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団長達と合流し、村に戻る頃には日が落ちていた。
村長の元へ報告をしにいくと
感謝と労いの言葉を、何度もかけてくれた。
机の上に並べられた小さな肖像画を手に取ると
ぽろ、と涙をこぼした。
「助けていただくのは、これが、初めてではないのです。
12年前、ひどい雨に打たれた日……。
王都へ上納するワインを運ぶ最中、
怪しげな輩に襲われた所を騎士団の方達に助けて頂きました。
妻と二人、二人三脚でつくったワインを献上できていなければ。
魔物云々以前に村は街道の下敷きになっていました」
「あの荷馬車に乗っていたのは、あなた方でしたか。
失礼ですが奥様は」
「……村に帰って、その後すぐに」
団長は無言で村長を抱きしめた。
とうとう村長は泣き崩れ、俺は呆然とその様子を眺めていた。
ああ……。
団長ってここぞとばかりにスキンシップ決めるんだよなあ……。
悪人が猫を救うと、聖者に見えるように。
仏頂面無口淀み目おじさんの、血の通った行動は、人情溢れて見える。
……ユーノの言葉を鵜呑みにするわけじゃないけど。
穿って見過ぎかなあ。
村長の娘さんや、ついてきた団員たちの
貰い泣きやら鼻を啜る音を聞きながら、
村での出来事、戦闘、どこまで報告書に記すべきか
逃避しながら立ち尽くす。
「急拵えですが、宴席を設けさせていただきました。
どうかお寛ぎください。
魔物を討伐していただいた上に、食事の準備まで手伝っていただいてしまって……」
案内された広場に行くと村人総出で
食事の席を準備してくれていた。
その中に一際目立つ白いローブ。
頭巾を深く被る大きな背中に思わず駆け寄る。
「セイリオス!」
「どうしたのですか。急に走ったら危ないですよ」
女性たちにまじり談笑をしていたセイリオス。
こちらに気づいて振り返ってくれた。
「準備を手伝ってくれたと聞いて、いつも、助かってたよ。本当にありがとう」
「……。ふふ、痛み入ります。
椅子が足りず立食形式になりますが、楽しんでいただけると幸いです」
啓示者であり最初の犠牲。
セイリオスは、変わり者の多い啓示者の中でも特に際立った男だった。
戦闘に参加しない事を条件に入団。
食事、備品管理、馬の手入れ……自ら団の世話役に回った。
初めこそ団員達は彼を煙たがっていたが、
柔和さと細やかな気配り。
打ち解けるのにさほど時間はかからなかった。
それでもどこか舐めた態度を取る者が殆どで
俺もそのうちの1人だった。
彼が亡くなってから、団の雰囲気はみるみるうちに悪くなり
飲みの席を増やしアルコールで誤魔化していたが、結局──。
時間がたてばたつほど。
彼の存在の大きさに気づいて、途方に暮れた。
「副団長さん、グラスあいてますよ。お注ぎいたしますね」
村で作ったワインを村長の娘さんがついでまわっていた。
「もうじゅうぶん頂きました。ありがとうございます」
「お口に、合いませんでしたでしょうか……?」
「いえそんな!美味しかったですよ!」
自慢のワインだと注がれて、なんとか1杯飲んでいたが。
無茶苦茶な飲みの席を経験したせいか体が酒を受け付けない。
「赤が苦手でしたら冷やした白もございます」
朗らかな笑み。飲める前提の善意が辛い。
「あらっ?」
団員の1人が娘さんの袖をちょいちょいと引っ張っていた。
「お姉さんーっ。おかわりくださあいっ」
彼はもう既にできあがっているようだった。
「す、すみません。こら、失礼だろう」
「いいえ。うふふ、喜んでいただけて嬉しいです」
娘さんからおかわりをもらうと、笑顔でグラスを傾けた。
「ほどほどに楽しめよ」
注がれたばかりの酒を飲む手を止め、丸い目を向けられる。
