【敵→恋】春雪に咲く花【探偵ミステリーBL】

郁雨いくううう!

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【敵同士→恋】1話(2)【探偵ミステリーBL】

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「「愛されていますねー」」

デスクに戻ると、右隣と真向かいの席の女性社員が声をかけてきた。

陽向ひなたが勤めるデザイン会社は、スタッフ十人にも満たない小所帯だ。
主にフリーペーパーや、コアな専門雑誌に載る広告を手がけている。

陽向に同期はいない。
一番年が近いのは、今年入社したばかりの五つ下の女性社員か、三つ年上のパート社員くらいだろう。

他のメンバーは、定年間近の中年男性ばかり。
今回の騒動にも、「若い子はお盛んだね、ははは」と、呑気にお茶をすすっているだけだった。

それも無理はない。週に一度は繰り返される、ヒモ男による〝せびり〟シチュエーションに、彼らはすっかり慣れっこになっていたのだ。

「あの彼氏、本っ当に懲りませんね~」

右隣のデスクに座る心愛ここあが、興味津々といった様子で体ごとこちらに向けてくる。
この年頃の女子にとって、他人のゴシップは最高のスイーツなのだ。

「心愛ちゃん。口を動かしてもいいけど、手も動かしなさい」

向かいのパート社員──木村が、パソコンから目を離さず言った。

「はあ~い」

元気だけはいい返事をすると、心愛はキーボードを叩くふりをしながら、ちらりと陽向に視線を投げる。

「さっきの彼氏さんとは、最近どうなんですかぁ? 初めて聞いたときは『男同士!?』ってびっくりしたけど、今はもう、あの男のダメっぷりにドン引きっていうか~」

「やだっ、あたしったら人様の彼氏に……」と言いながらも、心愛の口からは次々と海斗かいとの悪口が飛び出してくる。

見かねた木村が止めようと声をかけかけたが、陽向はデスクの上の資料を整理しながら、静かに言った。

「いいよ。事実だしね」

「確かに。職場にまで金をせびりに来るわ、トラブル起こして警察や病院から電話はかかってくるわ……清々しいほどのヒモっぷりだよね」

木村は高速でタイピングしながら、さらりと言った。

「いい加減、あんなのとは別れたら? ああいうのは、いくら尽くしたって時間の無駄。自分の身を滅ぼすだけよ」

パソコンのモニター越しに、木村の鋭い視線がぶつかってくる。

既婚者だけあって、彼女の言葉はいつも的を射ている。
ただ的確すぎて、時々、オブラートに包んでほしくもなる。

一方の心愛は、うっとりと頬に手を当てた。

「えぇ~いいじゃないですかぁ。ああいうタイプも。『あたしがいなきゃダメなんだ』って感じが。もしかしたら、私への愛で改心するかもしれないしぃ」

「若いわね。そんなのただの幻想だから。ああいうのは、いつまで経ってもああなの。顔がいいだけだから騙されないで」
「確かに顔は、本当にいいですよねぇ~それに、何だかんだ言って優しいし」

陽向のデスクに置かれた黄色いガーベラを見ながら、心愛が言った。

「何? 欲しいなら、あげようか?」
「え~遠慮しますぅ。黄色の花って『浮気心』って意味があるらしいし。いっそのこと、捨てちゃいません? それ、もうしなしなだし」
「……いや」

陽向は花を取り、心愛の手の届かないデスクの隅に置いた。

「花に罪はないしね」

パソコンを立ち上げ、『週間「錦鯉と暮らす」』のバックナンバーを手に取る。

「それに言っておくけど、俺と海斗は、別れるとかいう以前に──そもそも、つき合ってるかどうかも定かじゃないし」

同じアパートに暮らすようになる前も、お互い、気が向いた時にしか会っていなかったし、お互い別の相手がいた時期もある。

海斗がアパートに転がり込んできたときでさえ、「付き合おう」といった話は一切なかった。

「えっ!? でも、やることはやってるんですよね? ……つまり、それってセ——」
「こらっ、心愛ちゃん!」

木村が、人差し指を口元に当てて「シッ」と制した。

陽向は、資料に集中しているふりをしたままスルーする。
紅白、丹頂、白写り、九紋竜、プラチナ、ドイツ三色鯉……。

派手な錦鯉たちの写真を眺めながら、赤くなりかけた頬を落ち着かせた。

それでも心愛は納得いかないのか、唇を尖らせる。

「えぇ~? どっちもゲイで、やることやってて、一緒に住んでるのに、付き合ってないって……どういうことなんですかぁ? 心愛、よくわかんない~」
「俺も、よくわかんない~」

陽向はふざけて言ってから、さらに言い添えた。

「何ていうか、ほら。海斗は同郷だから……その誼で、追い出すに追い出せないっていうか……」
「同郷? き……陽向さんって、どこの出身でしたっけぇ?」
喜屋武きゃんね。いい加減、人の名字覚えようよ」
「だって、読めないんですよ~。こんな無理矢理な当て字、キラキラネームですかぁ?」

陽向は苦笑いを浮かべた。

「これでも、沖縄ではわりと一般的な名字なんだけど」
「沖縄!? あたし、てっきり……き、じゃなくて陽向さんって、おしゃれっぽいところの出身かと思ってました~! 横浜とか、神戸とか!」

その素直すぎる物言いに、陽向は思わず吹き出してしまった。
「さ、そろそろ仕事に戻ろう。こちとら、稼がなくちゃならんのだ」

そこへ、心愛と木村の鋭いツッコミが重なる。

「「あのヒモ男のためにね!」」


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ご覧いただき、ありがとうございます。

現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺

■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI


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