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【ルームツアー】
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三人と一匹が家の中へ戻ると、麻美を先頭にルームツアーを開始した。
「は~い。改めてルームツアーで~す! まずは玄関から。さて、ここにあります、ゴツゴツした紫の石は、アメジストという宝石らしいで~す。魔除けの効果があるって、じぃじが言ってました~」
「すごい大きさだね」
「桜、これと同じやつ科学館で見た気がする。普通の家にあるとかスゲー」
「触ると痛いから気をつけて……って、言ってるそばから桜ちゃん⁉」
桜は、アメジストに手を伸ばしかけた瞬間、麻美が制止した。その直後、桜の危機察知アンテナがビビビッと反応した。恐る恐る玲の方をのぞくと、案の定、般若の如き形相で睨まれていた。慌てて口笛を吹いて(吹けてないが)誤魔化そうとする。
「あ、いやぁ……。フュ、フュッフュ~♪」
「アンタ、次いらんことしようとしたら、コンテナ船にぶち込んで家に強制送還するからね!」
「す、すんませんっ。大人しくしておきまする~」
恐怖に慄いた桜の口調は、何故か語尾が武士風になっていた。
玲の逆鱗に触れてはいけない……。銀仁朗はそう感じ、ゾクリと背筋に悪寒が走った。
「こ、怖っ……ブルルッ」
「き、気を取り直して、次の場所に行こうかなぁ~、あはは」
「ホントごめんね。お願いします」
「じゃあ、次はこっちね。じゃ~ん! 大広間で~す。上をご覧くださ~い。この、え~っと、欄、なんちゃら?」
「欄干? 欄間? どっちだっけ。銀ちゃん分かる?」
「欄間やろ。欄干は橋とかにあるやつや」
「はぇ~。ほんと銀ちゃん賢いね~。下手したらうちらより頭いいかも。あははっ」
「麻美。それ笑えない。人間としての沽券を失うよ」
玲の大袈裟な言い回しに、銀仁朗がツッコむ。
「沽券て大層な……。わし、計算とかはさっぱりやで。記憶力が少しええだけや。せやから安心せぇ」
「お、おぅ……だってよ、玲」
「私たちも、もっと勉強しなくちゃだね……」
「桜、銀ちゃんにお勉強教えて貰おうかなぁー」
「いいんじゃない。いい家庭教師が見つかったね」
「え、冗談で言ったんだが……。まぁ、それもアリかもしんないねー。銀ちゃん、勉強なに教えられるー?」
銀仁朗は、あごに手を当てながら、あることを思い出していた。
「……昔、オオカミに育てられた人間がおったらしいんやけど、その人間はオオカミみたいになってもぉたらしいぞ。この理屈でいくと、桜はコアラ化してまうかもしれんで」
それを聞いた桜は、驚きの表情を浮かべる。
「桜がコアラになってしまう、だと……。最高じゃねーか!」
「コアラになったら、毎日ぐうたら生活できるからか? いいんじゃない、アンタには至極お似合いだわ」
姉からの酷い言いように、声を荒げる。
「もう! お姉ちゃんったら……。図星だよ‼」
「あーはいはい。で、麻美、この欄間がどうしたの?」
「ぎゃはははっ~! 大原家の掛け合いマジ最高! オモロ過ぎて腹痛ぇ~」
「で、欄間の話の続きを」
「あ、そうそう。これね、うちのひぃおじいちゃんが手作りしたやつなんだってさ~。じぃじのお父さん、ちょっと有名な彫刻家だったらしいの。鶴と亀が彫ってあって、家の繁栄を願ったデザインなんだって~」
「桜、いつも疑問に思ってたんだけどさ、亀は長生きってイメージあるけど、鶴ってそんなに長生きじゃない気がするんだよね。なのに、なんで長寿の象徴なのかなぁ?」