「騎士としての振る舞いが!って、キレないんすか…?」
「気分転換も大切だ」
規律を押し付けてばかりいては、いけないと身をもって体験した。
「へえ。意外…」
「まるで多くの経験を積まれたかのようですね」
突然、間を縫うようにスッとセイリオスが現れた。
よろけた団員を抱き止めて、傾きかけたグラスをそっと支える。
「し、心臓に悪い」
「おや失礼」
がっしりした体格に似合わず気配を消すのが妙に上手い。
「今日はお疲れになられたでしょう。
明日のお祭りを楽しむためにもあまり無茶をなさらず。さ、お水をどうぞ」
あやすように水を飲ませながら「副団長」話しかけられた。
「少し私と歩いてくれませんか。星が綺麗ですよ」
酒の場から連れ立ってくれる気遣いが
ひどく染み入った。
広場から離れ、村外れにやってくる。
穏やかな月明かりは、疲れた目にちょうどよく
そよぐ風も心地いい。
セイリオスは周囲を見渡すと深く被った頭巾を脱ぎ、身震いをする。
大きな耳、足元にはフサリ、と尻尾の先端が現れた。
褐色の肌はいつのまにか、艶やかな黒毛に覆われている。
「一息つきましたね。副団長はこの姿。どう思われます」
「俺は結構好き」
「おや熱烈」
この姿を見せてくれるようになったのは、
以前、彼が沐浴しているところをうっかり目撃してしまってからだ。
気分転換なのか開き直りなのか、2人きりになると姿を変えた。
犬っぽくて好き。と言ったら
犬ではございません。
と、怒らせてしまった事をよく覚えている。
「お見せしたのは初めてなのですがね」
「……」
かまをかけられた……?
自身に起きた事を隠そうとしていた訳では無いが
上手く説明できない。
何か言おうと必死に考えるが、酒の回る頭では尚のこと、考えは浮かばなかった。
「いいですよ。むしろ言わない方がいい。
言葉には相応の力がございます。
引き寄せてしまってからでは
私にもどうにもなりません」
彼の言っている意味を理解できず困惑していると
突然、顔を両手で包まれ、目を覗き込まれる。
「そのかわりに観せてください。
わざわざこの姿に戻ったのも、そのためです」
ふにふにの肉球が、両頬に、当たっている。
かすかに漂う宗教行事の煙のような香りが、ふわりと鼻をくすぐった。
その香りが、やはり人だと言うことを伝えてくる。
不思議な姿だ。
「失礼なこと、考えていませんか」
「……。犬っぽいなって」
「犬ではございません」
僅かにムッと尖る口元に、懐かしい心地がした。
「ともかく、ほら、そこに座って。私の目に集中してください」
言われるがまま、傾斜の緩やかな芝の上に座りセイリオスの目を見る。
澄み切った青い色と、吸い込まれそうな不思議な輝きに魅入っていると
おお。
あらら。
ふふーん?
ムードも何もない声がセイリオスからもれる。
しばらくして、顔から離れるとプルプルと震え出し
「ふふ、ふふ……。ふ、ふははっは!これは酷い!」
寝っ転がりながら大笑いをしだした。
「最期の輝きとは言いますが、まさか、言葉通りにするとは、ふ、ふふっ」
彼は何をどうしたのかわからないが
過去に起きた一部始終を俺を通して見ていたようだ。
「笑い事じゃない……何も聞こえないから、わからないからそう笑えるんだ」
「口元を見たらわかるものですよ。
『愛ってきっと、尊いものなのでしょうね』」
ユーノの、今際の言葉を。
セイリオスを睨みつける。
やんわりと微笑みを返されて、目を逸らす。
「これからどうするおつもりで」
思い出したくもないが、忘れる事もできない記憶。
この失態を、見過ごしてきた俺に責任がある。
「もう2度と同じことが起きないようにしてみせる」
セイリオスは、のろのろと起き上がり、ひどく呆れた様子でため息をついた。
「死を思いながら、その日その日の花をお摘みになられると?
