うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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regret

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ダンジョン前室に入るとシャークと結月ちゃんはすっかり準備を整え待っており、オレの後に続いた智は初めて見る景色に、驚いた顔をキョロキョロさせている。

それをうしろにふたりの前に立つと、まずは希望をきいてみる。

「さて、では今日は何からはじめようか?」
「あの、筋トレで身体がバテる前に、組手からお願いします」


そう訊ねると、早速結月ちゃんからリクエストがあった。

「よし、では雨天を呼ぶとしよう」
「あ、待ってください。2対1でいいので、江月さんが相手をおねがいします」

「ふむ…そうか、まぁそういう希望ならいいだろう。智」

そこで壁際で落ち着かない様子の智に声をかける。

「な、なぁにジャン氏?」
「智は見学になるが、空気椅子で見学だ」

「えぇッ!?」
「当たり前だ。痩せてもらわんことには、なにも教えられんだろう」

「そんなぁ~ッ!」

「…なぁアレ、鍛える意味あるのか??」

と、軟弱なことを言う智に冷たい視線を向け、オレの友をアレ呼ばわりするシャーク。

「シャークよ…、オレの友をアレなどと呼んでくれるな。アレでも友達思いの良いヤツなんだ」
「ん…あれ?今ジャングもアレって言ってなかったか??」

「まぁそれはともかく、ではふたり同時にかかってきなさい。わが赤心粘極拳の技、とくとみせてやろう(ぬたぁ)」

そう言うと、オレは自身の手首から前腕にかけてを超粘液で包み込む。

「おねがいします!」
「おう!やってやるぜ!」

そうして左右に別れたふたりが、同時に攻撃をしかけてくる。

「甘い、ぬめり推手ッ!」
『(ちゅるん!つりんッ!)』

「え、手がつかめないッ!?」
「わっと!?け、蹴りも効かないのかよ!?」

ふたりは攻撃が当たったにも関わらずツルリと滑ったことで感覚を狂わされ、バランスを崩し次への反応が遅れてしまう。そう、単に攻撃が外れただけならば即座に反応できても、当たればそれについ威力をのせようと、力んでしまう。しかしそこでツルリと滑ってしまうと、その力がすっぽ抜け身体が前へと泳いでしまうのだ。

「どうした?もっと真芯を捉えた攻撃でなければ、まったく通用せんぞ!」

そうして攻撃を滑らせたあとは身を翻して後ろ向きとなり、左に腰をふるヒッププッシュで結月ちゃんを、右肩をシャークの背に当てふたりを弾き飛ばしてやる。

「キャッ!」
「うわっ!」

これにもんどりうって、ふたりは床に倒れ込む。が、組手だから怪我のないよう抑えているが、実戦ならヒッププッシュでなく脹脛を後ろから踵で蹴り落して床で膝を砕いているし、肩ではなく肘を入れ首でもアバラでも折り砕いている。

「さぁ立てもう一度だ、こい!」

実際、格闘蛙との戦いではいつもそうしてるし。

「そんな、前より強くなってないですか?」
「この…、ヌルヌルヌルヌルしやがって!」


…。


「うぅ…コレ、とってもキツいよぉ…」

空気椅子を続けながら、智道は友と女子高生たちの組手をみていた。それは激しい動きで真剣なのだろうが、どこかじゃれ合ってるようにもみえ楽し気だった。

(いいなぁ、ジャン氏…)

あんな風に動けたら、どんなにいいだろう。そう思って視線を下に向けてみても、自身のたるんだお腹が前につきでていて、膝の先しか視えない。

(でも…、ジャン氏も前は、ものすごくヒョロヒョロだったんだよな…)

そう昔を思いかえしてみると、ひとに押されてフラついていた友の姿がまざまざとよみがえる。重い紙袋を抱え列に並んでいた時、大勢の人混みのなかを移動していた時、いっつも誰かに押されては、フラフラしていたような気がする。

(それが、あんな風に変われるものなんだ…)

いつの間にかヒョロヒョロからムキムキに変身した友は、女子高生ふたりの鋭い攻撃をモノともせず軽々といなしている。女子高生たちの動きはダンジョン能力者なだけあって、格闘ゲームのキャラクターかと思うほどアクロバティックに動いているというのに。

それを思うと、智道はなんだか自分がひどく情けなくなり、いつしか涙がでてきた。

「うぅ…!ふぐぅ…!…ッ!!」

『オレに出来たんだから、おまえにも必ず出来る!』

そういって自分の為にと、考えてくれたトレーニングメニュー。それも友がいなくなると、3日と持たずにやめてしまった。そうして約束を守れなかった自分が恥ずかしくて、なんとかしようと通販で買った痩せるドリンクも、けっきょく自分を誤魔化す為でしかなかった。

「ぐぅう~ッ!ふぐぅううっ!ううぅうう~ッ!」

気付けば力尽きた智道はその場にへたり込んで、号泣していた。肩をならべて歩いていた友の姿が今はとてもまぶしく、その分だけ自分が惨めだったから。

「「「……」」」

と、そんな様子に気付いた3人が、組手をやめ智道の前までやってきた。

「なぁおい、だいじょうぶか?」
「気分が悪いんですか?」

女子高生たちの自分を気遣う声。でもそれに、智道は嗚咽が止まらず返せない。

「うぐぅ…ごべん!ごべんジャン氏ぃ!ぼぐの、ぼぐのごどぉ、おぼっでぐでだのにぃ~!!」

だがようやく、それだけは返すことが出来た。するとやさしく声がかけられ、肩には力強い手がおかれた。

「だいじょうだ、友よ。今これからだって、おまえは変われるんだ」

その声に、いっそう智道は泣けてくるのだった。
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