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「楓先輩、この無言電話、来週には解決するかもしれません」
「なんですって?!よく分かんないけど穂、よくやってくれたわ!」
次の日の朝、開口一番に楓先輩へと伝える。昨日社長と、外回りからちょうど帰ってきて部署に立ち寄っていた山崎部長にも話して許可を貰えたのだ。
「どういうことですか?」
「社内の電話回線をハッキングするの。相手がうちの内線番号を選んで受話器をあげ瞬間から到達するまでの数秒から数十秒の間に、うちは0.2秒以下の速さで回線を通して電話機番号を調べる」
「あー、なるほど。でもそれだと、番号が分かっただけで、電話機と照らし合わせるのに時間がかかるんじゃ?」
「だから予め電話機の物品管理番号をシステムに入力しておくの。そうしたら場所の特定まで0.5秒…つまり、こちらにコールが鳴る前に、かけてくる電話機と場所を特定できる」
「…やば、そんなことできるの?」
「システム入力はまだしも、0.2秒で番号特定しちゃうのは穂先輩だからできることですね」
「穂~!あんたやっぱすごいわよ~!」
「ただ、全電話機の物品管理番号の入力を今度のシステム更新中にやりますので、実際に動くのは来週になるかと」
「終わりが見えただけでこっちのもんよ~。これで今日かかってきてもいつもよりハッピーな声で出ちゃうかも」
「案外優しく声をかければ何か言ってくるんじゃないですか?」
「優しくカレーの作り方でも囁いてあげましょうか」
顔を輝かせている楓先輩の様子が、いつもの二日酔いでどんよりしている彼女とは雲泥の差で笑ってしまった。蒼汰くんは顎に手を当てて考え込んでいる。
「それ、企画開発部の方にも対応できますか?」
「うーん…実はそっちは別で動いてみようと思ってる」
「別?」
「なにか喋ってるってことは通話時間もそれなりにあるだろうし、直接行って解析してみようかなって。話してる数字っていうのも気になるし」
「なるほど。それも穂先輩の自作ソフトですか?」
「うん、まぁ大したもんじゃないけどね。冬木部長の許可もとってあるから、とりあえず今日から電話のなる12:00から13:00の間に張ってみるね」
「張り込み捜査ですね、俺も行きます」
「あたしも行く~。そこでみんなでお昼食べようよ」
「いやピクニックじゃないんだから…」
時刻は12:16。
「まぁこれで、犯人が分かれば電話機の管理番号入力なんて面倒なことしなくていいんですけどね」
「ほんとよ。むしろ今日犯人が分かれば、あたし何しちゃうかわかんないわよ」
「熱烈なキスでも贈りますか?」
「ついでに蒼汰のプリンでも買ってこさせようか」
「焼きそばパン要員ですね。楓先輩やることがヤンキーだなぁ」
「盗んだバイクで暴走なんて、いくらあたしでもしたことないわよ」
「当たり前ですよそれ犯罪ですから。てゆか古いっすよ楓先輩」
「やかましいわ。年齢差をここで出すな卑怯者」
「二人とも、他部署に来てまでそのやりとりやめてください恥ずかしい」
企画開発部の一角を借りて、テイクアウトしてきたお昼ご飯を並べて居座る私たちは、部署内の人からただでさえ遠巻きに見られているのに、会話を聞かれて余計に引かれてしまっている気がする。この二人と一緒くたに変人扱いされるのはやめてほしい。
prrrr…prrrr…………
「………きたわね」
「いよいよですね」
時刻は12:16。聞いている時間よりもだいぶ早い時間だが、きっとそうだろうと変な確信があった。どっちにしろこの時間に鳴る電話は私がとると伝えてあったので、周りの人たちも固唾ん飲んで見守ってくれている。スタンバイしてあった個人PCの解析ソフトを作動させた。
「……えーっと、じゃ、出ますね」
ガチャッ…
「…穂?…ねぇ蒼汰、ちょっと長くない?」
「すっげー解析されてく」
「もーこのシステムオタクが!穂の心配をなさい!」
「……穂ちゃん?あれ、もう始まってるの?」
「、!冬木サン、なんか今日は早かったみたいっすよ」
「ちょっと、この子何にも喋んないけど大丈夫かしら」
「………穂ちゃん?」
