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【敵同士→恋】1話(3)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む四月とは思えぬ大雪が、昼を過ぎても降り止まなかった。
駅前のコンコースは一面の銀世界。
街路樹や桜の芽も、雪に埋もれて身を縮めている。
「うわっ!」
足を取られて転ぶ人の悲鳴があがるたび、周囲の誰かが慌てて手を差し伸べる──そんな光景が繰り返されていた。
交通機関の混乱を見越してか、駅前は早めの帰宅を急ぐ人々でごった返している。
陽向も、その中にいた。
(はぁ……帰ったら、ゆっくり紅茶でも飲んで……そうだ、海斗と話さなきゃ……もう二度と、会社には来るなって……)
駅前通りを歩いていると、ふと視線を感じた。
振り向く。
コンコースには、会社員や買い物袋を提げた主婦たちが、慌ただしく行き交っている。
(……気のせいか?)
再び歩き出そうとしたとき、視界の一角で、ふと目が止まった。
本屋の前に、一人の男が立っていた。
雨宿りでもしているのか、店先のテント下にあるラックからフリーペーパーを手に取り、ぼんやりと眺めている。
ラム地の黒コート。クラシックな折り柄のグレイスーツ。
臙脂のネクタイに、黒皮の手袋。
黒を基調とした服装は、白い雪の中でひときわ映えていた。
まるでそこだけが、上品なモノクロ映画の一場面になったかのよう。
通り過ぎるカラフルな傘の群れさえも、セットの一部に見えた。
(……ずいぶん、姿のいい人だな)
年は、三十代くらいだろうか。
大企業の重役と言われても違和感のない、堂々とした風格をまとっている。
服の上からでもわかる、引き締まった体つき。
ピンと伸びた背筋と、力強い肩のライン。
——どう見ても、ただの会社員ではない。
(って、何見とれているんだ、自分……!)
陽向は視線を逸らすと、足下の雪と妄想をぎゅむぎゅむと踏み潰しながら、その場から離れた。
(だぁぁ~最悪だ……! これじゃ、俺が欲求不満みたいじゃないか!?)
海斗が家に転がり込んでからというもの、奴の尻拭いであちこち駆けずり回る日々。
「目の保養」──そんなささやかな楽しみすら、見つける暇もなかった。
このままでは、街で見かけた姿のいい男に、ところ構わず声をかけてしまいそうだ。
(よしっ! 今日こそは絶対、あいつに言ってやるんだ! いい加減にしないと、家から追い出すって……!)
陽向は大股で雪をかき分け、アパートへと急いだ。
アパートの外階段の横を通りかかったとき、ちょうど上から降りてくる男と目が合う。
「あっ」
陽向の顔を見た途端、男の表情がみるみる青ざめていった。
そしてしまいには、雪に溶け込んでしまいそうなほど、真っ白になる。
「どうしたのお~海斗ぉ~」
男の腕にぶらさがるようにしていた女が、ひょいっと顔を出す。
バサバサしたつけまつげに、テカテカのピンクグロス。
こんな天気だというのに、胸元をあらわにしたド派手なカクテルワンピース。
いかにもな、夜の女だ。
陽向は、自分の頭の中で、太い血管がブチリと切れる音を聞いた。
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺
■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
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