「それはな、鶴は渡り鳥で、毎年同じ場所に戻ってくる習性があるんや。で、人には一羽一羽の違いなんて分からへんから、毎年同じ鶴が同じ場所に戻ってきとると思ってたんやろな。実際、鶴の寿命は二~三十年らしいで」
銀仁朗の蘊蓄を聞き、桜が呆然とした表情で呟く。
「……やっぱ桜、銀ちゃんのこと、今日から先生って呼ぶぼうかな」
「やめい! 全部、大川のおっちゃんの受け売りや。わしが賢いんとちゃう」
そんな会話をしていると、先に進んでいた麻美からの呼び声が聞こえてきた。
「おーい二人とも~、次の部屋行くよ~」
「はぁーい」
「次は、うちのママの部屋だったところで~す」
「ピアノがあるね。麻美のお母さんってピアノ弾けるんだ!」
「ちょびっとね~。うちも小さい頃ちょっと習ってたけど、そっちの才能は皆無だったぜ! そういや玲は、六年の音楽会でピアノの伴奏してたよね? 久々に弾いてみてよ~」
「無理だよ。もう忘れちゃったし」
「じゃあ桜が弾くー」
「また出た、出しゃばり娘!」
「いいよいいよ~。桜ちゃんもピアノ習ってるの?」
「そだよー。今は『アラベスク』の練習してる。弾いてあげるねー」
「アラベスク……。知らんけど、難しそうな曲名だね~」
「麻美も聞いたら分かるかもよ。私も二年前のピアノの発表会で弾いたんだけど、結構難しい曲だったね」
「じゃ、いくよー!」
桜は、拙いながらも、アラベスクを最後まで弾ききった。
「うわ~、桜ちゃんすごいじゃん!」
「リズムとかはまだまだだけどね。まぁまぁじゃない」
「お姉ちゃんも、麻美ちゃんみたく褒めてよー。桜は褒めて伸びるタイプだよー!」
「あんたは、褒めると鼻ばっか伸びるタイプだから、私は簡単には褒めませーん」
「ひどっ! 桜はピノキオじゃないってのー」
いつもの姉妹喧嘩が始まり、やれやれという表情で口を開いた。
「なぁ、わしもピアノやってみてええか?」
突然の申し出に玲は驚いた。
「銀ちゃん……。まさか、ピアノ弾けるの⁉」
「いや、やったことないで」
「だ、だよねー。じゃあ、一緒にやってみよっか」
「おう、よろしく頼むわ」
玲は椅子に座ると、銀仁朗を膝の上に乗せた。
「これで鍵盤に届くかな?」
「おう、バッチシや」
「じゃあ、まずここを押してみて」
玲は、銀仁朗に『ド』の鍵盤の場所を教え、そこを押してみるように促した。すると、部屋に『ドー♪』とやや低い音が鳴り響いた。
「この音が『ド』だよ。じゃあ、次は右側の鍵盤を、順番にここまで押してみて」
『ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド♪』
「そうそう、良い感じ!」
その様子を見ていた桜が、ポツリと嘆き節をこぼす。
「なんで銀ちゃんにはあんな簡単に褒めるんだよぉ……」
「い、いいでしょ別に。銀ちゃんは初めてなんだから」
「ねぇ、桜ちゃん。ちょっと耳貸して」
麻美は、小声で合図し、桜の耳元で囁いた。
「あのね、実は玲って、学校で桜ちゃんのこと結構話してるんだよ。最近は、料理の手伝いをしてくれるようになって、味見と称してめっちゃつまみ食いしてることとか、音楽会で、ピアノの伴奏に選ばれるためにめっちゃ練習してることとか、普段の字は汚いのに、習字の時はめっちゃ上手なんだ~とか」
「なんか、ちょいちょいディスられてる気がしたんだが……。でも、意外だなー。家では桜のこと全然興味ない感じで、話しすらあんましてくれないから」
