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171.ハレの宴(2)
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――おいっ、カッコいいな!
と、感じるのは俺の感覚だ。住民の目にはどう映っているだろう。
聖堂騎士の黒い正装を身に纏ったアスマたちが愛馬に跨り、ゆっくりと花道を進んでくる。
そして、馬を降りて舞台に登り、祖霊の壇に敬意を表すと、住民の間に大きな響めきが起きた。
――北の蛮族が、我らの祖霊に頭を下げた。
よく話し合って決めた演出だった。
「私は既に臣従を申し出ている。ジーウォの祖先は、私の祖先でもあろう」
と、アスマは言った。
ラハマはジッと考え込んだ後、俺の目を見てハッキリと言った。
「我はリヴァントの神を棄てられぬ。それでも良いか?」
と言うので、それでいいと答えた。
伝わるかどうか分からなかったけど、初詣に神社、葬式はお寺、結婚は教会、クリスマスも節分も楽しむ日本の話をしておいた。
ラハマはやっぱり戸惑いながら、呟くように俺に言った。
「理解も共感も出来ぬが、ジーウォ公がそういう感覚を持って治めていることは解った」
そして、少しホッとしたような表情を見せた。
「ただ、そのようなジーウォ公は我らの信仰を奪わぬであろう。我が異教の国の民となるのに、決して悪いことではないのだと思う」
と、何度か頷いた。
マリームは「アスマ様とラハマ様が良いのなら」と言った。
その3人が舞台上でヤーモンとエジャにお祝いの言葉を述べ、その手を握った。
俺は舞台上から群衆に向けて声を上げた。
「我らが北の蛮族と呼んできた、リヴァント聖堂王国の方々を、我が臣民に迎えたい」
住民たちは再び響めいた。
昨日の重臣会同の決定は既に非公式に広めておいたし、昨晩は望楼から皆に3人の姿も見せておいた。
シュエンを筆頭に純潔の乙女たちは、口々に褐色女子たちのことを噂に広めた。
――北の蛮族の王族が、ダーシャンのシキタリに従って、マレビト様に純潔を捧げようとしている。
受け入れてもらう下地は整っていた。
ちょっと悔しいけど、ユーフォンさんの判断は正しかった。
「人獣を屠るのは人間である!」
俺自身が定めた新シキタリを、改めて口にした。
「リヴァントより加わる騎士たちは、人獣を屠る最強の刃のひとつになるだろう! 司馬にして剣士長のフェイロン殿は、いかが思われるか?」
「はっ。マレビト様の仰る通りと存じます。我ら剣士と並び立つ、騎士の刃を迎え入れられることは、心強い限りでございます」
茶番と言えば茶番のやり取りだけど、北の蛮族と血で血を洗う戦いを続けた剣士長さんが認めているという体裁は大きい。
「皆で生き残る!」
俺は一段と声を張り上げた。
「それが、俺の望みです。アスマ、ラハマ、マリーム。この3人を『みんな』に加えてほしい」
俺は深々と住民の皆さんに頭を下げた。
慌ててアスマたちも頭を下げる。
「おおっ! いいじゃねぇか!」
と、声を上げたのは、あの片腕を喰われたニイチャンだった。
「今、こうやって花婿の家で一緒に祝ってる俺たちは家族みてぇなもんだろ? それを一緒に祝ってくれた黒いネエちゃんたちも家族でないと道理が合わねぇわな!」
褐色の肌に黒い装束をまとった3人は「黒いネエちゃん」で間違いではないのだけど、怖れに怖れ、憎みに憎んできた『北の蛮族』との間にはギャップがある。
クスッと笑いが起きた。
フーチャオさんが笑いに乗るように、軽い調子で声を上げた。
「若い2人が結婚した日に、若い家族が3人も増えるたぁ、目出度い話だなぁ! しかも、強いときてる。言うこたねぇな!」
住民の間から躊躇いがちに拍手が起き始めた。
俺が視線を向けて促すと、アスマは緊張した面持ちで口を開いた。
「私はアスマと言う。ここにいるのはラハマとマリーム。北の地から参った……」
アスマは言葉を切り、皆は続きを待った。
「私は皆さんが羨ましい。心底、羨ましい。こうして一国の君主が国の大事を民に諮り、問い掛ける。この天の下、他にこのような国があろうか?」
住民たちが小さく頷いている。
「どうか、私たちもその列に加えてほしい」
と、深く頭を下げたアスマに、住民たちが歓声で応えた。
その時、荷運び櫓からまた大量の紙吹雪が舞い飛び、鐘が打たれた。メイファンとミンユーが笑顔で手を振っている。
シャンシャンシャンシャンと、青空の下、鐘の音が鳴り響く。