与えられた有限を鬱々と過ごそうだなんて」
「それでも」
「手紙で招集された我々啓示者を除いて
志願した団員たちは皆、初めから団長に心惹かれているのですから。
崩壊はなるべくしてなったのです」
「……。こ、心惹かれてって……は?はじめから?」
「おや。まさかお気づきになられていなかったので」
遠征の途中に団長が、皆を手篭めにした。
ユーノの言葉を、勝手にそう解釈していた。
「今も尚、燻っているのです」
「……騎士の矜持は、民のためにって。
入団式の時、玉座に誓った言葉は
全て嘘だって言いたいのか……?」
「副団長。心は一重ではございません。
矜持も憧憬も情念も、同時に抱けるモノなのです」
ふふふ。とおかしげに笑われて顔が熱くなる。
「元凶とも言える燻りは、各々持ち合わせていたモノ。
ですから
穴の底に埋まろうとも光になろうとも
皆各々全力にして、なるべくしてなったのです。
あなたが負うべき責任は、ございません」
お前のせいだと、無力を責めてくれたのであれば
どれだけ楽な事だろうか。
副団長という地位にいながら、
無関係な者として扱われる。
一番堪えると、わかってやっているのだろうか。
俯くとセイリオスは再び、優しい仕草で顔に触れてくる。
いつの間にか流していた涙を肉球付きの指で、掬い取ると、うっとりとした表情で眺め
そのまま口元へ持っていき、舐めとった。
「な、な…何を…」
「私のための涙なのでしょう?それとも、あなたのためのモノでしたか」
セイリオスは服についた芝を払いながら、立ち上がった。
耳も尻尾もどこかへ消えている。
月光に照らされた褐色の肌、涼やかな風に黒髪が揺れる。
「あなたのために生きてみるのも悪くないかもしれません」
柔らかな微笑みが、ひどく残酷にうつる。
「やめてくれ……みたのなら、わかるだろう。俺が」
ひんやりとした人差し指に、口元を、そっと抑えられる。
「まだ何も起きてはおりませんよ、副団長」
人差し指が完全に離れきってようやく息を吸う。
彼の行動の1つ1つに呼吸を、かき乱されている。
「ふふ。ちょっと意地悪しすぎてしまいましたね。
私なりに未来ある若者たちのため尽力いたしましょう」
「セイリオス……」
「明日の準備がございますから失礼致します。
副団長も、早くお休みになってくださいね」
セイリオスは静かに去っていく。
酷く胸がざわついて、その場に座り込んだまま、
後ろ姿を、見えなくなるまで眺める。
生きていてくれて嬉しいのに。
手放しで喜べない。
彼があんなに……あんなに邪悪な笑い方するだなんて。
俺は本当に一体何を見て、ここまで来たんだろう。
彼がそうしていたように、芝生に寝転ぶと
夜空には無数の星が瞬いていた。
村長の元へ報告をしにいくと
感謝と労いの言葉を、何度もかけてくれた。
机の上に並べられた小さな肖像画を手に取ると
ぽろ、と涙をこぼした。
「助けていただくのは、これが、初めてではないのです。
12年前、ひどい雨に打たれた日……。
王都へ上納するワインを運ぶ最中、
怪しげな輩に襲われた所を騎士団の方達に助けて頂きました。
妻と二人、二人三脚でつくったワインを献上できていなければ。
魔物云々以前に村は街道の下敷きになっていました」
「あの荷馬車に乗っていたのは、あなた方でしたか。
失礼ですが奥様は」
「……村に帰って、その後すぐに」
団長は無言で村長を抱きしめた。
とうとう村長は泣き崩れ、俺は呆然とその様子を眺めていた。
ああ……。
団長ってここぞとばかりにスキンシップ決めるんだよなあ……。
悪人が猫を救うと、聖者に見えるように。
仏頂面無口淀み目おじさんの、血の通った行動は、人情溢れて見える。
……ユーノの言葉を鵜呑みにするわけじゃないけど。
穿って見過ぎかなあ。
村長の娘さんや、ついてきた団員たちの
貰い泣きやら鼻を啜る音を聞きながら、
村での出来事、戦闘、どこまで報告書に記すべきか
逃避しながら立ち尽くす。
「急拵えですが、宴席を設けさせていただきました。
どうかお寛ぎください。
魔物を討伐していただいた上に、食事の準備まで手伝っていただいてしまって……」
案内された広場に行くと村人総出で
食事の席を準備してくれていた。
その中に一際目立つ白いローブ。
頭巾を深く被る大きな背中に思わず駆け寄る。
「セイリオス!」
「どうしたのですか。急に走ったら危ないですよ」
女性たちにまじり談笑をしていたセイリオス。
こちらに気づいて振り返ってくれた。
「準備を手伝ってくれたと聞いて、いつも、助かってたよ。本当にありがとう」
