【本編完結】嫌われ偽聖者の俺に、最狂聖騎士が死ぬほど執心する理由

司馬犬

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3章

20.偽聖者は呪いを知る

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 スカルドは、そのまま寝室に運ばれることになった。ネイスが言うには気を失っているだけで、現状命に危険はないそうだ。そして、その後俺たちは応接間へ案内された。
 応接間は、高い天井に豪華なシャンデリアが飾られていた。更に大理石の床は宝石のように磨かれ、美しい光を放っている。さすが公爵家の応接間といえるだろう。
 俺は応接用のソファに腰を下ろし、俺のすぐ隣にはフシェン、正面にはネイスがいる。

「それで、レダの体には何もなかったのか?」
「はい。私が責任持って隅々まで確認しましたが、そのような痕は見つかりませんでした」
「だ、そうです……」

 スカルドが寝室に運ばれている間、俺はネイスから灰色の変色がないかどうか、体の隅々まで調べろと言われたのだ。理由を説明してほしいと詰め寄ると、調べた後ならば教えると言われ、俺はそれに従うことにした。
 しかし、一人では見えない所もあるので、フシェンに手伝って貰うしかない。つまり、痕をつけた本人にその痕を見せつけながら、調べられることになった訳だ。
 ……恥ずかしくて死ぬかと思った。
 先程の灰色に変色した肌は遠目で見ただけだが、ネイスのものも、間違いなくスカルドと同じものだった。
 俺はあれと同じものを、ゴート、スカルド、ネイスと見てきた。不思議と同じものだと断定できるものであり、もしこのことについて、ネイスが詳しく知っているならゴートのためにも、聞いておかなければならない。
 俺は恥ずかしさを振り切り、ネイスと真正面から向き合う。

「それでは改めて、灰色の変色のことをどうして俺に調べさせたのか、説明していただけますか?」

 俺の問いかけにネイスは、すぐに答えなかった。少しの沈黙が流れてから、小さな吐息と共に口を開いた。

「レダは、宮殿の禁書庫に足を運んだか?」
「あ、はい。数度足を運びました」
「では、呪いについては知っているか?」

 それに対して、俺は黙って頷いた。ネイスは小さく「そうか」と答えた後は、また黙り込んでしまう。
 通常なら、表情を見て空気を読むのだが、相変わらず無表情のネイス相手だとどうにもやりにくい。今も、何を考えているのか、全く分からない。

「私は呪いについて、よく知りません。よろしければ、お聞きしても構いませんか?」

 フシェンは、ネイスを気遣うことなく淡々と話を進める。さすがだ、フシェン。彼の恐れ知らずはこういう時にとても役に立つ。

「そうだな。貴様がレダの側にいるなら、不本意だが話しておくべきだろう。改めて、ヴァルギース家にかかっている呪いの話をしよう。そして、今から話すことは、本来ならヴァルギース家当主、次期当主、そして教皇しか知ってはいけないものだ」

 ネイスは、フシェンをじっと見据えてから感情の宿らない声でそう切り出した。

「結果から言ってしまえば、この変色した灰色の肌。これこそが、ヴァルギース家にかかった呪いだ」
「え」

 自分が知った事実と異なることに、驚いて声が漏れる。ネイスは、小さく息を吐いて話を続けた。

「全ては、この国が出来た時の話から始まる」

 ネイスはそう切り出して、起伏のない声で淡々と続けた。
 この国の始まりは、ある青年の願いをシャウーマ神が叶えたことだ。そして、その願いを叶えられた青年──彼こそが、初代ヴァルギース公爵だという。
 シャウーマ神は初代公爵の願いを叶えるために人間の前に姿を現し、建国した。当然、二人の仲はとても良かった。しかし、それは次第に友情から愛に変わっていったという。二人は互いの愛を伝え合い、限られた生を共に過ごすと約束した。

「なるほど。シャウーマ神には人間の恋人がいたのですか」

 俺はフシェンの言葉を聞いて小さく息を呑む。よくよく考えれば俺の隣にいるのは、シャウーマ神の狂信者だ。その神に恋人がいると聞いて、冷静でいられないのではと思い、様子を窺うため視線を向けるが、何故かフシェンと目が合う。
 フシェンは、俺と目が合うと幸せそうに微笑む。それはいつも通りの彼であり、何の変化も見られない。
 ……意外だ。もう少し、動揺するかと思っていたのだが。

「そうだ。そして、そのせいで僕たち一族は呪われることになった」

 ネイスの話は更に続き、建国してしばらくした後に大きな出来事が起こったという。
 それは、初代公爵の裏切りだった。
 シャウーマ神と愛を誓い合っておきながら、初代公爵は他の相手に恋をしたのだ。シャウーマ神は簡単に捨てられてしまい、悲嘆に暮れながらその姿を消してしまったらしい。
 その話を聞いた時に、ふと思い出したのは少し前に見た夢だ。
 今でもはっきりと内容が思い出せるほどに記憶に残った、フシェンに似た男が泣き叫んでいる夢。

『これは裏切りだ、わかっているだろう!』

 裏切りと聞いたからだろうか、そのことが頭から離れなかった。
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