこに宿る冷酷さは、誰の耳にもはっきりと伝わった。
「謝花の方から、もう一度仲間の行き先を聞き出さなくちゃならないからな。今度こそ吐かなかった場合は……用済みだ。山登りでもさせろ」
「ちょっと待って!」
海斗が怒鳴りながら前に出る。
驚異的な上腕二頭筋で組員たちをなぎ払い、そのまま誠吾の前に立ちはだかった。
「陽向をどこへ連れて行こうっていうのさ!? 店って一体——」
「お前みたいな変態がごろごろいるところだ。せいぜい後悔するんだな。自分の情人が、地の底まで堕とされることを」
誠吾は最後に、薄く笑った。
「まぁ……すぐにどうでもよくなるさ。お前の方が、数倍過酷だからな」
○●----------------------------------------------------●○
ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺
■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
○●----------------------------------------------------●○
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
