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「火、水、木、金…今日で5日かぁ」
あの事件の日は、冬木さんに会った最後の日。それから今は5日後。現在土曜日。私は自室にて今スマホを握りしめながら寝転がっている。画面には『冬木克己』の文字。
「いつまでも待ってちゃいけないよね…」
あの日から何の連絡もない彼に対して思うことがないわけではない。でもお互いに仕事が忙しかったし、私だって自分からは連絡をしてないんだからお互い様だ。だから私も半分は悪い。半分だけ。
「…よし、」
意を決して電話番号に手をかけると、下から私を呼ぶ声が聞こえた。少し怒って聞こえるあの声は健兄だな。身に覚えがなさすぎて、ドキドキしながら降りていく。なにしたっけ。アイスもプリンも勝手に食べてないはずだけど。
……パタン…とんとんとん…
「…ねぇ、全然思い付かないんだけど。私何かし…、た………え……?」
「客だよ、お前に」
それならそんなに不機嫌に呼ばないでよ、なんて言葉は出てこなかった。だって、そこにいたのは、
「…ふ、冬木部長?」
「穂ちゃん、5日ぶりだね」
「ど、どうしてここに…」
「どうしてだと思う?」
淡々と返ってくる言葉とあいかわからずにっこりした笑顔にその本心も読めず、彼が何を考えているのかわからない。
「お花屋さんだって言ってたからさ、調べてきた」
「…な、なんで」
「君に会いたかったからだよ」
また、会いたいだ。思えば私は幾度も彼からの"会いたい"を受け取っていた。
「僕はね、正直君から連絡が来るかなぁなんて思ってたんだ。けど僕も連絡しなかったから、まぁ僕も半分は悪いかなって。半分だけね」
「…、へ?」
そう言って笑った彼に、私は情けない返事しかできなかった。
健兄に半ば追い出されるようにして家を出て、2人で近くの公園を歩く。ぽつぽつとなんてことない話をしながら、木々が生い茂ってまるでトンネルのようになっているところでふと彼が立ち止まった。手も繋いでいない距離が少し遠い。じっとこちらを見つめる彼に、私の視線も揺るがない。
「僕はさ、あの日前に進めたと思ったんだ。…なのに、その日にまた君との距離が離れてしまった」
あの日…彼に飛びついて名前を呼んだ時に、一際溢れ出た感情の名前が、今ならはっきりと分かる。
「待とうと思った。君からの連絡を。でも待てなかった。…だって月曜日会社に行ったら僕はまた冬木部長って呼ばれてしまう」
彼は"仕事"だと言って私と距離を置いて、デートだと思われないための方便を使った。私はそれに対して何でもないような顔をしながら、その日から潤うことのない胸の渇きを抱えている。この感情の名前だって、もうはっきりしている。
「分かってるよ。君は僕の卑怯な、あの場限りの誤魔化しにたたのっただけだ。でも、それについて僕に怒りを覚えているよね?」
企画開発部で大声をあげたとき、確かに怒りしかなかった。自分から距離を置いた彼はそれでも私を愛おしそうに見つめるから腹が立った。でもあれは、違ったんだ。そうじゃない…本当は半分だって彼は悪くない。だって、もともとは、
「…"仕事だ"って距離をとって彼らを追い返したのは、君から始めたことだっただろう?」
「っ、」
「…追い返したかったのは彼ら?それとも…ほんとは僕のことだったのかな」
最初から卑怯な言葉を使ったのは私の方だった。それに私が気づいたのは彼に怒鳴ったあの時だ。
彼は最初からデートだと言っていたのに、私だってそのつもりでいたのに。声をかけてきた彼らにだって正直に言えばいいのに、面倒くささと、少しの照れと戸惑いが、"仕事だ"なんてずるい言葉を生んで。そうやって最初に距離を取ったのは私だった。彼もしっかり傷ついていたのに、その痛みに触れなかったのも私だ。
―今日は名前で呼んでほしい―
彼はそれでも私の手を握って、決して離さなかった。私のありきたりな服を褒めて、私に抱きつかれて照れて、自分が好む新しい世界へと私を連れて行ってくれた。確かに幸せだと思える時間を、あの時一緒に過ごせたのに。彼が同じようにその言葉で彼女を躱そうとした時、私だけが傷ついた顔をして、彼の握る手をひどく傲慢に振り解った。だから半分なんてもんじゃない。私が全部悪い。
「……わか、…ってるくせに、」
「分かってるよ」
「追い返したいなんて、あるわけないのに、」
「知ってる」