「やっぱ家族だからさ、気恥ずかしさとかがあるんじゃないかな~。うちも兄ちゃんに褒めてもらった記憶なんて、ほとんどないよ~」
「そんなもんなのかな、姉妹って」
「そんなもんだよ、兄妹って」
妹同盟がコショコショ話をしている間にも、銀仁朗はみるみるピアノの腕を上達させていた。
『ド・レミ・ドミドミ・レ・ミファファミレファー♪』
「いや、すごすぎん!?」
「言うたやろ、記憶力はええって!」
銀仁朗は、そう言いながらドヤ顔をキメるのだった。
玲たちがルームツアーを楽しんでいるうちに、いつの間にかかなり時間が経っていたらしい。少し離れた場所から、遼の声が響いた。
「おーい、麻美たちどこおるんや~?」
「あ、兄ちゃんが呼んでる。は~い、ここだけど、どうしたの~?」
「夕飯の支度ができたみたいや。手伝いに来てくれ」
「お、もうそんな時間? そういやお腹空いたね~。んじゃルームツアーの最後は、キッチンってことで、うちらもお手伝いしましょ~!」
大広間には、来客用の大きなテーブルがセッティングされていた。
遼がその中央に、和昌特製の大きな土鍋をどんと置く。中身は炊きたてのかきまぜだ。しょうゆの香ばしい匂いと、魚介の出汁がふわっと広がり、部屋中を包み込んだ。
その周囲には、小豆島近海で獲れたであろう新鮮な刺身の盛り合わせ、サラダ、唐揚げなどがずらりと並び、まるで旅館の夕食のように華やかだ。
「わぁ! 旅館で出てくる料理みたいだー! すごいねー、お姉ちゃん!」
「ほんとにすごい……。ありがとうございます、こんなに豪華なお食事を用意してもらって」
「客人が来るなんて滅多にないけぇな。普段からこんな贅沢な食事やこーせんけぇ、今日は特別じゃ」
「わ~い。じぃじのご飯、めっちゃ美味いからね! うちは特に唐揚げが好き~!」
「お前はお子ちゃま舌やからな。サラダとかも食べろや。玲ちゃん達も、遠慮せずたくさん食べてな。どれも美味しいで!」
「あ、ちょっと待って!」
「ん? 玲、どした?」
「銀ちゃんのご飯、忘れてた!」
「なる~。じゃあ、いただきますはその後だね~」
「ごめんね、ありがと。すぐ取ってくる」
和昌は、隣に座っていた銀仁朗に、素朴な疑問を投げかけた。
「コアラいうんは、何食べよんじゃ?」
「ユーカリが主食やで。せやけど、その件でちょっと問題が発生してもうてなぁ……。実はそれで、和昌翁に折り入って相談があって、わしら今日ここに来させてもろたんや」
「ほう、相談とな」
「わしの餌のユーカリが、そろそろ底を尽きそうなんや。わしユーカリ以外にも食べられるもんあるんやけど、あんま玲の家に負担かけんようにしてやりたいんやわ。そこで、和昌翁が育てとるオリーブの葉を、少し分けてもらわれへんかと思ってなぁ」
「なるほどのぉ……良質なオリーブの実を育てるには、葉にようけ日光を浴びさせ、光合成させにゃいけん。瀬戸内の気候は雨が少なく、お日さんが照っとる時間が長いけぇ、オリーブの栽培に適しとるんじゃよ。じゃけぇ、葉を切りすぎると、良い実が育たんよぉになる」
「ほな、やっぱ難しいかぁ……」
「そうは言っとらん。オリーブの木を手入れしとると、要らん枝がよう生えてくる。『からみ枝』とか『さがり枝』とか、『ひこばえ』言うて根元から出てくるもんとか。そういう枝は、むしろ剪定してやらんとおえんのんじゃ。そこに付いとる葉なら、儂らには捨てる以外に何の用途もないもんじゃけぇ、それで良ければ、いくらでも持ってってえぇぞ!」
「ホンマか⁉ それで充分や! 是非分けてくれ! いや、分けてもらわれへんか?」
