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【敵同士→恋】3話(4)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む「休まないのか?」
もくもくと植え続ける陽向に、玄沢が声をかける。
「あ、いや。もう少しで終わりだから、これだけやっちゃおうと思って」
「働き者なんだな」
「別に、普通だよ」
玄沢はペットボトルを持ったまま、首を振った。
「いや。尾行している時も思ったが、君には止まっている時間というものがまったくない。平日は遅くまで仕事。休日は地域の清掃活動やらボランティア、家事まで全部こなしている」
「まさか、盗聴……? いや、盗撮……?」
「まさか。たとえ依頼人の許可があったとしても、そこまではしない。あの男──謝花が家事をしているとは到底思えなかっただけだ」
「それを聞いて、安心したよ」
陽向はふっと息を吐き、膝の上の土を払いながら立ち上がる。
「お得意の推理をされる前に言っておくとね、うちのおばあは沖縄に来たあと、偏見にさらされながらも、沖縄戦、米国統治、日本復帰と激動の時代を生き抜いた。
おじいが亡くなってからは、基地近くの料理店で軍人相手に働いていたりさ」
陽向は、土のついた指先を見て、ふっと小さく息を吐いた。
祖母のことを思い出すたび、胸の奥の糸がぴんと震えるように鳴る。
「娘夫婦──つまり、俺の父母が基地の事故で亡くなったあとは、マチヤグヮー(なんでも屋)を開いて、一人で俺を育ててくれた。
そんなおばあの背中を見て育ったから、俺も動いていないと死んじゃうマグロみたいな人間になっちゃったわけ」
ふと気配を感じて見上げると、すぐそばに玄沢が立っていた。
深い黒の瞳が、まっすぐに陽向を見下ろしている。
不憫に思われているのか? あるいは、同情?
「君は──」
玄沢の手が、そっと伸びてくる。
陽向は息を呑み、その指先の行方を見つめた。
「あれっ、陽向がいるっ!」
緊張感のない声が響く。
見ると、重そうな紙袋を抱えた海斗がアパート前の歩道にいて、ブルドーザーのように雪を蹴散らしながら走ってくる。
「まだやってたんだ! それに玄沢さんまで!」
(……こいつ、いつもいつも絶妙なタイミングで現れやがって……!)
陽向は立ち上がり、足元の雪を海斗に向かって投げつけた。
「一体、誰のせいだと思ってるんだよ……!」
「ちょっと止めろって。だって、しょうがないだろ? 早く次のアパート見つけないと、陽向だって困るし」
「それは当たり前だ!」
「陽向。おい、聞けって」
雪を避けた海斗が突然、陽向の腕を掴む。
一年に一度あるかないかの真剣な表情で、陽向をじっと見つめてくる。
「──陽向。俺、今度こそちゃんとするから。仕事も見つけて、一人暮らしもして……だから」
もったいぶった一拍のあと、海斗は言った。
「俺たち、またやり直さないか?」
「ていっ!」
陽向はすすすと上がってきた海斗の手を、すばやく手刀で打ち落とした。
「もう聞き飽きた、そのセリフ! 俺が唯一望んでるのは、お前とは今後一切関わらないことだ!」
「そんなあ、陽向ぁ……」
「犬みたいな声出すなっ! 保健所に連れてって、去勢してやりたくなる!」
「えぇ~そんなこと言って、これでヨガっていたのは、どこのどいつだよ」
卑猥な笑みを浮かべて海斗が尻を触ってくる。
陽向は、その手の甲を強く抓った。
「調、子、に、の、る、な」
一喝すると、海斗は「はいはい」と手を上げた。
「——では、私はこれで」
玄沢は階段の手すりにかけていた上着を手に取り、静かに横を通り過ぎていく。
陽向には、一瞥すら寄こさない。
「あれっ、玄沢さん、もう帰っちゃうの!?」
海斗が無邪気に声をかける。
「ええ。私は貴方の代理で来ただけですから。もう必要なさそうですし」
海斗と陽向を交互に見たあと、「では」と一言だけ残して、玄沢は足早に去っていった。
陽向は、慌てて自分のコートを手に取る。
「えっ、陽向も行っちゃうの!?」
「ああっ! あとは任せたぞ!」
「任せたって、一体どうすれば!? 俺、ガーデニングのことなんて全然知らないよっ!」
「もうだいたい終わってる! あとは鉢を並べるだけだから、お前の美的センスに任せる! じゃ!」
「美的センスって……ちょ、陽向ぁ……!」
情けない悲鳴を背に、陽向は玄沢の後を追った。
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
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■あらすじ動画(1分)
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