「…ひどい、」
「そうかもしれない」
「正論が、過ぎます」
「君は正論が嫌い?」
「…こういう時のは、ちょっと冷たい」
「そういう話を、もっと君としたい」
「…正論の話?」
「僕たちは好きなものを知り合うだけじゃだめだ。嫌いなもの、されて嫌なこと、こうしてほしいことをもっと、話し合いたい」
それでもまだ私は彼の前では素直になれない。彼はこんなにも心の内を言葉にしてくれるのに。こうしてほしいこと、こうされたいこと、自分の感情に向き合って、相手の考えを思い巡らせる。
「僕はね、君から何を言われても、受け止められる自信がある」
「……何を言っても?」
「何を言っても」
言ってもいいんだろうか。存分に彼を傷つけてきた私が、確信に触れてくれる彼に何も返してこなかった私が…本当に伝えてもいいんだろうか。彼を求めても許されるのか。
「………っ私も、!……会いたかった、!」
そう言った私の腕を掴んで痛いほどきつく抱きしめたのは、ずるい言葉の欠片もない、強く真っ直ぐで揺るぎなく、けれどとても優しい笑顔の彼だった。
「…抱きついて、もう恥ずかしくないの?」
「君は存外意地悪なことを言うよね」
しばらく抱きしめられて、その気恥ずかしさから拗ねたことを言う。ただ、思った以上に甘い声が出て余計に恥ずかしさが増した。
「だってもう照れてないから…」
「あのときは突然だったから。不意打ちには弱いんだよ」
「…みんなにそうなんですか?」
「またそういう…君の前だから油断するんじゃないか」
「そっちこそ分かってるくせに」と言ってまたぎゅっと包み込んでくれる腕に安心して、胸に頭を預けてふふふっと笑った。
「ねぇ、君とデートがしたいんだけど」
しばらく抱き合った後に彼が言った。
「…次は克己さんの番だよ。映画の次に好きなもの。教えてくれるんでしょう?」
「…うーん…ならさ、僕の家に来て?」
そう言った彼は少し照れくさそうに「お泊りのセットを買いに行こう」なんて言って私と繋いだ手を振るので、それに既視感を覚えつつ私も手を握り返した。
「いいですけど、ならいったん取りに帰るよ?」
必要なものを頭の中でピックアップしながら歩き始めたら、彼がぐんっと手を引いた。
「……泊まるんだよ?ねぇ、お泊りセットだよ?」
「え?うん…あ、化粧水的なのある?借りていい?」
「………なんでそんなにライトなの?今までもそんな感じで泊まってきたの?」
「?あ、うち外泊はそんなに厳しくなくて。ご飯のことさえ伝えておけば特に問題はないよ」
「それも大事だけどそうじゃなくて!」
「?なに」
「……ううん。いこ」
「僕の家に置いてってほしいから、新しいのを揃えたい」と言った彼の言葉に従い、簡単に揃えた荷物を持って向かった彼の家は、私の家の最寄り駅より二駅会社に近くて、比較的大きな駅からほど近いマンションだった。部長ともなればタワマンの最上階ワンフロアとかに住んでるのかなんて考えていたけれど、「僕はそれなりに質素倹約だよ」なんて笑ってたのもあって、着いた先がオートロック付ではあれど2DKの単身向けマンションで少しほっとしたのは内緒だ。
「すこし味気ない部屋だけど」と促されて入った玄関は靴箱にキレイに靴が並べてあって、彼の几帳面さが表れていた。足を踏み入れた室内の家具や寝具がモノトーンで統一されているのは彼らしいなと思う。
「何もないでしょ?あんまり物を起きたくなくてね」
「ううん。克己さんらしいなって思ってた」
「そうかな?…お茶でも入れるよ」
「…ねぇ、まって」
お茶もいいけど、その前に先程から彼が纏う空気を先になんとかしたい。近づいた彼との距離を、私はもう絶対に離したくない。
「なに?」
「家に誘ったのは克己さんでしょう?私は何かした?」
「…別に怒ってないよ」
「けど不安に思ってるでしょ」
「それは…」
「ねぇ、言って。話し合おうって言った。だから言って。なに?」
彼は少し考えた様子で一つため息をついてから、彼に似合わない自信なさ気な表情で話し始める。
「…家に来てもらえれば、僕のこともっと知ってもらえると思った。今度は誰の邪魔も入らせずに、君とゆっくり話したかった」
「でも、僕はこうして自分の家に誰かを…恋人を、招くのは初めてなんだ」
「でも、君は違うんだろう?だから僕がお泊りセットなんて言っても、特に不審感も、不安もなかったんだろう?…それでちょっと自分が情けなくなっただけ」