「もちろんえぇとも。畑の脇に置いとるけぇ、明日みんなで取りに行こうか」
ちょうどそのとき、玲が銀仁朗のご飯を持って戻ってきた。
「ごめーん、銀ちゃんお待たせー……って、何かあった? なんだかすごく嬉しそうだけど」
「そやねん、玲! 和昌翁が、オリーブの葉、分けてくれるって言うてくれたんや!」
「え、本当? ってかその話、私がするつもりだったのに」
「銀仁朗君は、君たちの世話になってばかりいることを、些か気にかけているみたいじゃ。できるだけ迷惑をかけないようにしたいと思っとるんじゃろ。そんな気持ちも伝わってきたけぇ、儂にできそうなことがあれば、何でも協力しちゃるで。もし足りんようなったら、知り合いの農家にも頼んでみるけぇ、安心せぇ!」
「じぃじ、ありがとう! あ、でも、くれぐれも玲の家でコアラ飼ってることは内緒だかんね!」
「お、おうよ」
「和昌じいちゃん、大好き!」
「いいってもんよぉ~。ほいじゃあ、銀仁朗君のご飯も来たけん、飯食べよろか!」
「は~い、乾杯の音頭はうちがやりま~す!」
「じいちゃん、コップ持って。ビール注ぐよ」
「おおきに、遼。おめぇも飲むけ?」
「うん、付き合うよ。成人してるの俺だけやしな」
「遼もでぇれぇ大きなったもんじゃのぉ。じいちゃんは嬉しいわ」
「年取っただけやって」
遼は微笑みながらビールを注いでいった。
「では改めて——玲、桜ちゃん、銀ちゃん、ようこそ小豆島へ! 弥栄~!」
和昌と遼はビールで、その他の三人は麦茶で乾杯。銀仁朗はユーカリの葉を杯代わりに掲げた。
「ねぇ、麻美。さっきの『弥栄』って何?」
「さぁ~? いつもじぃじが言ってるのマネしただけ。意味は知らん」
「弥栄言うんはのぉ、日本古来の盃を交わす時の挨拶じゃ。繁栄を祈るいう意味があるんじゃよ。儂は乾杯いう言葉が好かんけぇ、いつも弥栄言うとる」
桜が首を傾げながら、和昌の言葉に疑問を呈した。
「なんで乾杯じゃダメなのー?」
「乾杯は完敗と同じ発音じゃろ。儂は負けるんが嫌いやけぇ、乾杯は使わんようにしとるんじゃ。一種の呪いみたいじゃな」
「へぇ、勉強になります。じゃあ麻美。改めて、弥栄!」
「弥栄~!」
夕食を終えた一同は、手分けして食器を片付け、大きな机を隅に寄せて、布団を敷く準備を始めた。
「明日は朝から畑に行くけぇ、風呂入って、早よ寝られーよ」
「玲たち、先にお風呂行ってきていいよ~」
「じゃあ、お言葉に甘えて。桜行くよ」
「はぁーい」
八時には全員が風呂から上がり、大広間には玲と桜、麻美の分の布団が敷かれた。
銀仁朗は、麻美たちが赤ちゃんだった頃に使っていたという揺りかごを特製ベッドに改造してもらい、そこにタオルケットを敷いて寝ることになった。
「んじゃ、そろそろ寝ますか~……って、んなわけないがな~! 夜はこれからだぜ~!!」
「イェーイ! レッツパーリィナーイ♪」
「桜、うるさい」
「玲、ぜーんぜん大丈夫だよ~。お隣さんちまで百メートル以上も離れてるし、ご近所迷惑とか一切気にしなくてもいいんだな~」
「でも、遼君たちもいるじゃん?」
「兄ちゃんもじぃじも、二階の奥の部屋で寝てるし……大丈夫っしょ!」
「ほんとに……?」
「うんうん、気にしない気にしな~い♪」
「麻美ちゃん、UMOしよーよ!」
「お、UMOすんのか! わしもやるでぇ」
「もち、銀ちゃんも参加だよ~」
——かくして、白熱のUMO大会in小豆島が開催された。
「桜、上がりぃー!」
「うぉっ、また桜が一位かいな。なんでそんな強いねん!」
「銀ちゃんたちが弱いだけなんじゃなーい?」
