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【敵同士→恋】4話(2)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む玄沢がきっぱりと言った。
「確かに謝花の要求を満たすことが、俺の仕事だ。だが、それだけだったら、この仕事は受けていなかった。これは双方──君のためにもなると思ったから受けたんだ。
金はもったいないと思うが、これであんな男と縁を切れるならこしたことはないだろう?」
「はっ、さすが全ゲイの味方。依頼人の対立相手のことも考えているなんて、頼もしいことで」
陽向が皮肉を返すと、玄沢は一瞬顔を赤くし、口を真一文字に結んだ。
そして、肺の奥から絞り出すように言った。
「俺は今まで探偵として、色々な同性同士のカップルを見てきた。アルコール依存、DV、モラルハラスメント──。男女間でも同じように、こういった被害者はみんな、思考停止に陥っている」
言葉を切り、さらに声を低くする。
「恐怖から、ということもある。だがそれよりも、『自分がいないと相手はやっていけない』『自分は必要とされている』
──そう思い込むことで、被害がエスカレートしても声を上げずに耐え続け、逃げようとすらしない。
見かねた周囲が俺を雇って引き離しても、いつの間にかまた元の悲惨な関係に戻っている。……その時ほど、無力感を味わうことはない」
そう言って横を向いた玄沢の顔は、険しく、そしてひどく疲れて見えた。
──そうか。この人は、そういう世界で生きてきたのか。
何となく、玄沢の仕事に対する厳格さやストイックさが腑に落ちた気がした。
「……つまり、玄沢さんはこう言いたいわけ? 俺も海斗みたいな生活能力皆無のヒモ男に『ついててあげなきゃ』って思い込んで、思考停止してるって?」
「そこまで言っていない」
玄沢は即座に否定した。
「思考停止に陥っている人間は、あんな風に鉢を投げたり、はさみで脅したりはしない」
「……ある意味、それはそれで問題だけどね」
陽向は肩をすくめた。
「……俺が言いたいのは」
玄沢の声が、急に静かに、低く落ちる。
「君が言うその〝情〟とやらは、ただの〝共依存〟なんじゃないか、ということだ。君は、自分を必要としてくれる他者に依存し、それを自己の存在理由にしている。
だから、どんな仕打ちを受けても、すがってしまう。謝られたり、少し優しくされただけで、また許してしまう。──たとえ、あんな安っぽい花一つでも、だ」
カッと血が沸騰するような感覚に襲われた。
「はっ! 人のプライベートを根掘り葉掘り暴いて、楽しいか!? いやしい職業だな、探偵さん!」
バン、と肩に衝撃が走る。
気がつけば、玄沢によって道路脇の塀に押しつけられていた。
怒りの炎を宿した相手の瞳が、目の前まで迫ってくる。
「俺は、俺の信念でこの仕事をやっている。お前に、とやかく言われる筋合いはないっ!」
獣のような唸り声。
太い指が、陽向の肩にぐっと食い込む。
「……ッ」
陽向は、抗うこともできず、ただ目を見開いたままだった。
玄沢が、こんなに激しい感情を露わするなんて思ってもみなかった。
どれほどの時間が流れたのか。
「……わかった」
怒りがまだ燻る声で、玄沢はようやく陽向から身を離した。
冷ややかな視線で見下ろしてくる。
「俺からはもう何も言わない。お前がどんなに愚かな選択をしようと、知ったことじゃない。俺はただ、依頼人の要求どおりに行動するだけだ」
一拍の沈黙のあと、玄沢は告げる。
「では、九日後にアパートで。……金はちゃんと持って来いよ」
そのまま、陽向を一瞥しただけで、背を向けて歩き出していった。
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■あらすじ動画(1分)
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