「……。ふふ、痛み入ります。
椅子が足りず立食形式になりますが、楽しんでいただけると幸いです」
啓示者であり最初の犠牲。
セイリオスは、変わり者の多い啓示者の中でも特に際立った男だった。
戦闘に参加しない事を条件に入団。
食事、備品管理、馬の手入れ……自ら団の世話役に回った。
初めこそ団員達は彼を煙たがっていたが、
柔和さと細やかな気配り。
打ち解けるのにさほど時間はかからなかった。
それでもどこか舐めた態度を取る者が殆どで
俺もそのうちの1人だった。
彼が亡くなってから、団の雰囲気はみるみるうちに悪くなり
飲みの席を増やしアルコールで誤魔化していたが、結局──。
時間がたてばたつほど。
彼の存在の大きさに気づいて、途方に暮れた。
「副団長さん、グラスあいてますよ。お注ぎいたしますね」
村で作ったワインを村長の娘さんがついでまわっていた。
「もうじゅうぶん頂きました。ありがとうございます」
「お口に、合いませんでしたでしょうか……?」
「いえそんな!美味しかったですよ!」
自慢のワインだと注がれて、なんとか1杯飲んでいたが。
無茶苦茶な飲みの席を経験したせいか体が酒を受け付けない。
「赤が苦手でしたら冷やした白もございます」
朗らかな笑み。飲める前提の善意が辛い。
「あらっ?」
団員の1人が娘さんの袖をちょいちょいと引っ張っていた。
「お姉さんーっ。おかわりくださあいっ」
彼はもう既にできあがっているようだった。
「す、すみません。こら、失礼だろう」
「いいえ。うふふ、喜んでいただけて嬉しいです」
娘さんからおかわりをもらうと、笑顔でグラスを傾けた。
「ほどほどに楽しめよ」
注がれたばかりの酒を飲む手を止め、丸い目を向けられる。
「騎士としての振る舞いが!って、キレないんすか…?」
「気分転換も大切だ」
規律を押し付けてばかりいては、いけないと身をもって体験した。
「へえ。意外…」
「まるで多くの経験を積まれたかのようですね」
突然、間を縫うようにスッとセイリオスが現れた。
よろけた団員を抱き止めて、傾きかけたグラスをそっと支える。
「し、心臓に悪い」
「おや失礼」
がっしりした体格に似合わず気配を消すのが妙に上手い。
「今日はお疲れになられたでしょう。
明日のお祭りを楽しむためにもあまり無茶をなさらず。さ、お水をどうぞ」
あやすように水を飲ませながら「副団長」話しかけられた。
「少し私と歩いてくれませんか。星が綺麗ですよ」
酒の場から連れ立ってくれる気遣いが
ひどく染み入った。
広場から離れ、村外れにやってくる。
穏やかな月明かりは、疲れた目にちょうどよく
そよぐ風も心地いい。
セイリオスは周囲を見渡すと深く被った頭巾を脱ぎ、身震いをする。
大きな耳、足元にはフサリ、と尻尾の先端が現れた。
褐色の肌はいつのまにか、艶やかな黒毛に覆われている。
「一息つきましたね。副団長はこの姿。どう思われます」
「俺は結構好き」
「おや熱烈」
この姿を見せてくれるようになったのは、
以前、彼が沐浴しているところをうっかり目撃してしまってからだ。
気分転換なのか開き直りなのか、2人きりになると姿を変えた。
犬っぽくて好き。と言ったら
犬ではございません。
と、怒らせてしまった事をよく覚えている。
「お見せしたのは初めてなのですがね」
「……」
かまをかけられた……?
自身に起きた事を隠そうとしていた訳では無いが
上手く説明できない。
何か言おうと必死に考えるが、酒の回る頭では尚のこと、考えは浮かばなかった。
「いいですよ。むしろ言わない方がいい。
言葉には相応の力がございます。
引き寄せてしまってからでは
私にもどうにもなりません」
彼の言っている意味を理解できず困惑していると
突然、顔を両手で包まれ、目を覗き込まれる。
「そのかわりに観せてください。
わざわざこの姿に戻ったのも、そのためです」
ふにふにの肉球が、両頬に、当たっている。
かすかに漂う宗教行事の煙のような香りが、ふわりと鼻をくすぐった。
その香りが、やはり人だと言うことを伝えてくる。
不思議な姿だ。
「失礼なこと、考えていませんか」
「……。犬っぽいなって」
「犬ではございません」
僅かにムッと尖る口元に、懐かしい心地がした。
「ともかく、ほら、そこに座って。私の目に集中してください」
言われるがまま、傾斜の緩やかな芝の上に座りセイリオスの目を見る。
澄み切った青い色と、吸い込まれそうな不思議な輝きに魅入っていると
おお。
あらら。
ふふーん?