二連続で一位になった桜は、とても憎たらしいドヤ顔でそう言った。
「けったいな顔しよってからに……。次は負けへんで!」
「は~い。改めてルームツアーで~す! まずは玄関から。さて、ここにあります、ゴツゴツした紫の石は、アメジストという宝石らしいで~す。魔除けの効果があるって、じぃじが言ってました~」
「すごい大きさだね」
「桜、これと同じやつ科学館で見た気がする。普通の家にあるとかスゲー」
「触ると痛いから気をつけて……って、言ってるそばから桜ちゃん⁉」
桜は、アメジストに手を伸ばしかけた瞬間、麻美が制止した。その直後、桜の危機察知アンテナがビビビッと反応した。恐る恐る玲の方をのぞくと、案の定、般若の如き形相で睨まれていた。慌てて口笛を吹いて(吹けてないが)誤魔化そうとする。
「あ、いやぁ……。フュ、フュッフュ~♪」
「アンタ、次いらんことしようとしたら、コンテナ船にぶち込んで家に強制送還するからね!」
「す、すんませんっ。大人しくしておきまする~」
恐怖に慄いた桜の口調は、何故か語尾が武士風になっていた。
玲の逆鱗に触れてはいけない……。銀仁朗はそう感じ、ゾクリと背筋に悪寒が走った。
「こ、怖っ……ブルルッ」
「き、気を取り直して、次の場所に行こうかなぁ~、あはは」
「ホントごめんね。お願いします」
「じゃあ、次はこっちね。じゃ~ん! 大広間で~す。上をご覧くださ~い。この、え~っと、欄、なんちゃら?」
「欄干? 欄間? どっちだっけ。銀ちゃん分かる?」
「欄間やろ。欄干は橋とかにあるやつや」
「はぇ~。ほんと銀ちゃん賢いね~。下手したらうちらより頭いいかも。あははっ」
「麻美。それ笑えない。人間としての沽券を失うよ」
玲の大袈裟な言い回しに、銀仁朗がツッコむ。
「沽券て大層な……。わし、計算とかはさっぱりやで。記憶力が少しええだけや。せやから安心せぇ」
「お、おぅ……だってよ、玲」
「私たちも、もっと勉強しなくちゃだね……」
「桜、銀ちゃんにお勉強教えて貰おうかなぁー」
「いいんじゃない。いい家庭教師が見つかったね」
「え、冗談で言ったんだが……。まぁ、それもアリかもしんないねー。銀ちゃん、勉強なに教えられるー?」
銀仁朗は、あごに手を当てながら、あることを思い出していた。
「……昔、オオカミに育てられた人間がおったらしいんやけど、その人間はオオカミみたいになってもぉたらしいぞ。この理屈でいくと、桜はコアラ化してまうかもしれんで」
それを聞いた桜は、驚きの表情を浮かべる。
「桜がコアラになってしまう、だと……。最高じゃねーか!」
「コアラになったら、毎日ぐうたら生活できるからか? いいんじゃない、アンタには至極お似合いだわ」
姉からの酷い言いように、声を荒げる。
「もう! お姉ちゃんったら……。図星だよ‼」
「あーはいはい。で、麻美、この欄間がどうしたの?」
「ぎゃはははっ~! 大原家の掛け合いマジ最高! オモロ過ぎて腹痛ぇ~」
「で、欄間の話の続きを」
「あ、そうそう。これね、うちのひぃおじいちゃんが手作りしたやつなんだってさ~。じぃじのお父さん、ちょっと有名な彫刻家だったらしいの。鶴と亀が彫ってあって、家の繁栄を願ったデザインなんだって~」
「桜、いつも疑問に思ってたんだけどさ、亀は長生きってイメージあるけど、鶴ってそんなに長生きじゃない気がするんだよね。なのに、なんで長寿の象徴なのかなぁ?」
