救国の勇者は末の亡霊姫をご所望です

蒼乃ロゼ

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5 羨望

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「アデリナ様、何度言われようと私の気持ちは変わりません」

 この国の次期女王。

 彼女のそんな地位を求める男は数多く居るだろう。
 だが。

 それすら霞むほど焦がれるものを、俺はもう知っている。

「セラ、いい加減に目を覚ましなさい。お前のそれは、命を救われた恩と恋を錯覚しているのですよ」
「なぜ、そうお思いですか?」
「それはそうでしょう、あの子は……魔性ですから」

 理解に苦しむ。
 
 自分より容姿と才能に恵まれた妹を、ずっと虐げてきた。
 それだけでは飽き足らず、今度は女王として国を富んだものにするため王配に俺を望んでいる。

 これ以上、アリアから何かを奪うのは許さない。

「魔性……、ですか。確かにアリア様は美しい」

 名前をだした途端、彼女の体が揺れる。
 嫉妬という感情は、こうも女を突き動かすのか。

「ですが、彼女の本当の美しさは見目の良さではありません」
「ふうん?」
「それが分からない内は……、国を治めるのは難しいのではないでしょうか?」

 そう真実を突きつければ、手に持っていた扇子は音を立て変形した。
 そういう所だ。とでも言えば分かるんだろうか。

「セラ……! ふんっ。何とでも言いなさい。もう既に、手遅れでしょうから」
「……?」

 手遅れ?
 手遅れとは、なんだ?

 光の魔法のことか?
 いや、それについては既に手を打ってある。

 彼女アリアの心に反しないような手を。
 しかしアデリナがそれに感づいているとは思えない。

 いったい……?

「……まさか」

 嫌な予感が、する。

「大好きな貴方以外の手で女になるアリアは、さぞ綺麗でしょうね」

 この女の高笑いが、いやに耳に響く。

 そもそも夜に呼び出されたこと自体、罠だ。
 俺とアデリアが通じていると噂するまでが筋書きだろう。

 俺の名誉なんかどうでもいい。

 だが、アリアを持ち出されては来ない訳にもいかなかった。

 こういうことだったか……!

「……失礼する」
「あら、逃がさないわよ」

 踵を返せば、元同僚たちの姿。

「いいの? ここでやっちゃうと国を追われるわよ」

 どこまでも腹の立つ女王様だ。
 だが、その通りだった。

「なぜ、そこまでして」
「この国のためよ」
「本心か?」
「さあ、どうでしょう」
「戯れ言をっ」
「さ、どうぞ。こちらへ勇者様」

 そう言いながら、奥の寝室を示す。
 くそったれ。

 誰がお前なんぞと。



「ーーっ」
「誰だ、お前!」
「うわっ」

「何ごと!?」
「……はぁ」

「セラ、助けに来たわよ~……って、もしかしてお邪魔?」
「んな訳ないだろ! もう少し手加減しろよ」
「あはは~」
「だ、だれよ!?」
「え? 話してないの!?」
「……今からするところだったんだ!」
「無礼者、ここをどこだと思っているの! 名乗りなさい!」
「私ですか? 申し遅れました、セレナーデと申します。この男と一緒に魔王を討った者の一人です!」

「せ、聖女……!?」

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