「まるで、嫁いで来たようですな」
と、フェイロンさんがニヤリと笑った――。
と、感じるのは俺の感覚だ。住民の目にはどう映っているだろう。
聖堂騎士の黒い正装を身に纏ったアスマたちが愛馬に跨り、ゆっくりと花道を進んでくる。
そして、馬を降りて舞台に登り、祖霊の壇に敬意を表すと、住民の間に大きな響めきが起きた。
――北の蛮族が、我らの祖霊に頭を下げた。
よく話し合って決めた演出だった。
「私は既に臣従を申し出ている。ジーウォの祖先は、私の祖先でもあろう」
と、アスマは言った。
ラハマはジッと考え込んだ後、俺の目を見てハッキリと言った。
「我はリヴァントの神を棄てられぬ。それでも良いか?」
と言うので、それでいいと答えた。
伝わるかどうか分からなかったけど、初詣に神社、葬式はお寺、結婚は教会、クリスマスも節分も楽しむ日本の話をしておいた。
ラハマはやっぱり戸惑いながら、呟くように俺に言った。
「理解も共感も出来ぬが、ジーウォ公がそういう感覚を持って治めていることは解った」
そして、少しホッとしたような表情を見せた。
「ただ、そのようなジーウォ公は我らの信仰を奪わぬであろう。我が異教の国の民となるのに、決して悪いことではないのだと思う」
と、何度か頷いた。
マリームは「アスマ様とラハマ様が良いのなら」と言った。
その3人が舞台上でヤーモンとエジャにお祝いの言葉を述べ、その手を握った。
俺は舞台上から群衆に向けて声を上げた。
「我らが北の蛮族と呼んできた、リヴァント聖堂王国の方々を、我が臣民に迎えたい」
住民たちは再び響めいた。
昨日の重臣会同の決定は既に非公式に広めておいたし、昨晩は望楼から皆に3人の姿も見せておいた。
シュエンを筆頭に純潔の乙女たちは、口々に褐色女子たちのことを噂に広めた。
――北の蛮族の王族が、ダーシャンのシキタリに従って、マレビト様に純潔を捧げようとしている。
受け入れてもらう下地は整っていた。
ちょっと悔しいけど、ユーフォンさんの判断は正しかった。
「人獣を屠るのは人間である!」
俺自身が定めた新シキタリを、改めて口にした。
「リヴァントより加わる騎士たちは、人獣を屠る最強の刃のひとつになるだろう! 司馬にして剣士長のフェイロン殿は、いかが思われるか?」
「はっ。マレビト様の仰る通りと存じます。我ら剣士と並び立つ、騎士の刃を迎え入れられることは、心強い限りでございます」
茶番と言えば茶番のやり取りだけど、北の蛮族と血で血を洗う戦いを続けた剣士長さんが認めているという体裁は大きい。
「皆で生き残る!」
俺は一段と声を張り上げた。
「それが、俺の望みです。アスマ、ラハマ、マリーム。この3人を『みんな』に加えてほしい」
俺は深々と住民の皆さんに頭を下げた。
慌ててアスマたちも頭を下げる。
「おおっ! いいじゃねぇか!」
と、声を上げたのは、あの片腕を喰われたニイチャンだった。
「今、こうやって花婿の家で一緒に祝ってる俺たちは家族みてぇなもんだろ? それを一緒に祝ってくれた黒いネエちゃんたちも家族でないと道理が合わねぇわな!」
褐色の肌に黒い装束をまとった3人は「黒いネエちゃん」で間違いではないのだけど、怖れに怖れ、憎みに憎んできた『北の蛮族』との間にはギャップがある。
クスッと笑いが起きた。
フーチャオさんが笑いに乗るように、軽い調子で声を上げた。
「若い2人が結婚した日に、若い家族が3人も増えるたぁ、目出度い話だなぁ! しかも、強いときてる。言うこたねぇな!」
住民の間から躊躇いがちに拍手が起き始めた。
俺が視線を向けて促すと、アスマは緊張した面持ちで口を開いた。
「私はアスマと言う。ここにいるのはラハマとマリーム。北の地から参った……」
アスマは言葉を切り、皆は続きを待った。
「私は皆さんが羨ましい。心底、羨ましい。こうして一国の君主が国の大事を民に諮り、問い掛ける。この天の下、他にこのような国があろうか?」
住民たちが小さく頷いている。
「どうか、私たちもその列に加えてほしい」
と、深く頭を下げたアスマに、住民たちが歓声で応えた。
その時、荷運び櫓からまた大量の紙吹雪が舞い飛び、鐘が打たれた。メイファンとミンユーが笑顔で手を振っている。
シャンシャンシャンシャンと、青空の下、鐘の音が鳴り響く。
「まるで、嫁いで来たようですな」
と、フェイロンさんがニヤリと笑った――。
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