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【敵同士→恋】3話(2)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む適当なパーカーとジャージに着替えた陽向は、ホームセンターで買った大量の土と鉢を手にアパートを訪れた。
「え? 何で、あんたが?」
アパートの階段下には、玄沢の姿があった。
傍らにいる女性と楽しそうに談笑している。
さらに驚いたことに、玄沢は私服だった。
カーキのブルゾンにチェックのダウンシャツ、ゆったりしたカーゴパンツ。
昨日のスーツ姿とはまた違った魅力があり、意外と若く見えることにも驚く。
(そういえば、この人って何歳くらいなんだろ……?)
改めて、自分は玄沢のことを何も知らないと気づかされる。
相手は、あれだけ自分のことを調べているのに。
「あぁ、喜屋武さん」
玄沢の隣にいた女性が陽向に気づき、近寄ってくる。
彼女がクレームを出した大家の妻だと気づくのに数秒かかった。
「もう、こういうのは本当に困るのよ。警察に通報しようかと思ったけど、この方がすぐに謝りに来てくれて」
大家妻は親しげに玄沢を見やり、玄沢も「いえ」と柔らかく微笑む。
想像していたより、ずっと穏やかな空気だった。
もっとネチネチと小言を言われるか、怒鳴られるものと思っていたのに。
(……もしかして、この人のおかげ?)
ちらと玄沢を見やってから、ハッと我に返り、陽向は大家妻に向かって勢いよく頭を下げた。
「本当に、申し訳ありませんでしたっ! 今後はこういうことがないよう、気をつけますので!」
「そうしてちょうだいね。喜屋武さんは普段からゴミ出しもしっかりしてるし、若いのに地域の清掃活動にも出てくれる。ちゃんとした人だってわかってるのよ。
今日はとにかく、この鉢植えをきれいにしてちょうだい。私これから用事があるから、もう行かないといけないの」
「はい、責任もって元に戻しておきます」
「ええ、お願いね」
そう言い残して、大家妻は隣家へと戻っていった。
「普段の行いに救われたな」
その声に振り返ると、にやにや笑いの玄沢と目が合った。
「……それを言うために来たの?」
「まさか。今日は依頼人の代役だ」
玄沢はポケットから軍手を取り出し、陽向に放る。
「え、手伝ってくれるの?」
「これも仕事のうち。君の言葉を借りるなら、俺たちは〝敵〟同士。でも今日ばかりは協力し合わないとな」
そう言ってブルゾンを脱ぎ、伸びを一つ。
服装もあってか、玄沢はぐっと親しみやすく見えた。
昨日の淡々とした印象とはまるで別人だ。
(……まぁ、昨日は仕事中だったし。いや、今もだけど。お礼を言うのも筋違いか。彼は海斗のためにここにいるわけだし)
「さて、何から始める?」
玄沢が軍手をはめ、きょろきょろと周囲を見回す。
苗はバケツの水に入れられ、きちんと並んでいた。
どうやら大家妻が準備してくれたようだ。
朝方の雪は止み、灰色の雲の切れ間からぼんやりと陽が差し込んでいる。
陽向は持ってきた鉢を指差す。
「じゃあ、まず苗に合う鉢を探して──あ、それじゃ小さい。もうちょっと大きいのにしよう」
「これか?」
「うん。根も少し切った方がいいな。ちょっと持っててもらえる?」
陽向は玄沢の前にかがみ、剪定ばさみで根を切り詰める。
「慣れているな」
玄沢は苗を持ったまま、陽向の手元をじっと見つめた。
「一つ聞くが、どうして鉢を投げる前に、苗を抜いたんだ? 我を失ってたのに?」
そのからかうような言い方に、陽向はそっぽを向いた。
「……だって、花に罪はないから」
「なるほどな」
玄沢は一人、納得したように頷いた。
「確か、君のおばあ様は、イギリス人だったな」
玄沢は、頭の中の資料をたぐるように、ふと宙を仰いで言った。
「沖縄出身のおじい様は戦前のプランテーション政策でハワイに渡り、イギリス系農場主の娘と出会った。真珠湾攻撃を機に二人は命からがら帰国し、戦後に君の母親を授かった──」
陽向は、わざとらしく拍手をする。
「素晴らしい。そしてたぶん、あんたはこう思ってるんだろ。イギリス人の例に漏れず、うちのおばあは園芸好きで、俺もその影響を受けたと」
「違うのか?」
「その通りだよ。見事な推理だ。ホームズ君」
「初歩だよ、ワトソン君」
くすりと、どちらからともなく笑いがもれた。
不思議だった。
昨日に引き続き、散々な状況なのに、どうして今、こんなに穏やかに笑えているんだろう。
──しかも、敵である玄沢と。
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
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■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
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