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170.ハレの宴(1)
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宮城の南側広場に、住民が皆集まって腰を降ろしている。
急遽の宴で、ゴザを敷いただけの簡単な席だけど、皆、晴れやかな笑顔を見せてくれている。
幸い好天にも恵まれた。
広場の北側、宮城側にはやや大きな舞台が設えられ、祖霊を祀る檀がある。
反対の城門側にはやや小さな舞台が置かれ、2つの舞台の間は花道で繋がれている。
ダーシャンでは結婚するとき、花婿が花嫁を家まで迎えに行き、連れ帰るのが正式らしい。
けど、剣士宿舎から宿舎に迎えに行っても「パッとしない」と言ったシーシが、急遽、舞台を設えてくれた。
広場の四隅に置かれた荷運び櫓から、花びらのように切られた紙吹雪が撒かれ始めると、シャン、シャン、とシンバルのような鐘の音がし始めた。
おおおお。目出度い感じする!
皆んなが、時間も物資もない中で、出来るだけの工夫をしてお祝いしようとしてくれてる!
もう……、俺は、それだけで泣きそうになってた。
大きな舞台に、緋色の花婿衣装に身を包んだヤーモンが登り始めた。
皆が大きな歓声を上げて迎える。
全住民1,200人が参列してる、盛大な式だ。緊張してたヤーモンも、胸が熱くなってきてるのが見てとれた。
やがて、小さな舞台に、母親役の女性に手を引かれて、緋色の花嫁衣装に身を包んだエジャが姿を見せる。
ヤーモンは、父親役のフェイロンさんと祖霊祭祀を司るシアユンさんに拝礼し、花道に降りてゆっくりと花嫁を迎えに進み始める。
ヤーモンが通り過ぎるたび、その側に座る住民が口々に祝福の言葉をかけてる。
――おめでとう!
――しっかり迎えてやれよ!
――よかったな!
この小さな小さな国の、小さな小さな広場が笑顔で満ちてる。
あの剣士府で演説したときに見かけた、イーリンさん以外の女剣士2人のうち、エジャでない方の女剣士さんが、エジャの母親役を務めてくれている。
エジャと苦楽を共にしてきたであろう、空色髪の女剣士の晴れやかな笑顔に、こちらまで笑顔にさせられる。
空色髪の女剣士からヤーモンに、エジャが引き渡され花道をゆっくりと戻り始める。
再びヤンヤの喝采。涙を浮かべている人も、笑顔だ。
その時、七色の布を付けられた矢が、東西の荷運び櫓から放たれ、空を彩る。
花婿と花嫁の門出に邪を祓うという矢は、メイファンとミンユーが放ってくれた。2人とも嬉しそうに手を振っている。
ヤーモンとエジャが大きな舞台に到着すると、より一層に紙吹雪が舞い飛び、鐘の音が鳴り響く。
花婿と花嫁が並んで祖霊に拝礼し、婚姻は成立した。
俺は敢えて目立たない席に座らせてもらっていた。けれども、皆んなの顔が良く見える。
壁一枚隔てた先には人獣が満ちている。
けれども、ここには晴れやかな人間の笑顔が満ち溢れている。舞台上で寄り添って立つ2人を、皆んなが祝福している。
そして、俺は俺の責任を果たすため、舞台に上がり、手を挙げた。
静まり返った広場の花道を、黒衣の3騎が進む――。
急遽の宴で、ゴザを敷いただけの簡単な席だけど、皆、晴れやかな笑顔を見せてくれている。
幸い好天にも恵まれた。
広場の北側、宮城側にはやや大きな舞台が設えられ、祖霊を祀る檀がある。
反対の城門側にはやや小さな舞台が置かれ、2つの舞台の間は花道で繋がれている。
ダーシャンでは結婚するとき、花婿が花嫁を家まで迎えに行き、連れ帰るのが正式らしい。
けど、剣士宿舎から宿舎に迎えに行っても「パッとしない」と言ったシーシが、急遽、舞台を設えてくれた。
広場の四隅に置かれた荷運び櫓から、花びらのように切られた紙吹雪が撒かれ始めると、シャン、シャン、とシンバルのような鐘の音がし始めた。
おおおお。目出度い感じする!
皆んなが、時間も物資もない中で、出来るだけの工夫をしてお祝いしようとしてくれてる!
もう……、俺は、それだけで泣きそうになってた。
大きな舞台に、緋色の花婿衣装に身を包んだヤーモンが登り始めた。
皆が大きな歓声を上げて迎える。
全住民1,200人が参列してる、盛大な式だ。緊張してたヤーモンも、胸が熱くなってきてるのが見てとれた。
やがて、小さな舞台に、母親役の女性に手を引かれて、緋色の花嫁衣装に身を包んだエジャが姿を見せる。
ヤーモンは、父親役のフェイロンさんと祖霊祭祀を司るシアユンさんに拝礼し、花道に降りてゆっくりと花嫁を迎えに進み始める。
ヤーモンが通り過ぎるたび、その側に座る住民が口々に祝福の言葉をかけてる。
――おめでとう!
――しっかり迎えてやれよ!
――よかったな!
この小さな小さな国の、小さな小さな広場が笑顔で満ちてる。
あの剣士府で演説したときに見かけた、イーリンさん以外の女剣士2人のうち、エジャでない方の女剣士さんが、エジャの母親役を務めてくれている。
エジャと苦楽を共にしてきたであろう、空色髪の女剣士の晴れやかな笑顔に、こちらまで笑顔にさせられる。
空色髪の女剣士からヤーモンに、エジャが引き渡され花道をゆっくりと戻り始める。
再びヤンヤの喝采。涙を浮かべている人も、笑顔だ。
その時、七色の布を付けられた矢が、東西の荷運び櫓から放たれ、空を彩る。
花婿と花嫁の門出に邪を祓うという矢は、メイファンとミンユーが放ってくれた。2人とも嬉しそうに手を振っている。
ヤーモンとエジャが大きな舞台に到着すると、より一層に紙吹雪が舞い飛び、鐘の音が鳴り響く。
花婿と花嫁が並んで祖霊に拝礼し、婚姻は成立した。
俺は敢えて目立たない席に座らせてもらっていた。けれども、皆んなの顔が良く見える。
壁一枚隔てた先には人獣が満ちている。
けれども、ここには晴れやかな人間の笑顔が満ち溢れている。舞台上で寄り添って立つ2人を、皆んなが祝福している。
そして、俺は俺の責任を果たすため、舞台に上がり、手を挙げた。
静まり返った広場の花道を、黒衣の3騎が進む――。
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