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カイン2

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 封印魔法。
 そう呼ばれる魔法は現状、レムフィリアに存在していない。
 その理由は単純で、「必要とされていないから」である。
 故にそうした概念すらも存在しない。
 仮に存在したとして、それは精神や魂に干渉する闇属性の領域である。
 魔族の神という誤解が解けて以降も、その特殊性から忌避され続けた闇属性を研究する者は無く、禁書扱いされているわけでもないのに取り扱う商人すらも探すのは難しい。
 いやそもそも、研究して本にする者自体がいない。
 いたとして、個人的な研究として秘匿されているだろう。
 しかしそれでも、カインは諦めなかった。
 何かにとり憑かれたように没頭し……自分自身を実験材料としながら研究を続けた。
 その一方で、両親を心配させないようにと「一般的な生活」を続けた。
 何か聞かれても適当に誤魔化して、出来るだけ周囲に影響を与えないようにして。
 カインはひたすら、「封印魔法」の研究を続けた。
 なんとか完成させた「封印」を何重にもかけ、更には「偽装」もより強力なものをかけた。
 自身の「封印」が完璧であることを確認したカインが次に感じたのは、恐怖。
 今までの自分に向けられた好意が技能によるものであったなら、これからは。
 これからは、一体どうなってしまうのか。
 その恐怖を抑えつけ、必死で振舞って。
 そうして、カインは「カイン・スタジアス」を再スタートさせたのだ。
 それでも元々持っていた能力の高さ故に色々とトラブルが起きたのは困りものではあったが……それでも、カインは「誰かの為」を目指した。
 命の神フィリアに転生前に言われた「この世界を守ってほしい」という言葉がカインの中で残っているせいなのか、それとも「勇者」として生まれたが故なのか、あるいは無自覚に「勇者」の力を振るったことに対する贖罪か。
 あるいは……その全てか。
 一度目標を見失ったが故に、他者の目標へと向かう姿が眩しかったのかもしれない。
 だからこそ、理不尽に苦しむ人を積極的に助けた。
 がむしゃらに生きて、再度自分の向かうべき場所を見つけ出す為にエディウス冒険者学校へも行った。
 そうして地方から王都に出てきて見たものは、様々な歪み。
 カインはそれに「個人に出来る範囲」で立ち向かいながら、結局は此処に辿り着いてしまったのだ。

「……勇者として生きれば、もっと簡単に解決できるものもあったかもしれません。もっと泣かない人を作れたかも知れません」

 カインは、静かに呟く。

「でも、それでも。恐らく「勇者」は、世界を曲げてしまう。たとえ「勇者の威厳」がなくとも、勇者リューヤの伝説とフィリア様の存在が、「勇者」を人類の上へと押し上げてしまう。そうなればどうなるか……想像できないくらい、僕はバカじゃないつもりです」

 なるほど、確かに勇者の誕生は人々を熱狂させるだろう。
 伝説の再来は希望を与え、活力をもたらすだろう。
 だが、その勇者の「敵」はなんなのか。
 ヴェルムドールは、ザダーク王国がその対象とならないように全力を尽くしている。
 ザダーク王国とヴェルムドールを「倒すべき悪」と看做すような理由は何処にも無い。
 無いが、理由は時として作れてしまう。
 実際、シュクロウスのほのめかした「諸悪の根源である大魔王グラムフィア」は勇者に滅ぼされている。
 そして現状でいえば「新たな魔王ヴェルムドール」の存在は広く知られており、アルヴァの理由と責任がザダーク王国にあると叫ぶ声も聞こえてはいる。
 戯言でしかないが、その声が大きくなればどうなるか。

「ふん、見えてきたぞ。つまり今回のシナリオは、召喚とは違う形の勇者伝説だったというわけだ」

 ヴェルムドールが勇者の召喚を警戒していることは、命の神フィリアとしても充分に理解していたことだろう。
 そしてヴェルムドールが「勇者召喚の理由」を潰し続けている以上、フィリアとしても召喚儀式に力を貸すわけにはいかない。
 だが、予め「人類の守護者」として勇者を送り込んでおけば話は別だ。
 明確な悪という理由が無くとも、「勇者」によって人類領域の問題の解決を図ることが可能になるのだ。
 
「……まあ、その勇者がこうなるというのは予想外だったろうがな」
「シナリオ……?」
「そこまでは気付いていなかったか? フィリアの仕組んだ壮大な茶番劇のことだ。奴は人類領域の問題を解決する為に、共通の敵を仕立てようとしている」

 共通の目的が人の絆を強くするとは、よく聞く言葉だ。
 敵の敵は味方というのも、やはりよく聞く言葉であるだろう。
 要は、小さないがみ合いや争いの愚かさを大きな問題によって知るということだ。
 あるいは、その小さな問題の原因が「大きな問題」によって引き起こされたものだとすれば、「小さな問題」は氷解して消えるだろう。
 それを自覚して尚「小さな問題」に拘れば、己の救いようの無い愚かさを露呈するも同じだからだ。
 そして前回の「大きな問題」は、魔王シュクロウスと大魔王グラムフィアであった。
 ならば、今回の「大きな問題」は何か。
 勇者という解決の鍵を必要とする「小さな問題」は、何なのか。

「恐らくは亜人論、だろうな。放っておけば人類同士の戦争にも発展する。この国で起こった内乱だって、原因を辿れば其処に行き着く。だから聞くぞ、ライドルグ。何故この段階まで放置した?」
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カインの話はもっと色々と問題の可能性を孕んでもいるのですが、魔王様によって後回しにされました。
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