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【敵同士→恋】4話(1)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む真っ白な雪の道に、泥で汚れた足跡がまっすぐ続いている。
中途半端に溶けた雪は、踏みしめるたびに運動靴の下でぶよぶよと音をたてた。
「玄沢さんっ……!」
陽向はブルゾンの背中に向かって叫ぶ。
しかし、相手は立ち止まりもせず、振り向きさえしない。
「ちょっと、待てってば!」
転びそうになりながらも、陽向は玄沢の肩を引っ張った。
振り向いた玄沢の顔は固く、寒さのせいか青白さを帯びていた。
「……君は、別れる気はあるのか?」
低く唸るような声が、玄沢の口端から漏れる。
「……へ?」
「あの男と別れる気はあるのかと聞いている」
陽向はポリポリと頬を掻いた。
「さあ、どうだろう?」
そもそも付き合っているかどうかも曖昧な状態では、別れるも何もない。
だが、どうやら玄沢は、自分と海斗が〝お付き合い〟をしていたと思っているらしい。
まあ確かに、一緒に住み、時々はセックスしていた時点で、一般的には“付き合っている”と言えるのかもしれない。
だが、正直、陽向には断言できなかった。
「……さあ、だと?」
玄沢がひくりと頬を引き攣らせ、呆れとも怒りともつかないため息をつく。
「……正直、俺には君がわからない。浮気はされる、金はせびられる、ペットは賭けに使われる。あまつさえ、自分で言うのも何だが俺みたいな探偵を雇われ尾行され、家から追い出される。
それでも一年以上も付き合っていられたのはなぜだ? どうして、さっきみたいに楽しそうに──」
玄沢は言葉を切り、陽向を見つめた。
「……君は、悔しくはないのか?」
「それは……悔しいけど……」
どう答えていいのかわからなかった。
確かに、話を聞けば聞くほど──いや、聞かなくても──海斗が最低な男であるのは明白だった。
それなのに、自分はなぜ今まで一緒にいたのか。
あんなに迷惑をかけられてきたにもかかわらず──。
陽向は、ふっと白い息をもらした。
「俺は……もう海斗のことは諦めてる。最初の頃は、都合のいい財布として扱われたり、浮気されたりしたら、それなりに傷ついてた。
でも今は……どうでもいい。別れる気があるかって言われたら、ある、と思う。ただ、海斗に対する〝情〟が消えたのかって聞かれると……それは、わからない」
「〝情〟……? 恋愛感情じゃなくて?」
「あぁ、〝情〟だよ」
陽向はこくりと頷いた。
「海斗に対する気持ちが恋愛感情かと聞かれても、正直わからない。ただ、あいつは同郷だから話も合ったし、一緒にいて楽だった。楽しかった。
何より俺が辛い時、ずっとそばにいてくれた。あいつの能天気でテーゲー(適当)なところに、救われたんだ……」
「その恩で一緒にいたのか? どれだけひどい仕打ちを受けても?」
「耐えていたつもりはないよ。俺だって反撃も、復讐も……いっぱいしたし」
そう言って陽向は首を振った。
「……何て言うか、自分でもわからないんだ。海斗に対する気持ちを何て言葉にすればいいのか。ただ、〝情〟としか……」
「……その〝情〟とやらは、体を許すほどのものなのか?」
玄沢の静かな問いかけに、陽向は目を伏せた。
どうしてこんな話をしているのか、自分でもよくわからなくなっていた。
「まあね。でも、おまけみたいなもんだよ。お菓子についてくる」
「はっ。おまけとは、随分と自分を安く売っているな」
玄沢の嘲りに似た声に、陽向は震えそうになる喉を抑えて言い返す。
「あんたは、俺たちをセフレみたいに思ってるかもしれないけど、セックスなんてどうでもいいんだ。俺たちの仲で問題なのは、そんなことじゃない」
「だが、相手はそう思っていないかもしれない」
「海斗も同じだよ。だから浮気をする。他の、もっと刺激的な関係を求めてさ」
玄沢は理解できないというように肩をすくめた。
だが、それは陽向にとっても同じだった。
「……玄沢さんは、どうしてそんなに俺にこだわるの? あんたは海斗側の人間なんだろ? 俺のことなんて、どうでもいいはずだ」
「どうでもいいはずがない」
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ご覧いただき、ありがとうございます。
現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
興味がありましたら、お越し下さいませ☺
■あらすじ動画(1分)
https://youtube.com/shorts/o6KYEqYVPOI
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