「それはな、鶴は渡り鳥で、毎年同じ場所に戻ってくる習性があるんや。で、人には一羽一羽の違いなんて分からへんから、毎年同じ鶴が同じ場所に戻ってきとると思ってたんやろな。実際、鶴の寿命は二~三十年らしいで」
銀仁朗の蘊蓄を聞き、桜が呆然とした表情で呟く。
「……やっぱ桜、銀ちゃんのこと、今日から先生って呼ぶぼうかな」
「やめい! 全部、大川のおっちゃんの受け売りや。わしが賢いんとちゃう」
そんな会話をしていると、先に進んでいた麻美からの呼び声が聞こえてきた。
「おーい二人とも~、次の部屋行くよ~」
「はぁーい」
「次は、うちのママの部屋だったところで~す」
「ピアノがあるね。麻美のお母さんってピアノ弾けるんだ!」
「ちょびっとね~。うちも小さい頃ちょっと習ってたけど、そっちの才能は皆無だったぜ! そういや玲は、六年の音楽会でピアノの伴奏してたよね? 久々に弾いてみてよ~」
「無理だよ。もう忘れちゃったし」
「じゃあ桜が弾くー」
「また出た、出しゃばり娘!」
「いいよいいよ~。桜ちゃんもピアノ習ってるの?」
「そだよー。今は『アラベスク』の練習してる。弾いてあげるねー」
「アラベスク……。知らんけど、難しそうな曲名だね~」
「麻美も聞いたら分かるかもよ。私も二年前のピアノの発表会で弾いたんだけど、結構難しい曲だったね」
「じゃ、いくよー!」
桜は、拙いながらも、アラベスクを最後まで弾ききった。
「うわ~、桜ちゃんすごいじゃん!」
「リズムとかはまだまだだけどね。まぁまぁじゃない」
「お姉ちゃんも、麻美ちゃんみたく褒めてよー。桜は褒めて伸びるタイプだよー!」
「あんたは、褒めると鼻ばっか伸びるタイプだから、私は簡単には褒めませーん」
「ひどっ! 桜はピノキオじゃないってのー」
いつもの姉妹喧嘩が始まり、やれやれという表情で口を開いた。
「なぁ、わしもピアノやってみてええか?」
突然の申し出に玲は驚いた。
「銀ちゃん……。まさか、ピアノ弾けるの⁉」
「いや、やったことないで」
「だ、だよねー。じゃあ、一緒にやってみよっか」
「おう、よろしく頼むわ」
玲は椅子に座ると、銀仁朗を膝の上に乗せた。
「これで鍵盤に届くかな?」
「おう、バッチシや」
「じゃあ、まずここを押してみて」
玲は、銀仁朗に『ド』の鍵盤の場所を教え、そこを押してみるように促した。すると、部屋に『ドー♪』とやや低い音が鳴り響いた。
「この音が『ド』だよ。じゃあ、次は右側の鍵盤を、順番にここまで押してみて」
『ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド♪』
「そうそう、良い感じ!」
その様子を見ていた桜が、ポツリと嘆き節をこぼす。
「なんで銀ちゃんにはあんな簡単に褒めるんだよぉ……」
「い、いいでしょ別に。銀ちゃんは初めてなんだから」
「ねぇ、桜ちゃん。ちょっと耳貸して」
麻美は、小声で合図し、桜の耳元で囁いた。
「あのね、実は玲って、学校で桜ちゃんのこと結構話してるんだよ。最近は、料理の手伝いをしてくれるようになって、味見と称してめっちゃつまみ食いしてることとか、音楽会で、ピアノの伴奏に選ばれるためにめっちゃ練習してることとか、普段の字は汚いのに、習字の時はめっちゃ上手なんだ~とか」
「なんか、ちょいちょいディスられてる気がしたんだが……。でも、意外だなー。家では桜のこと全然興味ない感じで、話しすらあんましてくれないから」
「やっぱ家族だからさ、気恥ずかしさとかがあるんじゃないかな~。うちも兄ちゃんに褒めてもらった記憶なんて、ほとんどないよ~」
「そんなもんなのかな、姉妹って」
「そんなもんだよ、兄妹って」