「君になにかあるわけじゃないんだ」って今まで繋いでいた手を離そうとするから、私はその手を絡め取る。彼はいつでも素直に自分の気持ちを伝えてくれる人なのだと、彼と触れ合うたびに思う。私もちゃんと答えなきゃ。
「…私も誰にも邪魔されずにあなたと話したかった。だから家に誘ってもらえたことはすごく嬉しかったの。あなたの内側に呼んでもらえたことが、幸せに思えた」
「情けなくなんかない。そんなこと私は思わない」
「だから、あなたが今まで大事に持ってきたもの…全部私にちょうだい?」
私が素直になるとほら、彼は切なそうに愛おしそうに私を見つめてくれるから。絡めた手をどちらからともなく隙間を埋めるように握りしめた。
「…返品不可だよ」
「もちろん。お願いされたって返さない」
顔を寄せてその薄い唇にかぶりつくと、彼も私と同じ熱量を持っていて、それに深く酔いしれた。
あの事件の日は、冬木さんに会った最後の日。それから今は5日後。現在土曜日。私は自室にて今スマホを握りしめながら寝転がっている。画面には『冬木克己』の文字。
「いつまでも待ってちゃいけないよね…」
あの日から何の連絡もない彼に対して思うことがないわけではない。でもお互いに仕事が忙しかったし、私だって自分からは連絡をしてないんだからお互い様だ。だから私も半分は悪い。半分だけ。
「…よし、」
意を決して電話番号に手をかけると、下から私を呼ぶ声が聞こえた。少し怒って聞こえるあの声は健兄だな。身に覚えがなさすぎて、ドキドキしながら降りていく。なにしたっけ。アイスもプリンも勝手に食べてないはずだけど。
……パタン…とんとんとん…
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それならそんなに不機嫌に呼ばないでよ、なんて言葉は出てこなかった。だって、そこにいたのは、
「…ふ、冬木部長?」
「穂ちゃん、5日ぶりだね」
「ど、どうしてここに…」
「どうしてだと思う?」
淡々と返ってくる言葉とあいかわからずにっこりした笑顔にその本心も読めず、彼が何を考えているのかわからない。
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「…な、なんで」
「君に会いたかったからだよ」
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「僕はね、正直君から連絡が来るかなぁなんて思ってたんだ。けど僕も連絡しなかったから、まぁ僕も半分は悪いかなって。半分だけね」
「…、へ?」
そう言って笑った彼に、私は情けない返事しかできなかった。
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「分かってるよ。君は僕の卑怯な、あの場限りの誤魔化しにたたのっただけだ。でも、それについて僕に怒りを覚えているよね?」
企画開発部で大声をあげたとき、確かに怒りしかなかった。自分から距離を置いた彼はそれでも私を愛おしそうに見つめるから腹が立った。でもあれは、違ったんだ。そうじゃない…本当は半分だって彼は悪くない。だって、もともとは、
「…"仕事だ"って距離をとって彼らを追い返したのは、君から始めたことだっただろう?」
「っ、」
「…追い返したかったのは彼ら?それとも…ほんとは僕のことだったのかな」
最初から卑怯な言葉を使ったのは私の方だった。それに私が気づいたのは彼に怒鳴ったあの時だ。
彼は最初からデートだと言っていたのに、私だってそのつもりでいたのに。声をかけてきた彼らにだって正直に言えばいいのに、面倒くささと、少しの照れと戸惑いが、"仕事だ"なんてずるい言葉を生んで。そうやって最初に距離を取ったのは私だった。彼もしっかり傷ついていたのに、その痛みに触れなかったのも私だ。
―今日は名前で呼んでほしい―
彼はそれでも私の手を握って、決して離さなかった。私のありきたりな服を褒めて、私に抱きつかれて照れて、自分が好む新しい世界へと私を連れて行ってくれた。確かに幸せだと思える時間を、あの時一緒に過ごせたのに。彼が同じようにその言葉で彼女を躱そうとした時、私だけが傷ついた顔をして、彼の握る手をひどく傲慢に振り解った。だから半分なんてもんじゃない。私が全部悪い。
「……わか、…ってるくせに、」
「分かってるよ」