外回りから帰ってきた冬木部長と二人が後ろで何やら話していて、視線だけで返す。少し聞き取りづらいが、電話越しに聞こえる背景音は明らかに社内のものではない。それに言っていたとおり数字が聞こえる。それも、これは英語だ。
メモを用意していなかったので頭の中に叩き込む。どうやら規則性があって、同じ数字を繰り返しているようだ。繰り返される数字は……全部で9桁。0…3……
チラリと画面見るとその間もPCは解析は続いている。自作なのでそこまで精密さはないのだが、それなりに近い座標が出せるよう改良は重ねている。実験台になってくれた仲間たちには頭が上がらないものだ。
数字の羅列は馴染みのないもので、なぜこうも何度も繰り返し唱えられているのか検討もつかない。ふっと、相手が喋らなくなったときに、ちょうど解析が終わった。なんの音も聞こえないし、こちらも何も話していないが、なぜか通話が切れることはないことを不思議に思いながらも、PCを操作する。
出てきた座標を検索にかける。都内か、都外か…英語ってことは海外か、って…
「………は?」
「「え?」」
「どうしたの?」
まさか、どうして…いや、そんなはずはない…
座標検索ソフトを閉じて、サーバー内で検索をかける。先程の9桁の数字、全く覚えはないが何かで引っかかるとするなら、もしかして…
「…っ、くそっ」
「…穂、どうした」
克己さんが受話器を持って固まる私の肩にそっと触れるので、顔をあげた。とても心配してくれているのが伝わるが、どうしていいのか分からず途方にくれる。すると電話越しに空気が動いた。
「…ミノル…?…っ、haha!…you are Minoru Yamashiki!」
「…、by any chance………Klaus Becker…?」
「…hmm……ーーーーーーーー、」
「え?」
プッ……ツー…ツー…
「っあ、くそっ切れた…」
「え、ちょっと、どうなったの?向こう喋ったの?」
「ちょっと、すみません」
「は?ねぇ、穂!」
近くのPCから急いで社内スケジュールを確認し、個人スケジュール管理シートを開く。社長は13:00から都内で会合で、現在は…移動中。山崎部長は…現在外回りで戻るのは夕方。くそ、こういうときに限って誰もいない。
「ちょっと、穂!どうしたの!」
「穂先輩?」
楓先輩と蒼汰くんが声をかけてくれるが、なんにせよ時間がない。今すぐ上の人間に報告して処理を仰がないと、これは一人で判断ができないのに。どうする、どうしたらいい。今の状況で私にできる最善策は…
……パシッ…
こめかみに当てていた手を誰かに掴まれる。勢いよく振り返ると、神妙な顔をした克己さんがいた。
「、はなして」
「説明して。なにが、どうなったの」
「っ今は時間がな「これは企画開発部で起きたことだ。僕は部長として聞く義務がある。こう言えば満足かな?」……、」
そう言われると何も言い返せない。時間が刻々と迫っていて体を覆い尽くす焦りは、じわりじわりと彼に掴まれた腕にも侵食していく。
彼に掴まれた手の熱から少しずつ緩和されていく。
「…なによりも、君が心配だ」
「…、克己さん」
「なんの為に、僕は今ここにいると思う?君を守るためにここにいる。あの時言っただろう?受け止めるって」
―僕はね、君から何を言われても、受け止められる自信がある―
あの時そう言って、彼はほんとに私を受け止めてくれた。何を言っても何をしても、優しい愛を与えてくれた。焦りと不安に支配されていた体が、彼の握る手から少しずつ緩和されていく。
「…落ち着いた?」
「…うん、ごめんなさい」
「ふふ、大丈夫。君を守りきることが、僕にとっての誉になるんだから」
握った手をそっと引いて、トンっとぶつかる広い胸とふわりと鼻をくすぐる彼の匂いに包まれて、私はほーっと息を吐いた。
「ちょっとそこの人間砂糖漬け共。いい加減、話進めないと出荷させるわよ」
「製菓工場で砂糖まみれの側だけ剥いでもらいましょうか」
「はっ、剥いだところで浸透しきってもう手遅れよ」
「ははは、甘くて美味しいだろう?」
「「胸焼けしかしねーよ」」