ムードも何もない声がセイリオスからもれる。
しばらくして、顔から離れるとプルプルと震え出し
「ふふ、ふふ……。ふ、ふははっは!これは酷い!」
寝っ転がりながら大笑いをしだした。
「最期の輝きとは言いますが、まさか、言葉通りにするとは、ふ、ふふっ」
彼は何をどうしたのかわからないが
過去に起きた一部始終を俺を通して見ていたようだ。
「笑い事じゃない……何も聞こえないから、わからないからそう笑えるんだ」
「口元を見たらわかるものですよ。
『愛ってきっと、尊いものなのでしょうね』」
ユーノの、今際の言葉を。
セイリオスを睨みつける。
やんわりと微笑みを返されて、目を逸らす。
「これからどうするおつもりで」
思い出したくもないが、忘れる事もできない記憶。
この失態を、見過ごしてきた俺に責任がある。
「もう2度と同じことが起きないようにしてみせる」
セイリオスは、のろのろと起き上がり、ひどく呆れた様子でため息をついた。
「死を思いながら、その日その日の花をお摘みになられると?
与えられた有限を鬱々と過ごそうだなんて」
「それでも」
「手紙で招集された我々啓示者を除いて
志願した団員たちは皆、初めから団長に心惹かれているのですから。
崩壊はなるべくしてなったのです」
「……。こ、心惹かれてって……は?はじめから?」
「おや。まさかお気づきになられていなかったので」
遠征の途中に団長が、皆を手篭めにした。
ユーノの言葉を、勝手にそう解釈していた。
「今も尚、燻っているのです」
「……騎士の矜持は、民のためにって。
入団式の時、玉座に誓った言葉は
全て嘘だって言いたいのか……?」
「副団長。心は一重ではございません。
矜持も憧憬も情念も、同時に抱けるモノなのです」
ふふふ。とおかしげに笑われて顔が熱くなる。
「元凶とも言える燻りは、各々持ち合わせていたモノ。
ですから
穴の底に埋まろうとも光になろうとも
皆各々全力にして、なるべくしてなったのです。
あなたが負うべき責任は、ございません」
お前のせいだと、無力を責めてくれたのであれば
どれだけ楽な事だろうか。
副団長という地位にいながら、
無関係な者として扱われる。
一番堪えると、わかってやっているのだろうか。
俯くとセイリオスは再び、優しい仕草で顔に触れてくる。
いつの間にか流していた涙を肉球付きの指で、掬い取ると、うっとりとした表情で眺め
そのまま口元へ持っていき、舐めとった。
「な、な…何を…」
「私のための涙なのでしょう?それとも、あなたのためのモノでしたか」
セイリオスは服についた芝を払いながら、立ち上がった。
耳も尻尾もどこかへ消えている。
月光に照らされた褐色の肌、涼やかな風に黒髪が揺れる。
「あなたのために生きてみるのも悪くないかもしれません」
柔らかな微笑みが、ひどく残酷にうつる。
「やめてくれ……みたのなら、わかるだろう。俺が」
ひんやりとした人差し指に、口元を、そっと抑えられる。
「まだ何も起きてはおりませんよ、副団長」
人差し指が完全に離れきってようやく息を吸う。
彼の行動の1つ1つに呼吸を、かき乱されている。
「ふふ。ちょっと意地悪しすぎてしまいましたね。
私なりに未来ある若者たちのため尽力いたしましょう」
「セイリオス……」
「明日の準備がございますから失礼致します。
副団長も、早くお休みになってくださいね」
セイリオスは静かに去っていく。
酷く胸がざわついて、その場に座り込んだまま、
後ろ姿を、見えなくなるまで眺める。
生きていてくれて嬉しいのに。
手放しで喜べない。
彼があんなに……あんなに邪悪な笑い方するだなんて。
俺は本当に一体何を見て、ここまで来たんだろう。
彼がそうしていたように、芝生に寝転ぶと
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