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252.霊縁(16)シアユン

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両腕をツイファさんとユーフォンさんに引かれて姿を見せたシアユンさんは、既に全身真っ赤だった。

シアユンさんは太保たいほとして、ジーウォの全てを取り仕切しきってくれている。

昼間は氷の女王を増した威厳いげん風格ふうかく政務せいむり行い、夜は俺の寝室で真っ赤になってる。

そんな風に幾晩いくばんか過ごした後、小さな声でささやくように口を開いた。

「つ……」

何かを俺に伝えようと、一生懸命に頑張ってくれてる。俺は頑張ってる人には弱い。ゆっくりと言葉の続きを待った。

つとめとして……、マレビト様のねやを訪れた時は、これほどではなかったのです……」

召喚されて30分。あられもない姿のシアユンさんにせまられた時のことが思い浮かぶ。

「それが……、いつの頃からか……、マレビト様にかれておりました……」

最初にシアユンさんが全身を真っ赤にして固まっているのを目にしたのは、いつのことだっただろう?

「ふふっ。ぞく襲撃しゅうげきを受けたとき、おびえる俺を抱きめてくれたの、心強かったなあ」

「はい……」

「シアユンさんに大丈夫って言われたら、ホントに大丈夫って思えて安心できた」

「そのような……」

重臣じゅうしんを選ぶときも的確てきかくにアドバイスしてくれたし」

「……」

「シュエンを推薦すいせんしてくれたのも大正解でした」

「ほ、本人の努力です……」

「シアユンさん自身も太保たいほを引き受けてくれて、俺の大きな荷物を一緒にかついでくれた」

「に……」

「……」

「逃げないマレビト様の……、お力になれるのならばと……」

「回廊戦では手を握らせてくれて……」

「……」

「そうだ! リンシンさんに誘われちゃった時も、シアユンさんと一緒だった」

「あれは……、驚きました……」

「ねえ。俺も驚きました」

「ふふっ……」

望楼ぼうろうで毎晩、シアユンさんと2人で過ごして……」

「はい……」

「楽しみだったなあ……」

召喚されてすぐに飛び込んで来た、あかひとみのお姉さん。

お色気大作戦ではプリッとお尻を丸出しにしてみたり、可愛かわいいところもある侯爵こうしゃく令嬢れいじょう才媛さいえん。ずっと一緒に歩んでくれたスレンダー長身美女。

「じゅ……」

と、シアユンさんが真っ赤な顔を上げて、俺の方を見た。

純潔じゅんけつをおささげいたします。どうぞ、子種こだねをおさずけくださいませ……」

そっと近寄り、シアユンさんの細い細い腰を抱いた。

「女子にそんなこと言わせてばかりの俺は、男子としてどうなんでしょうね……?」

「そんなマレビト様だから、みなかれるのでございます……」

と、シアユンさんは俺の胸に身をゆだねた。

「待たせ過ぎちゃいました」

「本当でございます」

小さくて整った顔立ちに唇を重ねると、ギュッと抱きめてくれた。

「好きです……、ずっと、好きでした」

そして、ゆっくりと肌を重ね合い、ゆっくりと温もりを確認し合い、つのおもいを満たしていくようにゆっくりと、結ばれた――。

複雑にうごめいていた紋様もんようが、視界をくす。

――こういうことだったのか。

この世界のことわりは、いびつあやうく俺たちを取り囲んでいた。ギリギリのバランスで保たれた秩序ちつじょが急速に理解できた。それは針に糸を通すようなあやうさで、かろうじて成り立っている。

すごく冗長じょうちょうで、それゆえに脆弱ぜいじゃくで、バグだらけだ。

地球の大自然のようなたくましさも力強ちからづよさも感じられない。積み木を一筋に天まで積んでいるような、あやういことわりがこの世界をつらぬいているさまが見えた。

すると、青白く輝くくさりが、天から無数に降りてくるのが見えた。

綺麗きれい……」

と、シアユンさんが俺の腕の中でつぶやいた。

「シアユンさん」

「はい……」

「もう少し、こうしていたかったんですけど、天帝てんていがお呼びのようです」

「はい……、お気をつけて」

「すみません。ったらかしにするみたいで」

「ふふっ。私は私の部屋でお待ちしております。マレビト様の側室そくしつですから」

と、優しく微笑ほほえんでくれたシアユンさんを抱きめると同時に、ふわっと視界が青白い光で埋め尽くされた。

気が付くと、リーファと2人で天帝てんていの前に立っていた。

四文字よんもじ様……、この世のすべてのことわりを、よくぞかしてくださった。この世界に生きた全ての人間にわって、礼を申す」

深々と頭を下げた天帝てんていは、俺とリーファに近寄りその手を握った。

「さあ。神に文句を言うてやろうぞ。ことと次第によっては、神を殺してたもれ」

と、天帝てんていの言葉と共に光り輝く空間を抜けて、暗い夜空のような漆黒しっこくの中を上昇し始めた。

「怖いね……」

と、リーファが笑った。

「うん、怖いな」

天帝てんてい姿形すがたかたちが光になってけるように俺たちをつつむ頃、気怠けだるそうに寝そべるおおきな身体からだをした女性の前で俺たちは立ちすくんだ。

神像か仏像のような人間離れしたフォルムをした女性は、やはり気怠けだるそうに俺たちを一瞥いちべつした。

「お前たちにはこう見えるのか。これはまた、けったいな形を私に与えたな」

そして、寝返りを打って俺たちにおおきな背中を向けた――。
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