勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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今こそ、今だからこそ3

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 西方軍の制式装備に身を包んだ兵士の慌てたような様子に、イクスラースは周囲への警戒を強めながら振り返る。

「ご無事ですか!」
「見ての通りよ。何があったの?」

 何かあったのか、とは聞かない。
 何かがあったからこうして彼が来ているのだから。
 故に聞くべきは「起こっているのが何か」であり……イクスラースの問いに兵士は「不明です」と答える。

「詳細は分かりませんが、次元城に奇妙な変化がありました。現在、伝令が西方軍本部に向かっています。すぐに増援も来ますが、とりあえずここからの退避をお願いします!」
「……分かったわ」

 兵士からの要請に、イクスラースはそれ以上の問いかけをしない。
 勿論聞いてもいいのだが、それは時間の無駄だ。
 イクスラースはすぐに戻ろうと入り口に向かって歩き出し……その瞬間、ぞわりとした感覚に身を震わせる。
 感じた感覚は、恐ろしくおぞましいもの。
 醜悪で、邪悪で……全身の全てが理解を拒むような何か。

「……これ、はっ……」

 同じものを兵士も感じたのか、兵士は天井へと目を向ける。
 その先に……恐らくは最上階の玉座の間に、「何か」がいる。
 そして、その「何か」に意識を向けた一瞬。
 その一瞬で、次元城の内部が変化する。
 ただの「古城」だった次元城の隅々へと、何者かの魔力が通っていく。
 そしてそれは、「古城」から「次元城」へと戻った証拠であることをイクスラースは素早く感じ取る。
 だが、それは望んでいたものではない。
 イクスラース以外の何者かが、この次元城を復活させたのだ。
 そしてそれは、恐らくは友好的な存在ではない。
 ならば、このまま放置すれば非常にマズイことになる。
 だが、この場の戦力でどうにか出来る相手かどうかも分からない。

「……ここは一端引きましょう」

 こうなれば、もはや正面扉も開くかどうか分からない。
 転移魔法を起動しようとしたイクスラースを兵士が守るように立ち、しかし何かに気付き声をあげる。

「アレは……おい、エド! お前、伝令は……!」

 その声の先にいるのは、先程扉の前にいた「もう一人」の兵士だ。
 何かを探すようにキョロキョロしていたその兵士……エドはイクスラース達を見つけると、笑顔で手を上げる。

「安心してくれ! すぐに応援がくるぞ!」
「そ、そうなのか?」
「ああ。万全を期す為の大部隊が編成中だが、とりあえずの報告ということで俺が戻ってきたんだ。さあ、すぐに此処を出よう!」

 エドはそう言ってイクスラースへと手を差し出し……イクスラースは転移魔法を中断し、その手をとる。


「そう。ところでエド……だったかしら? その大部隊というのは、この状況をどうにかできるようなものなのかしら?」
「勿論さ。サンクリード様も部隊と一緒にやってくる。そうなれば、ここに何が潜んでようと一撃に決まってる!」
「ふふ……そうね」

 イクスラースはエドの手をぎゅっと力強く握り……エドの目に少しの動揺が浮かんだ瞬間を狙って思い切り腕を引いて引き倒す。
 エドが痛みに小さい悲鳴をあげたその瞬間を狙い、そのままエドの背中を踏みつけ黒薔薇の剣を首筋へと突きつける。

「イ、イクスラース様!? 何を」
「名前の分からないほうは黙ってなさい。ねえ、エド。貴方、随分と器用になったじゃない。敬語、とれてるわよ?」
「え。だ、だってそれは君が「様付けされるような身分じゃない」って」
「ええ、そうね。でもそれでも貴方達は敬語を使うし様付けするのよ。徹底的に不器用だし、あの男に似て妙なところで融通が利かないもの」

 そう、このエドと呼ばれる兵士の男の態度はあまりにも変わりすぎている。
 変えようと思ってすぐに変わるのであれば、あの時点ですぐに変えている。
 もう一人の未だに名前の分からないもう一人の兵士の男を見れば、それは理解できる。
 ……だがまあ、それはこのエドが予想より融通の利く男だったとか。
 あるいは、テンションが上がって敬語がとれたとか。
 まあ、そういう風に理由付けも出来る。
 だが、それ以前の問題がある。

「エ、エド……? イクスラース様、一体どういう……」
「簡単よ。この男は有り得ない事を言った」

 そう、絶対に有り得ない事をエドは言ったのだ。

「サンクリードが部隊と一緒に来ると言ったわね」
「それが……なんだっていうんだ」
「有り得ないのよ」

 イクスラースは、そう言いながら薄い笑みを浮かべてエドの背中をぐりぐりと踏みにじる。

「確かに西方軍はそういう風に躾けられているのかもしれない。まあ、当然ね。部隊行動とはそういうものだもの。でも、あの男は違う。それはそれとして、こういう緊急時には先行して突っ込んでくる。間違っても、部隊と一緒に来るなんて有り得ないのよ」

 サンクリードは、そういう男だ。
 部隊行動が必要とあればエドの言ったように部隊と一緒に行動するだろう。
 だが、今回は違う。
 敵戦力不明、状況不明、原因不明。
 こうした状況であれば、サンクリードは副官に後を任せて間違いなく一人で突っ込んでくる。

「だから、貴方「だけ」を先行して寄越すということ自体が有り得ないの。どうせならサンクリードは別の部屋を調べてるとか言うべきだったわね」
「まさか、融合体……!?」

 兵士が腰の剣に手をかけた瞬間、空間を割って出てきたアルヴァが兵士に飛びつき……もう一体のアルヴァが、イクスラースへと飛び掛る。

「うおっ……!」
「このっ!」

 イクスラースが黒薔薇の剣を振るい、アルヴァの表面を浅く薙ぐ。
 ギイッという耳障りな声と共にアルヴァは後ろへと飛び下がり、しかしその隙を突いてエドがイクスラースを弾き飛ばす。

「しまっ……!」

 黒薔薇の剣が手を離れて転がっていき、倒れたイクスラースは致命的な隙を作ってしまった事に思わず舌打ちしそうになるが……エドはそのまま腰の剣を引き抜くと、もう一人の兵士を組み伏せていたアルヴァへと斬りかかる。

「ギイッ!?」
「ハーク! 平気か!」
「エド……!? お前……」

 再びアルヴァへと向き直るエドを見て、イクスラースは疑問符を浮かべる。
 エドがアルヴァに斬りかかった。
 演技と言われればそれまでだが、この状況でエドが「自分は味方だ」と思わせるメリットは何か。
 全てイクスラースの勘違いだと思わせる為?
 それとも本当にエドは無実で、エドの言った事は全て真実だった?
 混乱するイクスラースの目の前で、エドとハークの二人は二体のアルヴァと剣戟を繰り広げていた。
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