オジカさんとコジカちゃん

陽花紫

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研修三日目

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 研修三日目、俺はほどよく痛む体を起こしながらスーツを着ていた。

 そして朝、駅でオジカさんに会っていた。
 向こうが俺に気づいて、声をかけてくれていたんだ。

「コジマさん、おはようございます」
「おはようございます、オジカさんいつもこの時間帯なんすね?」
「そうですね、この時間しかちょうどいい電車がなくて……」
「へえ、今日も頑張りましょうね」
「はい」
 それだけのやりとりなのに、胸の奥が少し温かくなる。
 オジカさんと一緒に働くことが、こうして当たり前になっていくんだ。
 そう思うだけで俺は嬉しくなって、にやにやと笑っていた。
「なにかいいことあったんですか?」
「いいえ、なんにも!」

 オジカさんは、これまで俺より早く会社に着いて準備をしていた。
 俺はその三本くらい後につく電車に乗って、いつも時間ギリギリだ。
 オジカさんのことを知るたびに、自分のダメさ加減にため息が出てしまう。

 でも、今から仕事だ。
 気持ちを切り替えて、俺は資料を手に取った。
 今日は、午前中は社内で事務処理をして午後からは外回りのスケジュールだった。

 事務部署にいたおかげか、オジカさんのおかげであっという間に仕事が終わった。
「オジカさん、今日は早めに昼飯行きません?今なら混まない時間帯ですし」
 そう誘えば、オジカさんは静かに頷いた。
「わかりました」

 そして俺は、衝撃の事実を知る。
 オジカさんは、肉が苦手なんだそうだ。
「えええっ!」
 と俺は、昨日隣でチキンを食べていたことを謝った。
「いえ、人が食べているぶんには大丈夫ですから」
 そう言ってフォローをしてくれていたけれど、俺は深く反省した。
「それに、今は肉抜きにしてくれる店も増えましたし……」

 確かに、獣人専用の飲食店も今はだいぶ減ってどの店にもいろんな種族に対応した料理が提供されていた。
「本当に、すみません」
「コジマさん、大丈夫ですよ」
 そして俺たちは、サンドイッチ専門店に向かっていた。

 オジカさんは、サンドイッチが大好きなんだそうだ。
 それに菜食主義とかではなくて、肉以外はなんでも食べられるらしい。
「すみません、気を遣っていただいて」
「いえいえ、俺もサンドイッチ好きですし!」

 相変わらず両手で丁寧に食べる姿は、とても可愛い。
 はあ、目の保養。眩しい、かわちい。
 向かいの席でそう思いながら見つめていると、ふと茶色の瞳と目が合った。
「どうかしました?」
「いや、うまそうに食べるんだなーって」
 思わずそう言えば、オジカさんは目を細めた。
「コジマさんも、いつもおいしそうに食べているじゃないですか」
 その言葉に、なぜだか頬が熱くなってしまう。
「まあ、食べるの好きっすからね……」
 そう返事をしながら、俺はカツサンドにかぶりついた。

 一度会社に戻って、午後はいつものように取引先を回ってまた会社に戻る。
「あー、疲れたー!」

 今日は定時を超えてしまって、オジカさんも深く息をついていた。
「あとは俺がやっとくんで、先にあがっていいっすよ?」
「いや、手伝います。すぐに終わらせましょう」
 そう言って、オジカさんは残ってくれた。
「えっ、いいんすか?」
「大丈夫ですよ、早く帰っても寂しい独り身なので」
 その響きに、俺の胸は踊りはじめる。
 まじで?独り身?オジカさんが?

 でも、ここは会社だ。
 でも、オジカさん独り身だって!うぃー!
 今にも叫びだしたいこの気持ちを抑えながら、俺は理性を総動員してパソコンに集中した。

「お疲れ様でした」
「オジカさん、本当にありがとうございました」

 いつものように二人で並んで会社を出て、駅で別れた。
 俺はくたくたの体のまま、廊下に倒れ込む。
「あー、もう無理ぃ……!」
 けれど、腹は鳴る。
 がさごそとコンビニの袋から弁当は出せたものの、レンジまで行く気力がなかった。
 けれど、オジカさんを見習えと俺の心が強く言う。
「そうだよな、いくら独り身でも……こんなんじゃオジカさんに迷惑だよなぁ」

 まだその可能性があるわけじゃないけれど、俺は静かに立ち上がる。
 そしてレンジに弁当を入れた。
「よし、えらい!」
 いつものように裏垢を開けば、何件かコメントがきていた。
 しかしそれは甘い誘惑ではなく、動画のアップがないことについての不満や心配だった。

『リアルが忙しいのでしばらく休みます』

 そう入力して画面を消した。

 その夜、俺は何もせず静かに布団に入った。
 今日もまた、新たなオジカさんの情報を仕入れることに成功した。
 ぐふふと笑いながら、明日はどんな日になるのだろうかと目を閉じた。
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