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エピローグ
里佳の事情 エピローグ
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私が最初に消息を知れたのは、クゥアイだった。
「マ、マレビト様のお宅はこちらでしょうか……?」
隣町に転生していて、小学校に上がってすぐに遊びに来てくれた。あの可憐な娘がランドセルを背負った小学生姿で現れたのだ。
抱っこして頬擦りしない訳がない。
「お祖母ちゃんが……」
と、クゥアイは困ったように笑った。
「双子の妹なんです……」
私の呪術の仕業だというのに、思わず吹き出してしまった。
「生まれた瞬間に、お互いに顔を見合わせてしまって、おぎゃあとも言わないんで、こっちの母を随分心配させてしまいました」
「そ、そっかあ……。仲良くやれてる?」
「それはもう! ただ、妹はお祖母ちゃんだったんで、私にすぐお菓子くれるんです。姉が巻き上げてるみたいに見られるから、やめてって言ってるのに」
――妹は、お祖母ちゃん。
責任は私にある訳だし、これ以上笑ってはいけないと思うんだけど、どうしても表情が緩む。
ただ、クゥアイはとても嬉しかったようだ。
皆んなが中学生になった頃、テレビで見た少年はフーチャオだった。日焼けで真っ黒になったヤンチャそうな少年は、自転車で日本一周したって紹介されてた。
「俺の彼女でーすっ!」
と、肩を組まれて迷惑そうに笑ってたのはミオンだった。
フーチャオはミオンを探して日本一周したのだろう。笑顔が輝いて見えた。
各ご家庭の事情によるのだけど、その頃から徐々に、かつての乙女たちとSNSで繋がりはじめた。
「ええか? ウチと母ちゃんは別の人格なんやで? そこんとこ間違えたらあかん」
と、ユエは一時毒親化しかかった母親をこんこんと説教して、更生させたらしい。
とはいえ、幼い頃から愛情をたっぷり注がれて育ったユエは、もはや完全に別人でクラスでも人気者なんだそうだ。
しかも、転生先は関西だった。
京都に家族旅行したときに会いに来てくれた関西弁のユエは、ケタケタよう笑いはる別嬪さんになってましたわぁ。
北は北海道から、南は沖縄まで。勇吾と娘の麗花と頻繁に旅行して、元ジーウォ国民約1200の魂をすべて確認することが出来た。それぞれの人生があるので、こちらから名乗り出ることはしないけど、呪術が成功していたことに胸を撫で下ろした。
隣の県に住むシアユンとメイファンが遊びに来てくれたのは、高校に入学した頃。
「もう1回だけ、マーくんとお風呂入りたいなぁ」
と、言うメイファンを、シアユンが嗜めた。
「私たち未成年ですから、マ、マーくんが捕まります」
「そっかあ。それじゃあさ、高校卒業したら皆んなで温泉行こうよ! それなら良くない?」
と、メイファンの発案で、最後の大浴場が準備された。
「それに、約束の18年が経つ訳だしさっ! ひひっ!」
そして、卒業後。元乙女たちは一堂に会した。温泉に向かって街を歩く姿はまさに「私立ジーウォ女子校」状態。美少女たちに囲まれた勇吾はあの頃よりも顔を赤くした。
メイファンは茶化して笑ってたけど、再び側室になりたいと言う娘は一人もいなかった。
飽くまでも生きる世界において、常識的な娘ばかりだった。
――ちょっとは、覚悟してたのよ?
と、思わないではないけど、それぞれ幸せを見付けられるなら、それに越したことはない。
「里佳さん……。いや、お妃よ」
と、湯船の中をアスマが近寄って来た。日本に帰れば引くほど美しい褐色巨乳さんだ。
「なに?」
「皆んな、ハッピーエンドだな」
と、肩を並べたアスマが笑った。
「そう? それでいい?」
「いいと思うぞ。私はな」
「そか……」
「だから、もう荷物を降ろしていいのではないか?」
「えっ?」
「お妃は、皆を救ったのだ。それが、我らのハッピーエンドだ。我が主も含めてな」
目の前では勇吾が乙女たちに、むにゅんむにゅんされ始めてた。
「ただ、終わりっぱなしにも出来ないからな。皆んな、次のスタート地点はここが良かったのだ。快く許して下さり礼を言う」
「ううん、そんな……」
「さて」
「えっ?」
――むにんっ。
と、アスマは私にも抱き着いてきた。
「ここも、私のスタート地点だからな。お妃も、明日からは自分のためだけに生きてくれ」
「きょ、今日は……?」
はにかむように笑って、私をギュッと抱き締めたアスマを皮切りに、私まで乙女たちの柔肌に包まれていく。
いい歳した夫婦が、若い女子たちにいいようにされて大浴場には笑顔が溢れた。
ご……、
極楽じゃあ……。
明日からはまた皆んなそれぞれ、自分の日常を生きていく。だけど今日一日だけ、今はもうない故郷に思いを馳せて――。
