可愛い君はモサカワオタク

陽花紫

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俺とモサカワ※

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 俺たちのデートの定番といえば、都会にある大きな電気街だった。
 決して整備されているとは言えない街並みを歩いて、安っぽいファミレスでドリンクバーを往復して。
 食事をした後はグッズショップとカードショップをハシゴする。
 気分が乗ればプラモデル売り場で足を止めることもあるし、気分が最高潮に達すると、カラオケで主題歌だけじゃなくて、効果音や台詞まで忠実に再現しはじめる。

 俺の彼氏は、いわゆる“古のオタク”だ。
 チェックのネルシャツをズボンにインして、背中にはくたびれた黒いリュック。
 髪型は無難というより放置気味で、全体的にどうしようもなくモサかった。
 でもそんな姿を可愛いとも思っていた。

 街を歩けば、人々の視線はまず俺に向けて刺さってくる。

「なんであいつ、あんなのと一緒なんだ?」
「大丈夫か?あれ」

 そんな声が、聞こえるような気がしていた。
 モサカワ彼氏に対して、俺は日に焼けた肌に痛んだ金髪、細い眉毛に腰まで下げたボトム。
 どこからどう見ても、ヤンキーだった。

 たぶん、周囲から見れば不釣り合いな組み合わせなんだろう。
 ヤンキーがオタクを連れて歩いている。カツアゲの前触れか、財布代わりか。
 そう思われても、仕方がない。

 けれど、実際は逆なんだ。
 俺のほうが、モサカワにゾッコンだったんだ。

「ごめん……。また、僕ばっかり喋ってるよね」

 グッズ棚の前で、そう言って彼は肩をすくめた。
 推しの設定や、声優の演技の変遷に、作画の癖など。
 止まらない語りの途中で、ふと我に返ったように、不安そうな顔をする。

「気にすんなよ、楽しいし」

 そう答えると、彼は少しだけ安心したように笑っていた。
 その瞬間が、たまらなく好きだった。

「そう?よかった。でね、それで……」

 もしかしたら俺は、声フェチなのかもしれない。
 彼の声は、低すぎず高すぎず少しだけ鼻にかかった柔らかい響きがあったんだ。
 夢中で語るときに、熱がこもる。照れると、ものすごく早口になる。
 謝るときは丁寧で、耳にするだけで胸の奥がじんわり温かくなるようだった。

 俺たちは、ゲイ向けのマッチングアプリで知り合った。
 モサカワは、顔写真よりもプロフィール欄がやたら長いやつだった。
 好きなアニメのタイトルが並んでいて、気づけばその中に俺が昔ハマっていた作品を見つけたんだ。
 それだけで、話が弾んだ。
 メッセージのやり取りは、不思議と楽だった。
 無理に強がらなくていいし、何より怖がられなかった。


 だけど初めて会ったその日、正直に言えば俺は絶望していた。
 待ち合わせ場所に現れたのは、想像以上にモサい姿をした彼だった。

「マジかよ、何かの間違いだろ?」

 悪いと思いながらも、俺はしばらくモサカワの様子を見守っていた。
 電車が遅れたふりをして、いま一度周囲を見回した。他に、それらしい人影はなかった。

 それでも、彼はそこにいた。
 気にするなと俺にメッセージを送って、リュックの紐をしっかりと両手で握りしめて落ち着かなさそうに立っていたんだ。
 その姿があまりにも不憫で、気付けば俺はそばに向かっていた。

「……ごめん、待った?」

 声をかけると、彼はびくりと肩を震わせた。

「ご、ごめんなさい! あの、その……」

 怯えたような目で俺を見上げて、そしてこう言ったんだ。

「こんなに……素敵な人が来るなんて、思ってなくて……」

 その一言で、俺の価値観が変わったんだ。
 今まで言われてきた言葉とは、まるで違っていたんだ。
 怖い、近寄りがたい、チャラい。そんな評価しか知らなかった俺に向けられた、まっすぐな言葉。

 ――やべぇ。

 俺はたぶん、この瞬間に恋に落ちたんだと思う。
 最初は、友達でもいいと思っていた。
 嫌われたくなくて、必死だった。
 それでも、彼はいつも俺に向けて誠実だった。

 かつて遊んでいた俺の話を聞いても、俺の過去を否定したりはしなかった。
 むしろ尊敬の眼差しを向けられたものだから、俺は思わず肩を叩いた。

「お前は、このままでいろよ?」

 純粋で、それでいてモサカワは、面白いやつだった。

 距離が縮まるのに、そう時間はかからなかった。

 ホテルに入る直前まで、彼は落ち着きなくブツブツと何かを呟いていた。
「こんな僕でごめんなさい」
「期待外れですよね」
「どうしよう」
 何度もそんなことを言うくせに、部屋のドアが閉まった途端に空気が変わる。

