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253.憂鬱な神
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「四文字めらが……。また、邪魔をしおって」
と、大仏ほども巨きな背中を向けた女性が、ふてくされたように言った。
「か、神様なのよね……?」
と、リーファが小声で言った。
「たぶん……」
「殺すとか無理じゃない?」
「無理そうだね」
巨きな女性は、もう一度寝返りを打ち、俺たちの方を向いた。
「ようやく世界を終わらせられると思ったのに、嫌味なヤツらじゃ」
「い、嫌味……?」
「そうよ、嫌味じゃ嫌味。其方らは僅か四文字で整い美しい。惚れ惚れしてしまうわ」
「……なんで、終わらせたいんですか?」
「次の世界を創りたいからに決まっておろうが。四文字に憧れて手習いのつもりで創った世界がいつまでも終わらぬ」
「手習い……?」
「そうじゃ。試しに創ってみて満足しておったのに、終わらなければ次の世界づくりに取り掛かれぬではないか」
巨きな女性は口を尖らせて、身体を伸ばした。
「妖魔を降らせて終わりにしようとしたら、四文字が手を入れてきた。自分の世界の出来がいいからって、いい迷惑じゃ」
足をバタバタさせている。
「人間同士を争わせようと洗脳してみても、未知の病原体を降らせてみても、毎回、邪魔が入って一向に終わらん」
と、俺たちをチラッと見た。
「今度こそと思い人獣を大量に湧かせて、いい線まで行ったのに、結局、退けてしまうとは……、ホントに嫌味なヤツらじゃ」
「そ、そっと自然のままに任せてみたらどうです……?」
「そんなの待てん! 次の世界の構想もまとまっておるのじゃぞ? 次はグッと減らして16文字に挑戦したいのじゃ!」
と、目を輝かせる神様に「愛されぬ我ら――」という、祖霊の嘆きが突き刺さった。
「其方らは本当に美しい命じゃ。何故、僅か四文字でそのように整った美しい命を表現できるのか……」
と、神様はうっとりと俺たちを眺めた。
「憎らしいほど憧れてしまう。いつか私もお前たちのような命を描きたいものだ。そのためにも、まずは仕掛かりの世界を終わらせなくてはのう。次はどんな危難を与えれば、邪魔されずに終わらせられるかのう……」
そう言うと、また寝返りを打った神様は俺たちに背中を向けてしまった。
それからまあ、散々に説得を試みた。
とてもじゃないけど殺すなんて出来そうにない巨きな存在だ。気持ちを変えてもらうしかない。
俺もリーファも頭を絞って、出来る限りのパッピーエンドを提案し続けたけど、神様はまったく興味を示さない。
いつかまた、酷い危難が降りかかって、人々が恐ろしい思いをしながら死に絶える。そんな想像に突き動かされて、ただただ話し掛け続けた。
だけど神様は、世界の登場人物に貸す耳はないとばかりに、塩対応が揺るがない。
俺たちの体感で数年が過ぎた頃、リーファが力無く呟いた。
「勇吾――。諦めよう」
気が付くと、俺の腕の中にはシアユンさんがいた。
「あれ? ……もう、戻られたんですか?」
あのシアユンさんと結ばれた夜だった。ベッドの中で裸のシアユンさんが、キョトンとした表情で俺を見ている。
「俺……、どのくらい消えてました?」
「ほんの数秒かと……」
シアユンさんをギュッと抱き締めてから、リーファの部屋に向かった。
リーファは、神様の説得に疲れ切った表情で俺にもたれ掛かった。
「疲れたわ……」
「そうだな」
「……」
「……」
「私たち……」
「うん」
「出来ることは全部やったわよね……」
「うん、そう思う……」
「……」
「……」
「勇吾……」
「なに?」
「亡命しよう」
「え?」
「日本に、亡命しよう――」
と、大仏ほども巨きな背中を向けた女性が、ふてくされたように言った。
「か、神様なのよね……?」
と、リーファが小声で言った。
「たぶん……」
「殺すとか無理じゃない?」
「無理そうだね」
巨きな女性は、もう一度寝返りを打ち、俺たちの方を向いた。
「ようやく世界を終わらせられると思ったのに、嫌味なヤツらじゃ」
「い、嫌味……?」
「そうよ、嫌味じゃ嫌味。其方らは僅か四文字で整い美しい。惚れ惚れしてしまうわ」
「……なんで、終わらせたいんですか?」
「次の世界を創りたいからに決まっておろうが。四文字に憧れて手習いのつもりで創った世界がいつまでも終わらぬ」
「手習い……?」
「そうじゃ。試しに創ってみて満足しておったのに、終わらなければ次の世界づくりに取り掛かれぬではないか」
巨きな女性は口を尖らせて、身体を伸ばした。
「妖魔を降らせて終わりにしようとしたら、四文字が手を入れてきた。自分の世界の出来がいいからって、いい迷惑じゃ」
足をバタバタさせている。
「人間同士を争わせようと洗脳してみても、未知の病原体を降らせてみても、毎回、邪魔が入って一向に終わらん」
と、俺たちをチラッと見た。
「今度こそと思い人獣を大量に湧かせて、いい線まで行ったのに、結局、退けてしまうとは……、ホントに嫌味なヤツらじゃ」
「そ、そっと自然のままに任せてみたらどうです……?」
「そんなの待てん! 次の世界の構想もまとまっておるのじゃぞ? 次はグッと減らして16文字に挑戦したいのじゃ!」
と、目を輝かせる神様に「愛されぬ我ら――」という、祖霊の嘆きが突き刺さった。
「其方らは本当に美しい命じゃ。何故、僅か四文字でそのように整った美しい命を表現できるのか……」
と、神様はうっとりと俺たちを眺めた。
「憎らしいほど憧れてしまう。いつか私もお前たちのような命を描きたいものだ。そのためにも、まずは仕掛かりの世界を終わらせなくてはのう。次はどんな危難を与えれば、邪魔されずに終わらせられるかのう……」
そう言うと、また寝返りを打った神様は俺たちに背中を向けてしまった。
それからまあ、散々に説得を試みた。
とてもじゃないけど殺すなんて出来そうにない巨きな存在だ。気持ちを変えてもらうしかない。
俺もリーファも頭を絞って、出来る限りのパッピーエンドを提案し続けたけど、神様はまったく興味を示さない。
いつかまた、酷い危難が降りかかって、人々が恐ろしい思いをしながら死に絶える。そんな想像に突き動かされて、ただただ話し掛け続けた。
だけど神様は、世界の登場人物に貸す耳はないとばかりに、塩対応が揺るがない。
俺たちの体感で数年が過ぎた頃、リーファが力無く呟いた。
「勇吾――。諦めよう」
気が付くと、俺の腕の中にはシアユンさんがいた。
「あれ? ……もう、戻られたんですか?」
あのシアユンさんと結ばれた夜だった。ベッドの中で裸のシアユンさんが、キョトンとした表情で俺を見ている。
「俺……、どのくらい消えてました?」
「ほんの数秒かと……」
シアユンさんをギュッと抱き締めてから、リーファの部屋に向かった。
リーファは、神様の説得に疲れ切った表情で俺にもたれ掛かった。
「疲れたわ……」
「そうだな」
「……」
「……」
「私たち……」
「うん」
「出来ることは全部やったわよね……」
「うん、そう思う……」
「……」
「……」
「勇吾……」
「なに?」
「亡命しよう」
「え?」
「日本に、亡命しよう――」
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