「お妃様は、それでいいのだ」
と、シーシが笑った。
― 了 ―
「マ、マレビト様のお宅はこちらでしょうか……?」
隣町に転生していて、小学校に上がってすぐに遊びに来てくれた。あの可憐な娘がランドセルを背負った小学生姿で現れたのだ。
抱っこして頬擦りしない訳がない。
「お祖母ちゃんが……」
と、クゥアイは困ったように笑った。
「双子の妹なんです……」
私の呪術の仕業だというのに、思わず吹き出してしまった。
「生まれた瞬間に、お互いに顔を見合わせてしまって、おぎゃあとも言わないんで、こっちの母を随分心配させてしまいました」
「そ、そっかあ……。仲良くやれてる?」
「それはもう! ただ、妹はお祖母ちゃんだったんで、私にすぐお菓子くれるんです。姉が巻き上げてるみたいに見られるから、やめてって言ってるのに」
――妹は、お祖母ちゃん。
責任は私にある訳だし、これ以上笑ってはいけないと思うんだけど、どうしても表情が緩む。
ただ、クゥアイはとても嬉しかったようだ。
皆んなが中学生になった頃、テレビで見た少年はフーチャオだった。日焼けで真っ黒になったヤンチャそうな少年は、自転車で日本一周したって紹介されてた。
「俺の彼女でーすっ!」
と、肩を組まれて迷惑そうに笑ってたのはミオンだった。
フーチャオはミオンを探して日本一周したのだろう。笑顔が輝いて見えた。
各ご家庭の事情によるのだけど、その頃から徐々に、かつての乙女たちとSNSで繋がりはじめた。
「ええか? ウチと母ちゃんは別の人格なんやで? そこんとこ間違えたらあかん」
と、ユエは一時毒親化しかかった母親をこんこんと説教して、更生させたらしい。
とはいえ、幼い頃から愛情をたっぷり注がれて育ったユエは、もはや完全に別人でクラスでも人気者なんだそうだ。
しかも、転生先は関西だった。
京都に家族旅行したときに会いに来てくれた関西弁のユエは、ケタケタよう笑いはる別嬪さんになってましたわぁ。
北は北海道から、南は沖縄まで。勇吾と娘の麗花と頻繁に旅行して、元ジーウォ国民約1200の魂をすべて確認することが出来た。それぞれの人生があるので、こちらから名乗り出ることはしないけど、呪術が成功していたことに胸を撫で下ろした。
隣の県に住むシアユンとメイファンが遊びに来てくれたのは、高校に入学した頃。
「もう1回だけ、マーくんとお風呂入りたいなぁ」
と、言うメイファンを、シアユンが嗜めた。
「私たち未成年ですから、マ、マーくんが捕まります」
「そっかあ。それじゃあさ、高校卒業したら皆んなで温泉行こうよ! それなら良くない?」
と、メイファンの発案で、最後の大浴場が準備された。
「それに、約束の18年が経つ訳だしさっ! ひひっ!」
そして、卒業後。元乙女たちは一堂に会した。温泉に向かって街を歩く姿はまさに「私立ジーウォ女子校」状態。美少女たちに囲まれた勇吾はあの頃よりも顔を赤くした。
メイファンは茶化して笑ってたけど、再び側室になりたいと言う娘は一人もいなかった。
飽くまでも生きる世界において、常識的な娘ばかりだった。
――ちょっとは、覚悟してたのよ?
と、思わないではないけど、それぞれ幸せを見付けられるなら、それに越したことはない。
「里佳さん……。いや、お妃よ」
と、湯船の中をアスマが近寄って来た。日本に帰れば引くほど美しい褐色巨乳さんだ。
「なに?」
「皆んな、ハッピーエンドだな」
と、肩を並べたアスマが笑った。
「そう? それでいい?」
「いいと思うぞ。私はな」
「そか……」
「だから、もう荷物を降ろしていいのではないか?」
「えっ?」
「お妃は、皆を救ったのだ。それが、我らのハッピーエンドだ。我が主も含めてな」
目の前では勇吾が乙女たちに、むにゅんむにゅんされ始めてた。
「ただ、終わりっぱなしにも出来ないからな。皆んな、次のスタート地点はここが良かったのだ。快く許して下さり礼を言う」
「ううん、そんな……」
「さて」
「えっ?」
――むにんっ。
と、アスマは私にも抱き着いてきた。
「ここも、私のスタート地点だからな。お妃も、明日からは自分のためだけに生きてくれ」
「きょ、今日は……?」
はにかむように笑って、私をギュッと抱き締めたアスマを皮切りに、私まで乙女たちの柔肌に包まれていく。
いい歳した夫婦が、若い女子たちにいいようにされて大浴場には笑顔が溢れた。
ご……、
極楽じゃあ……。
明日からはまた皆んなそれぞれ、自分の日常を生きていく。だけど今日一日だけ、今はもうない故郷に思いを馳せて――。
「お妃様は、それでいいのだ」
と、シーシが笑った。
― 了 ―
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