 モサカワは鼻息を荒くして、強烈なベロチューをかましてきやがったんだ。

 それを合図に、俺の中の何かが切れた。

 ぶちゅう♡♡れろっ♡れろっ♡

「んふううっ♡僕っ♡ずっとこうしたいと思ってたんですっ♡はあっ♡」

 触れ合った唇は、思ったよりも柔らかかった。
 抱きしめれば、清潔な石鹸と柔軟剤の匂いがした。
 思いのほか肌も白くて、綺麗だった。
 モサい服の奥にこんな温度が隠れているなんて、俺は知らなかった。

 そしてこんなにエロい生き物を、俺は見たことがなかった。

 俺の全てが、バグっていく。
 気づけば俺も舌を伸ばして、この愛らしい男のことだけを求めていた。

 彼は、セックスの最中はやけに饒舌だった。

 じゅぷっ♡じゅぷっ♡じゅぽっ♡じゅぽっ♡

「んうう♡オスくさちんぽっ♡♡はぁっ♡れろっ♡きもひいれすかぁ♡♡」

 外では怯えたように震えていたのに、今では俺のデカマラを口に含んでニコニコと笑ってやがる。

 そしてやけに手慣れた手つきで、ベッドに横たわる俺の上に股がって腰を振る。

 ずぷっ♡ずぷっ♡ずぷっ♡ずぷっ♡

「んほおおっ♡これっ♡♡これですうううっ♡これすきぃぃ♡♡上反りちんぽがっ♡いいところにこすれてっ♡ああっ♡んほほっ♡おほほっ♡♡」

 ずちゃっ♡ずちゃっ♡ずちゃっ♡ずちゃっ♡

 好きなアニメ作品を語るかのようにスラスラと感想を述べるその姿は、実に独りよがりなものだった。

 それでも俺は、新鮮味を感じていた。もはやある種の、アトラクションであるかのようにも思えていた。

 そして何より、締まりがいい。

「おらっ、気持ちいいか?」

 ぱあん♡ぱあん♡

「あひぃいい♡♡もっとおぉ♡♡♡」

 強くケツを引っ叩けば、その身がしなってよく締まる。

「ぐっ……!」

 呆気なく俺はイくものの、それでもモサカワは底なしだった。

 じゅぷぷぷぷっ♡じゅぷっ♡じゅぷっ♡れろお♡じゅるる♡

 再び俺のものをしゃぶり上げて、あっという間に元気にさせていたのだから。

「むふーっ♡ふーっ♡ふーっ♡まだまだっ♡まだまだ♡これからですぞい♡♡」

 意味不明な語尾をつけながら、なおもそのの尻の中に俺のマラが埋まっていく。

 何度イっても、決して離してはくれなかった。

「んおおおっ♡おっ♡おっ♡おほおおっ♡♡」

 もはや、食い尽くされていた。

***

 全てを終えたあと、モサカワは土下座していた。

「久々のセックスに燃え上がってしまい、我を忘れてしまいました。まことに、申し訳ございませんでした!」

 その姿は、俺にとってはもはや可愛いものにしか見えなかった。

 膝をついて、その頬にちゅっと音をたててキスをした。

「いんや、気持ちよかった。このまま俺と、付き合わねー?」

 その言葉に、モサカワは首が取れるんじゃないかと言うほどに強く頷いていた。

 それからの日常は、相変わらず電気街中心だった。
 プラモデルの箱を抱えて、彼はにこにことしながら俺のところへやってくる。
「いいの買えたか?」
「はい!」

 その笑顔を見るたびに、なんだか胸がキュンとする。
 モサカワは、まだまだ語り足りないようだった。

 この後は、俺の家でそれを組み立ててしっぽりセックスをする予定になっていた。

 ――早く、抱きたい。

 早くそのケツに、つっこみたい。
 そんな欲望を隠しきれずにいると、モサオタはある看板を指さしてこう言った。

「見て、このアニメ近々復刻するんだって」
「おお、懐かしいな」
「見てた?僕、ラストのシーンがすごく好きでさ……」

 また、モサカワは語りはじめる。
 そのモサい服の下に、とんでもないエロい身体が隠れていることはこの俺しか知らない。

「ねえ、聞いてた?」
「おー、聞いてたよ」
「じゃあ、今から復習しようよ!僕の家に円盤ぜんぶあるからさ!」
「えっ、でも今日は……」
「……だめ?」

 そう子犬のような目で見つめられたら、俺は頷くことしかできずにいた。

 さよなら、綺麗に掃除した部屋。
 さよなら、気合入れて二箱買ったゴムたち。

 けれどアニメを見ながら語っているうちに、お互いムラついてモサカワの家で生中したのはここだけの秘密な。
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