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「いや、すごすぎん!?」
「言うたやろ、記憶力はええって!」
銀仁朗は、そう言いながらドヤ顔をキメるのだった。
玲たちがルームツアーを楽しんでいるうちに、いつの間にかかなり時間が経っていたらしい。少し離れた場所から、遼の声が響いた。
「おーい、麻美たちどこおるんや~?」
「あ、兄ちゃんが呼んでる。は~い、ここだけど、どうしたの~?」
「夕飯の支度ができたみたいや。手伝いに来てくれ」
「お、もうそんな時間? そういやお腹空いたね~。んじゃルームツアーの最後は、キッチンってことで、うちらもお手伝いしましょ~!」
大広間には、来客用の大きなテーブルがセッティングされていた。
遼がその中央に、和昌特製の大きな土鍋をどんと置く。中身は炊きたてのかきまぜだ。しょうゆの香ばしい匂いと、魚介の出汁がふわっと広がり、部屋中を包み込んだ。
その周囲には、小豆島近海で獲れたであろう新鮮な刺身の盛り合わせ、サラダ、唐揚げなどがずらりと並び、まるで旅館の夕食のように華やかだ。
「わぁ! 旅館で出てくる料理みたいだー! すごいねー、お姉ちゃん!」
「ほんとにすごい……。ありがとうございます、こんなに豪華なお食事を用意してもらって」
「客人が来るなんて滅多にないけぇな。普段からこんな贅沢な食事やこーせんけぇ、今日は特別じゃ」
「わ~い。じぃじのご飯、めっちゃ美味いからね! うちは特に唐揚げが好き~!」
「お前はお子ちゃま舌やからな。サラダとかも食べろや。玲ちゃん達も、遠慮せずたくさん食べてな。どれも美味しいで!」
「あ、ちょっと待って!」
「ん? 玲、どした?」
「銀ちゃんのご飯、忘れてた!」
「なる~。じゃあ、いただきますはその後だね~」
「ごめんね、ありがと。すぐ取ってくる」
和昌は、隣に座っていた銀仁朗に、素朴な疑問を投げかけた。
「コアラいうんは、何食べよんじゃ?」
「ユーカリが主食やで。せやけど、その件でちょっと問題が発生してもうてなぁ……。実はそれで、和昌翁に折り入って相談があって、わしら今日ここに来させてもろたんや」
「ほう、相談とな」
「わしの餌のユーカリが、そろそろ底を尽きそうなんや。わしユーカリ以外にも食べられるもんあるんやけど、あんま玲の家に負担かけんようにしてやりたいんやわ。そこで、和昌翁が育てとるオリーブの葉を、少し分けてもらわれへんかと思ってなぁ」
「なるほどのぉ……良質なオリーブの実を育てるには、葉にようけ日光を浴びさせ、光合成させにゃいけん。瀬戸内の気候は雨が少なく、お日さんが照っとる時間が長いけぇ、オリーブの栽培に適しとるんじゃよ。じゃけぇ、葉を切りすぎると、良い実が育たんよぉになる」
「ほな、やっぱ難しいかぁ……」
「そうは言っとらん。オリーブの木を手入れしとると、要らん枝がよう生えてくる。『からみ枝』とか『さがり枝』とか、『ひこばえ』言うて根元から出てくるもんとか。そういう枝は、むしろ剪定してやらんとおえんのんじゃ。そこに付いとる葉なら、儂らには捨てる以外に何の用途もないもんじゃけぇ、それで良ければ、いくらでも持ってってえぇぞ!」
「ホンマか⁉ それで充分や! 是非分けてくれ! いや、分けてもらわれへんか?」
「もちろんえぇとも。畑の脇に置いとるけぇ、明日みんなで取りに行こうか」
ちょうどそのとき、玲が銀仁朗のご飯を持って戻ってきた。
「ごめーん、銀ちゃんお待たせー……って、何かあった? なんだかすごく嬉しそうだけど」