「追い返したいなんて、あるわけないのに、」
「知ってる」
「…ひどい、」
「そうかもしれない」
「正論が、過ぎます」
「君は正論が嫌い?」
「…こういう時のは、ちょっと冷たい」
「そういう話を、もっと君としたい」
「…正論の話?」
「僕たちは好きなものを知り合うだけじゃだめだ。嫌いなもの、されて嫌なこと、こうしてほしいことをもっと、話し合いたい」
それでもまだ私は彼の前では素直になれない。彼はこんなにも心の内を言葉にしてくれるのに。こうしてほしいこと、こうされたいこと、自分の感情に向き合って、相手の考えを思い巡らせる。
「僕はね、君から何を言われても、受け止められる自信がある」
「……何を言っても?」
「何を言っても」
言ってもいいんだろうか。存分に彼を傷つけてきた私が、確信に触れてくれる彼に何も返してこなかった私が…本当に伝えてもいいんだろうか。彼を求めても許されるのか。
「………っ私も、!……会いたかった、!」
そう言った私の腕を掴んで痛いほどきつく抱きしめたのは、ずるい言葉の欠片もない、強く真っ直ぐで揺るぎなく、けれどとても優しい笑顔の彼だった。
「…抱きついて、もう恥ずかしくないの?」
「君は存外意地悪なことを言うよね」
しばらく抱きしめられて、その気恥ずかしさから拗ねたことを言う。ただ、思った以上に甘い声が出て余計に恥ずかしさが増した。
「だってもう照れてないから…」
「あのときは突然だったから。不意打ちには弱いんだよ」
「…みんなにそうなんですか?」
「またそういう…君の前だから油断するんじゃないか」
「そっちこそ分かってるくせに」と言ってまたぎゅっと包み込んでくれる腕に安心して、胸に頭を預けてふふふっと笑った。
「ねぇ、君とデートがしたいんだけど」
しばらく抱き合った後に彼が言った。
「…次は克己さんの番だよ。映画の次に好きなもの。教えてくれるんでしょう?」
「…うーん…ならさ、僕の家に来て?」
そう言った彼は少し照れくさそうに「お泊りのセットを買いに行こう」なんて言って私と繋いだ手を振るので、それに既視感を覚えつつ私も手を握り返した。
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「……泊まるんだよ?ねぇ、お泊りセットだよ?」
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「それも大事だけどそうじゃなくて!」
「?なに」
「……ううん。いこ」
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「そうかな?…お茶でも入れるよ」
「…ねぇ、まって」
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「なに?」
「家に誘ったのは克己さんでしょう?私は何かした?」
「…別に怒ってないよ」
「けど不安に思ってるでしょ」
「それは…」
「ねぇ、言って。話し合おうって言った。だから言って。なに?」
彼は少し考えた様子で一つため息をついてから、彼に似合わない自信なさ気な表情で話し始める。
「…家に来てもらえれば、僕のこともっと知ってもらえると思った。今度は誰の邪魔も入らせずに、君とゆっくり話したかった」
「でも、僕はこうして自分の家に誰かを…恋人を、招くのは初めてなんだ」
「でも、君は違うんだろう?だから僕がお泊りセットなんて言っても、特に不審感も、不安もなかったんだろう?…それでちょっと自分が情けなくなっただけ」
「君になにかあるわけじゃないんだ」って今まで繋いでいた手を離そうとするから、私はその手を絡め取る。彼はいつでも素直に自分の気持ちを伝えてくれる人なのだと、彼と触れ合うたびに思う。私もちゃんと答えなきゃ。
「…私も誰にも邪魔されずにあなたと話したかった。だから家に誘ってもらえたことはすごく嬉しかったの。あなたの内側に呼んでもらえたことが、幸せに思えた」
「情けなくなんかない。そんなこと私は思わない」
「だから、あなたが今まで大事に持ってきたもの…全部私にちょうだい?」
私が素直になるとほら、彼は切なそうに愛おしそうに私を見つめてくれるから。絡めた手をどちらからともなく隙間を埋めるように握りしめた。
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