うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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ダンジョンスタンピード第二波 悲痛

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響く悲鳴、荒れる館内、逃げ惑う人々。

しかしフロアには人がごった返していたので、互いにぶつかりあって押し合いへし合い。そうしてどちらにも逃げられずに、その場で将棋倒しなんかが起きてしまう。

「あぁッ!あぐぅぅぅうう…!!」

だがそんななか問題の患者さんが苦しみながらも急に左腕をバタつかせ、自衛官さんの服をむしり取ろうとするようにしきりに掴んでは引っ張っている。それも爪が剥がれ、血が滲むような強い力でだ。

(む、あれはもしや、腕のコントロールが利かないのか?)

オーラ視で視てみると、左腕には明らかに彼女の気ではない別の何かが流れ込んでいる様子。

(それにあのモンスター…)
「ぶひゃひゃひゃ!ごぇッごぇッごぇッごぇッ…!!」

女性が苦しんでいるというのにやけに嬉しそう。ハッ!ということはヤツが彼女の腕を支配しているという訳か。

「あれは…もしや人面瘡じんめんそうなのか?」
「え、知っているの江月さん!?」

そうだ、人面瘡。

妖怪やモンスターなどを題材にしたマンガやアニメでは、マイナーメジャーな存在として必ず一度は登場するヤツ。ひとたび人に憑りつくと梃子でも剥がれず、次第に憑りついた人の肉体や精神を疲弊させ死に追いやるという恐ろしい怪異だ。

大抵の作品ではどんなに手を尽くしても解決できず、最終的には憑りつかれた人が亡くなってしまうという非常に厄介な相手のはず…。

「あ、いや。知ってるってほどの知識はないんだ。でもアレが人面瘡だったなら、切り取ったとしてもまたすぐに生えてきてしまうはず…」
「なんじゃおぬし!いま人面瘡とか言うたな!?」

都奈美さんとそう話していると、患者から上着を剥いだ白髪の医者が近づいてきた。

お、なんだかやたらとギョロ目で、ずいぶんと目力のある爺さんだな。みればどうやら患者の方は、鎮静剤か何かを打たれ静かになったらしい。

「え、それじゃ飛張医師もご存知なんですか!?」
「いいや、知らん。じゃが素奴の口にした人面瘡というので思い出した。…医学生時代に聞いた話をな」

「じゃあこの患者さんを治す方法をご存知なのでは…」
「いや…解らん。ワシが聞いたのはみなで酒を飲んでいた時。それも、先輩がはじめた怪談話でじゃ。まさかそれが、こんな形で本物に出くわすことになろうとはの…」

そう言って肩越しに眠っている患者に眼を向ける老医師。

その傍には運んできた自衛官がいて、なにかあった時の為に待機している。しかし今は患者に投与された薬が効いたのか、人面瘡の方も口からヨダレをダラダラさせ眠っているようだ。

「ぶごぉ~…ふしゅるるる…、ぶごぉ~…ふしゅるるる…」

むむむ、なんとも奇怪な…。寝ていてもデカい鼾でクソ煩いとか、とんでもなく迷惑なヤツ。これじゃ憑りつかれた人は堪ったモンじゃないだろう。

「先生…、どうか妻を。妻をたすけてください…」

と、そこへ青い顔でフラフラとやってきたポロシャツ姿の男性が、老医師に深々と頭を下げる。何度も、何度も…。どうしていいか解らず、憔悴しきってしまっている様子。

「無論、助けてはやりたい…じゃが相手が悪い。こんなモノを視るのはワシも初めてじゃ。前例があったなんて話も聞くが、それもどこまで本当か…」
「どうか!どうか…おねがいします…」

無理を承知と自身でも解っているのか、悲痛な顔。それでも患者の旦那さんと思しき男性は力なくその場にへたり込むと、土下座し直して老医師に頭を下げる…。

それに対し、渋い顔で黙り込んでしまう老医師。

何とも痛々しい。うぅむ、かわいそうに…。オレも瑠羽や瀬来さんや仁菜さんがあんな風になってしまったら、どんなに苦しいだろうか。

「ぶごぉ~…ふしゅるるる…、ぶごぉ~…ふしゅるるる…ふごッ…ぶひぃぃ」

(くそう…あの野郎。おまえが問題だってのに、気持ちよさそうに大イビキなんかかきやがって!)

モンスターが相手なら、オレがぶちのめしてやりたいところ。

でも人に憑りついた状態で攻撃なんかしてしまえば、根に相当する部分を暴れさせ患者の方が先に死んでしまうかもしれない…。まったくとんでもなく厄介な魚の目だ。

ちくせう…こんな時いったいどうすれば…。

(ぽわわ~ん…鳴人よ、ソルトを信じるのだ…)
(ハッ!こ、この声は…ちっさい塩の神さまッ!?)

ソルト…、でも塩で、いったい何ができる…?いや待てよ、この方法ならばもしかしたら…。

「なんとかできるかもしれない…」

「なんじゃとぉ!?」
「「ええっ!?」」

うまくいくかは解らない。でもこの方法なら。
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