「そやねん、玲! 和昌翁が、オリーブの葉、分けてくれるって言うてくれたんや!」
「え、本当? ってかその話、私がするつもりだったのに」
「銀仁朗君は、君たちの世話になってばかりいることを、些か気にかけているみたいじゃ。できるだけ迷惑をかけないようにしたいと思っとるんじゃろ。そんな気持ちも伝わってきたけぇ、儂にできそうなことがあれば、何でも協力しちゃるで。もし足りんようなったら、知り合いの農家にも頼んでみるけぇ、安心せぇ!」
「じぃじ、ありがとう! あ、でも、くれぐれも玲の家でコアラ飼ってることは内緒だかんね!」
「お、おうよ」
「和昌じいちゃん、大好き!」
「いいってもんよぉ~。ほいじゃあ、銀仁朗君のご飯も来たけん、飯食べよろか!」
「は~い、乾杯の音頭はうちがやりま~す!」
「じいちゃん、コップ持って。ビール注ぐよ」
「おおきに、遼。おめぇも飲むけ?」
「うん、付き合うよ。成人してるの俺だけやしな」
「遼もでぇれぇ大きなったもんじゃのぉ。じいちゃんは嬉しいわ」
「年取っただけやって」
遼は微笑みながらビールを注いでいった。
「では改めて——玲、桜ちゃん、銀ちゃん、ようこそ小豆島へ! 弥栄~!」
和昌と遼はビールで、その他の三人は麦茶で乾杯。銀仁朗はユーカリの葉を杯代わりに掲げた。
「ねぇ、麻美。さっきの『弥栄』って何?」
「さぁ~? いつもじぃじが言ってるのマネしただけ。意味は知らん」
「弥栄言うんはのぉ、日本古来の盃を交わす時の挨拶じゃ。繁栄を祈るいう意味があるんじゃよ。儂は乾杯いう言葉が好かんけぇ、いつも弥栄言うとる」
桜が首を傾げながら、和昌の言葉に疑問を呈した。
「なんで乾杯じゃダメなのー?」
「乾杯は完敗と同じ発音じゃろ。儂は負けるんが嫌いやけぇ、乾杯は使わんようにしとるんじゃ。一種の呪いみたいじゃな」
「へぇ、勉強になります。じゃあ麻美。改めて、弥栄!」
「弥栄~!」
夕食を終えた一同は、手分けして食器を片付け、大きな机を隅に寄せて、布団を敷く準備を始めた。
「明日は朝から畑に行くけぇ、風呂入って、早よ寝られーよ」
「玲たち、先にお風呂行ってきていいよ~」
「じゃあ、お言葉に甘えて。桜行くよ」
「はぁーい」
八時には全員が風呂から上がり、大広間には玲と桜、麻美の分の布団が敷かれた。
銀仁朗は、麻美たちが赤ちゃんだった頃に使っていたという揺りかごを特製ベッドに改造してもらい、そこにタオルケットを敷いて寝ることになった。
「んじゃ、そろそろ寝ますか~……って、んなわけないがな~! 夜はこれからだぜ~!!」
「イェーイ! レッツパーリィナーイ♪」
「桜、うるさい」
「玲、ぜーんぜん大丈夫だよ~。お隣さんちまで百メートル以上も離れてるし、ご近所迷惑とか一切気にしなくてもいいんだな~」
「でも、遼君たちもいるじゃん?」
「兄ちゃんもじぃじも、二階の奥の部屋で寝てるし……大丈夫っしょ!」
「ほんとに……?」
「うんうん、気にしない気にしな~い♪」
「麻美ちゃん、UMOしよーよ!」
「お、UMOすんのか! わしもやるでぇ」
「もち、銀ちゃんも参加だよ~」
——かくして、白熱のUMO大会in小豆島が開催された。
「桜、上がりぃー!」
「うぉっ、また桜が一位かいな。なんでそんな強いねん!」
「銀ちゃんたちが弱いだけなんじゃなーい?」
二連続で一位になった桜は、とても憎たらしいドヤ顔でそう言った。
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