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第1話
しおりを挟む「ハァ、っ、ハァ、ハァっ…!」
どれほど走っただろうか。
太ももは感覚が薄れ、息は吸えているのかどうかも分からなくなっている。
(もう...無理...、これ以上は走れない.....)
そう思った矢先、石畳みの窪みに足を取られ身体が崩れ落ちた。
「イッ......!」
鋭い痛みに目をやると、擦りむいた膝と手からは、血が滲んでいた。
カツカツカツ、
『どこだ! まだ見つからないのか!!』
『揃いも揃って、女性一人を確保するのにどれほど時間を掛けている!』
ガチャガチャ...
『申し訳ございません! 彼の方は、この周囲の地に明るいようで...』
『そんな事は聞いておらん! 早く御身柄を確保し、公爵様にお渡しせねばならないのだ!!』
『はっ!申し訳ございません!』
遠く、しかしハッキリと聞こえるほどの怒号を耳にし、私は慌てて立ち上がった。
「いたっ、」
先程の傷が肉を引きつったような痛さを訴えるが、気にしてはいられない。
早急にこの場を離れなければ....
傷に触らない程度に手を握りしめて、また走り出す。
右に、左に
階段を登って、降りて
細い、入り組んだ立地を利用し、大人数だと入り込みにくいルートを確実に選択して奴等を引き離していく。
あと2時間
(逃げ切れば、市が出始めて捜索は困難になる...!)
だが、体力の限界をもう越えてしまっている今、
その2時間を走り切るのは到底出来るとは思えない。
「ハァ、ハァ、ハァ...っ!」
(どこか...どこか、隠れられる場所を.....
あっ、...あそこ、、なら、っ...)
前方左手に、家と隣の小屋の間を隠すように立て掛けられた衝立があった。
子供か、背の低い女性なら屈んで入り込めそうな程度の穴がぽっかりと空いている。
(たしか、この家は靴屋の...)
もう幾年も前にここの店主は亡くなっており、それ以降は誰も居着いていないはずだ。
身を屈め、四つ這いになりながら衝立の奥へ進むと、予想した通り人の気配は無く多様な雑草の生えた荒れた物干場が眼前へと現れた。
小屋の周りは人の背丈程の塀で囲まれており、外部からの侵入は容易ではないことを窺わせる。
そして、入り組んだ小道をいくつも抜けて辿り着ける立地。
ここであれば、少しの間はゆっくりできるだろう。
だが、もしも外部から覗き込まれた時の為に小屋の中で休息を取るべきだ。
ギィ……
扉を開くと少し錆付いた蝶番が控えめな音を立てる。
静まり返った街中では、余りにも不自然な音を立てたが、極限まで疲れ切った体はもうそこまでの思考に辿りつくことは出来なかった。
少しのカビ臭さと土の匂い。
小屋の端にはたっぷりの藁が積まれていた。
このまま藁に身を埋めるのも良いが、流石に擦りむいた傷に障るだろう。
手近な用具棚に置かれていた、掃除用と思われる古いシーツを拝借し、申し訳程度の藁ベッドを作り身を預けた。
そして、私はこのとき身体を横たえるという愚行に出てしまった。
身を横たえると、急激に眠気が襲ってくる。
駄目だ…と、神経は警鐘を鳴らすが全身は全く従ってはくれない。
だが、体力と精神力の限界まで来した身体を本能が休息を求めることを、責められる訳がない。
(だ....め...、待っ.....て........)
そして、最後に目に映したのは小屋の扉の隙間から差し込む薄い灯り。
その時は、まだ日が昇るには早い時間であった。
「 や っ と 見 つ け た 」
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