二人のいつものやり取りに、緊張も全て解けた。こういう時は焦ってはいい結果が出ない。落ち着いて、深呼吸…
「…場所を変えましょう。順を追って説明します」
「なんですって?!よく分かんないけど穂、よくやってくれたわ!」
次の日の朝、開口一番に楓先輩へと伝える。昨日社長と、外回りからちょうど帰ってきて部署に立ち寄っていた山崎部長にも話して許可を貰えたのだ。
「どういうことですか?」
「社内の電話回線をハッキングするの。相手がうちの内線番号を選んで受話器をあげ瞬間から到達するまでの数秒から数十秒の間に、うちは0.2秒以下の速さで回線を通して電話機番号を調べる」
「あー、なるほど。でもそれだと、番号が分かっただけで、電話機と照らし合わせるのに時間がかかるんじゃ?」
「だから予め電話機の物品管理番号をシステムに入力しておくの。そうしたら場所の特定まで0.5秒…つまり、こちらにコールが鳴る前に、かけてくる電話機と場所を特定できる」
「…やば、そんなことできるの?」
「システム入力はまだしも、0.2秒で番号特定しちゃうのは穂先輩だからできることですね」
「穂~!あんたやっぱすごいわよ~!」
「ただ、全電話機の物品管理番号の入力を今度のシステム更新中にやりますので、実際に動くのは来週になるかと」
「終わりが見えただけでこっちのもんよ~。これで今日かかってきてもいつもよりハッピーな声で出ちゃうかも」
「案外優しく声をかければ何か言ってくるんじゃないですか?」
「優しくカレーの作り方でも囁いてあげましょうか」
顔を輝かせている楓先輩の様子が、いつもの二日酔いでどんよりしている彼女とは雲泥の差で笑ってしまった。蒼汰くんは顎に手を当てて考え込んでいる。
「それ、企画開発部の方にも対応できますか?」
「うーん…実はそっちは別で動いてみようと思ってる」
「別?」
「なにか喋ってるってことは通話時間もそれなりにあるだろうし、直接行って解析してみようかなって。話してる数字っていうのも気になるし」
「なるほど。それも穂先輩の自作ソフトですか?」
「うん、まぁ大したもんじゃないけどね。冬木部長の許可もとってあるから、とりあえず今日から電話のなる12:00から13:00の間に張ってみるね」
「張り込み捜査ですね、俺も行きます」
「あたしも行く~。そこでみんなでお昼食べようよ」
「いやピクニックじゃないんだから…」
時刻は12:16。
「まぁこれで、犯人が分かれば電話機の管理番号入力なんて面倒なことしなくていいんですけどね」
「ほんとよ。むしろ今日犯人が分かれば、あたし何しちゃうかわかんないわよ」
「熱烈なキスでも贈りますか?」
「ついでに蒼汰のプリンでも買ってこさせようか」
「焼きそばパン要員ですね。楓先輩やることがヤンキーだなぁ」
「盗んだバイクで暴走なんて、いくらあたしでもしたことないわよ」
「当たり前ですよそれ犯罪ですから。てゆか古いっすよ楓先輩」
「やかましいわ。年齢差をここで出すな卑怯者」
「二人とも、他部署に来てまでそのやりとりやめてください恥ずかしい」
企画開発部の一角を借りて、テイクアウトしてきたお昼ご飯を並べて居座る私たちは、部署内の人からただでさえ遠巻きに見られているのに、会話を聞かれて余計に引かれてしまっている気がする。この二人と一緒くたに変人扱いされるのはやめてほしい。
prrrr…prrrr…………
「………きたわね」
「いよいよですね」
時刻は12:16。聞いている時間よりもだいぶ早い時間だが、きっとそうだろうと変な確信があった。どっちにしろこの時間に鳴る電話は私がとると伝えてあったので、周りの人たちも固唾ん飲んで見守ってくれている。スタンバイしてあった個人PCの解析ソフトを作動させた。
「……えーっと、じゃ、出ますね」
ガチャッ…
「…穂?…ねぇ蒼汰、ちょっと長くない?」
「すっげー解析されてく」
「もーこのシステムオタクが!穂の心配をなさい!」
「……穂ちゃん?あれ、もう始まってるの?」
「、!冬木サン、なんか今日は早かったみたいっすよ」
「ちょっと、この子何にも喋んないけど大丈夫かしら」
「………穂ちゃん?」
