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【敵同士→恋】4話(3)【探偵ミステリーBL】
しおりを挟む「くそっ! ワジワジ(イライラ)する! あの探偵、何様のつもりだ!」
ビジネスホテルの一室。
陽向はベッドの上であぐらをかき、膝にのせたクッションに容赦なくエルボーを打ち込んだ。
「俺がいつ! あの海斗に! 依存した!? あのふにゃチン、早漏、尻軽男なんかに!」
海斗を罵倒しているうちに、次第に神経が静まっていくのを感じた。
その反動のように、疲労感と虚脱感がダブルセットで押し寄せてくる。
「おばあ……」
アパートから持ってきた小さなガジュマルの鉢植えを見る。
その熱帯の植物は、東京のホテルの窓辺で、再び降り始めた雪をじっと見つめていた。
——故郷から遠く離れた街で寂しいのだろうか。
陽向はベッドから降り、植木の隣に腰を下ろした。
自分もまた、同じように窓の外の白い街を見つめる。
このガジュマルの木は、ウーパールーパーのうーちゃんが死んだあとに買ったものだった。
あの時は何でもいいから、故郷に繋がるものが欲しかった。
ただ、それだけの気持ちで都内の園芸店を探し回り、やっと見つけた。
陽向の祖母は、十年前──陽向が十八の時に老衰で亡くなった。
戦中戦後という激動の時代を生き抜いてきた人とは思えないほど、静かで安らかな最期だった。
当時、陽向はすでに東京での内定が決まっていた。
ギリギリまで祖母を置いていっていいのか迷い続けていた彼にとって──皮肉なことだが──その最期は、ある意味「よかった」のかもしれない。
祖母を、一人にせずに済んだから。
そのまま葬儀の慌ただしさの中で上京し、今年で十年。
それ以来、一度も帰郷していない。
帰っても、もう自分を迎えてくれる人はいないし、何より空っぽになった家を見るのが怖かった。
それでも、いつか帰れる日が来たときのために、少ない給料から祖母の家の管理費を捻出してきた。
地道に貯金もして、いつかは祖母のように、小さな店でも開けたらと思っていた。
……誰にも言ったことのない、小さな、小さな夢。
けれど、東京での暮らしは想像以上に金がかかった。
いつしか維持費が払えなくなり、家は泣く泣く手放すしかなくなった。
今では、その家は沖縄に移住してきた若夫婦が、おしゃれなカフェに改装しているらしい。
売却書類にサインした瞬間、自分の「最後の砦」すらも消えてしまったような気がした。
糸の切れた風船のように、どこにも繋がらない自分が、ただ空中に漂っている感覚。
海斗に出会ったのは、ちょうどその頃だった。
焼けた肌。まぶしい笑顔。がっしりとした体。
底抜けに明るくて、能天気なその性格。
——海の、香り。
沖縄から上京してきたばかりの彼の身体には、確かに〝故郷〟の匂いがあった。
だらしなくて、気の弱いところも含めて、海斗のすべてが「沖縄」だった。
完全に失ったと思っていたものが、ふいに目の前に戻ってきた。
ある意味、自分が海斗に惹かれたのは、当然のことだったのかもしれない。
……けれど、それが恋愛感情かと問われたら、違う気がした。
なら、何だと聞かれれば——答えに詰まる。
(もしかして、これも〝依存〟なのだろうか……?)
わからない。
陽向は、玄沢の顔を思い出した。
冷たく怒気をたたえた、あの目。
いつもは余裕をまとっていた彼が、感情を露わにした瞬間。
(やっぱり、俺が悪いんだよな……)
『はっ! 人のプライベートを根掘り葉掘り暴いて、楽しいか!? いやしい職業だな、探偵さん!』
探偵という職業に、あれだけ情熱を注いでいる彼からしてみれば、あの言葉は確かに侮辱だったのだろう。
(でも、あの人は何で、あそこまであの仕事にこだわっているんだろう……)
雪の吹きしきる東京の街を、陽向はただ黙って見つめていた。
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現在、中華ファンタジーBLを連載中です!
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■あらすじ動画(1分)
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