オジカさんとコジカちゃん

陽花紫

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研修四日目

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 研修四日目、オジカさんの独り立ちに向けて今日から俺は補佐のようなかたちで黙って側についていた。

 後ろから見るオジカさんの姿も、また眼福だった。
 いつも正面か横からしか見ていなかったけれど、広い背中に引き締まった腰元。そしてすっと伸びる長い脚。
 くぅーっ、羨ましい!

 そんなことを思いながら百面相をしていると、この会社の新しい社長である若い兄ちゃんが笑っていた。
「コジマさん、今日はどうしたの?いつもの元気は?もしかして、彼女にフられた?」
 その言葉に、俺は思わず声をあげていた。
「違いますー!今日俺は、オジカさんの指導係なんすよ。一人でできるか見守る係なんですぅー」
「そうなんすね。……で、フられた?」
「フられてません!そもそも、彼女もいませんー!」
 そう強く否定をすれば、兄ちゃんは腹を抱えて笑っていた。
 横でオジカさんが、困ったように眉を寄せている。
 頼むから、そういう話題を振らないでくれよな。
「さ、仕事しましょう!仕事!」
「ごめんごめん、で……なんだったっけ?」

 車に戻ると、オジカさんは深いため息をついていた。
「ここの会社は、とても……フレンドリーですね」
 言葉を選びながら、オジカさんは笑った。
「ほんと、デリカシーなさすぎですよね。おまけにあの兄ちゃん口軽いんで、オジカさん……くれぐれも気をつけてくださいよ?」
「わかりました」

 車を発進させながら、なおもオジカさんは落ち着いた声で言った。
「それにしても、コジマさんはすごいですね」
「えっ?」
「どのかたも、コジマさんコジマさんって……。それに、売り上げもいつも上位じゃないですか」
「まあ、一応長いこと頑張ってるんで……」
「尊敬します」
 お世辞だと思っても、俺はその言葉を嬉しく思った。
「へへ、ありがとうございます。オジカさんもこの調子で、上手くいくといいっすね!」
「そうですね。いつもありがとうございます」
 その言葉に、俺は思わずむずがゆくなって窓の外を見た。

 明日で、研修最終日だ。
 こうして一緒に車に乗ることはもうない。
 気付けば、俺は口を開いていた。

「明日、仕事終わりに飯でもどうすか?」
「いいですよ。ぜひ、ご一緒させてください」
「よっしゃ、それじゃあ店調べときますんで」
「いえ、ここは俺が……」
「大丈夫ですって、ちゃんと肉抜き選べるお店いくつか見つけときますから!あとでメッセージ送りますね」
「……すみません、ありがとうございます」
 そのお礼の言葉が、なんだか今日は少しだけ近いように聞こえていた。

 午後もスムーズに終わって、家に帰る。
 いくつか店の候補を調べてメッセージで送って、うきうき気分で風呂に入った。
「今日もそのまま、寝るかぁー?」
 そう眠りにつく前に、返事がきた。

 オジカさんが選んだのは、ちょうどいい価格帯の居酒屋だった。
 その店は程よく肉もあって、俺に気を遣ってくれたことが伺える。
「よし、予約完了っと!」
 手早く店の予約をした旨を伝えると、感謝の言葉とおやすみの言葉があった。
「うへへ、おやすみなさい……っと……。あー、楽しみだなぁ……」
 俺はほくほくとしたまま、眠りについた。
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