外回りから帰ってきた冬木部長と二人が後ろで何やら話していて、視線だけで返す。少し聞き取りづらいが、電話越しに聞こえる背景音は明らかに社内のものではない。それに言っていたとおり数字が聞こえる。それも、これは英語だ。
メモを用意していなかったので頭の中に叩き込む。どうやら規則性があって、同じ数字を繰り返しているようだ。繰り返される数字は……全部で9桁。0…3……
チラリと画面見るとその間もPCは解析は続いている。自作なのでそこまで精密さはないのだが、それなりに近い座標が出せるよう改良は重ねている。実験台になってくれた仲間たちには頭が上がらないものだ。
数字の羅列は馴染みのないもので、なぜこうも何度も繰り返し唱えられているのか検討もつかない。ふっと、相手が喋らなくなったときに、ちょうど解析が終わった。なんの音も聞こえないし、こちらも何も話していないが、なぜか通話が切れることはないことを不思議に思いながらも、PCを操作する。
出てきた座標を検索にかける。都内か、都外か…英語ってことは海外か、って…
「………は?」
「「え?」」
「どうしたの?」
まさか、どうして…いや、そんなはずはない…
座標検索ソフトを閉じて、サーバー内で検索をかける。先程の9桁の数字、全く覚えはないが何かで引っかかるとするなら、もしかして…
「…っ、くそっ」
「…穂、どうした」
克己さんが受話器を持って固まる私の肩にそっと触れるので、顔をあげた。とても心配してくれているのが伝わるが、どうしていいのか分からず途方にくれる。すると電話越しに空気が動いた。
「…ミノル…?…っ、haha!…you are Minoru Yamashiki!」
「…、by any chance………Klaus Becker…?」
「…hmm……ーーーーーーーー、」
「え?」
プッ……ツー…ツー…
「っあ、くそっ切れた…」
「え、ちょっと、どうなったの?向こう喋ったの?」
「ちょっと、すみません」
「は?ねぇ、穂!」
近くのPCから急いで社内スケジュールを確認し、個人スケジュール管理シートを開く。社長は13:00から都内で会合で、現在は…移動中。山崎部長は…現在外回りで戻るのは夕方。くそ、こういうときに限って誰もいない。
「ちょっと、穂!どうしたの!」
「穂先輩?」
楓先輩と蒼汰くんが声をかけてくれるが、なんにせよ時間がない。今すぐ上の人間に報告して処理を仰がないと、これは一人で判断ができないのに。どうする、どうしたらいい。今の状況で私にできる最善策は…
……パシッ…
こめかみに当てていた手を誰かに掴まれる。勢いよく振り返ると、神妙な顔をした克己さんがいた。
「、はなして」
「説明して。なにが、どうなったの」
「っ今は時間がな「これは企画開発部で起きたことだ。僕は部長として聞く義務がある。こう言えば満足かな?」……、」
そう言われると何も言い返せない。時間が刻々と迫っていて体を覆い尽くす焦りは、じわりじわりと彼に掴まれた腕にも侵食していく。
彼に掴まれた手の熱から少しずつ緩和されていく。
「…なによりも、君が心配だ」
「…、克己さん」
「なんの為に、僕は今ここにいると思う?君を守るためにここにいる。あの時言っただろう?受け止めるって」
―僕はね、君から何を言われても、受け止められる自信がある―
あの時そう言って、彼はほんとに私を受け止めてくれた。何を言っても何をしても、優しい愛を与えてくれた。焦りと不安に支配されていた体が、彼の握る手から少しずつ緩和されていく。
「…落ち着いた?」
「…うん、ごめんなさい」
「ふふ、大丈夫。君を守りきることが、僕にとっての誉になるんだから」
握った手をそっと引いて、トンっとぶつかる広い胸とふわりと鼻をくすぐる彼の匂いに包まれて、私はほーっと息を吐いた。
「ちょっとそこの人間砂糖漬け共。いい加減、話進めないと出荷させるわよ」
「製菓工場で砂糖まみれの側だけ剥いでもらいましょうか」
「はっ、剥いだところで浸透しきってもう手遅れよ」
「ははは、甘くて美味しいだろう?」
「「胸焼けしかしねーよ」」
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