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19(アイラスside)
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「結局、お前はローズと結婚したんだな」
隣に座りシャンパングラスを傾けていた友に向かって俺は小声で囁いた。
あれから──ティアラとやっと気持ちが通じ合ってから、2年の歳月が経過していた。
今日はレオンハルトとローズの結婚式がアストレア城前の庭園で行われており、多くの招待客達で賑わっていた。
アストレア城は、ライオネル王国軍による襲撃で焼け落ちてしまった為、今現在も修復中だった。
「用が済んだからって、別れる訳にもいかなかったんだ。彼女には酷い目に合わせてしまった負い目もある。結婚には色んなかたちがあるんだよ。君達みたいに心から想い合って結婚する者もいれば、そうでない者もいる。どちらが正しくて、どちらが間違っているとかはない。それに妃教育をひたむきに頑張っているローズは案外可愛いものだよ」
そんなものだろうかと、俺は首を捻った。
「この気持ちは、君には一生分からないだろうね。密かにずっと恋焦がれていた相手と、やっと両想いになれて舞い上がっている君には」
棘のある言い方に腹が立って、隣に座る友の顔を睨むと、レオンハルトは憂いを帯びた瞳である一点だけを見つめていた。
その先にいたのは、久しぶりに再会した友と楽しそうに談笑するティアラだった。
「……2年前、ライオネル王国との戦いに勝利して俺の屋敷で彼女と再会した時、どうして本当の事を伝えなかった。婚約破棄したのも、代わりにローズと婚約したのも、全てはティアラを守る為だったと伝えれば、彼女はお前と寄りを戻したかもしれないのに」
「あの時、僕が正直に話しても無駄だったよ。彼女に言われたんだ。友を自国の戦争に巻き込んだ最低な人だと。あの言葉は、本当に心に突き刺さったよ……」
今でも心が痛むのか、レオンハルトは整った顔を歪ませていた。
「俺は自らの意思で隣国の戦いに首を突っ込んだだけだが」
「違うよ。僕はね……友である君がきっと自分を助けてくれるだろうと何処かで期待していたんだ。だから立ち向かう事を最初から諦めて、自分の力で解決しようともしなかった。そんな幼稚な自分をティアラに見抜かれて……羞恥心で死にたくなったよ」
未だにティアラを見つめているその眼差しには、大切なものを失った後悔が滲み出ていた。
「僕は彼女を守る事を諦めてしまった。でも、君は諦めなかった。彼女を守る為に最後まで戦い抜いた。そんな君を選んだ彼女の判断は正しい」
そう言うとレオンハルトはティアラから視線を外した。
「アイラス様!」
友との談笑が終わったのか、ティアラが弾けるような笑顔でこちらに向かって手を振っていた。
それに答えるように片手を上げると、今度は彼女が走り出した。
「ティアラ!」
制止させようと慌てて名前を叫んだが、彼女はそれに構わず自分の胸に勢い良く飛び込んできた。
「走らないでくれ。大事な身体なんだから」
俺は彼女の身体を抱き止めると、その腹部に目をやった。
ゆったりとしたドレスで目立っていないが、彼女の中には新しい命が芽吹いていた。
「あなたにこの花を渡したかったのです」
ティアラは手に持っていた鮮やかな深紅のサンブリテニアを差し出した。
「あなたの瞳と同じ色の花を、この場所で渡したかったのです」
この場所──噴水の前に俺達はいた。
ここは昔、ティアラからネモフィラの花を渡された場所だった。
「私はここでネモフィラの花をあなたに渡してしまった事を、ずっと後悔していました。だから、もう一度やり直させて欲しいのです。あなたのためだけに用意したこの花で」
俺は小さくて愛らしいその深紅の花を受け取った。
「後で押し花にしてロケットペンダントに入れましょう。……前に渡したネモフィラは、どうか捨て下さい」
無情にも彼女はそう言い放った。
ネモフィラの押し花だって、自分にとってはティアラから初めて貰った大切なものなのに。
「ジェミリオン国王陛下と何を話していたんです?あの方はまたあなたを戦いに巻き込もうとしているのですか」
レオンハルトを嫌悪するかのような口調でティアラは言った。
俺をライオネル王国との戦闘に巻き込んだ張本人だと信じ、彼女はレオンハルトを毛嫌いしていた。
それを訂正してやりたいが、友はそれを望んではいなかった。
「そうじゃない。昔話をしていただけだ」
気がつくと、隣にいたレオンハルトはいつの間にか何処かへ消えていた。
「もう二度とあなたが戦いに巻き込まれるなどごめんですからね」
口を尖らせながら言う彼女が可愛らしくて、俺は思わずフッと笑った。
「笑わないで下さい。私は真剣に言っているんですから」
ティアラは責めるような瞳で見上げると、俺の胸の辺りを軽く叩いた。
自分を心配してくれているティアラが、とても愛おしかった。
「ありがとう」
謝る代わりに感謝を伝えた。
サンブリテニアをくれたあなたに。
レオンハルトではなく自分を選んでくれたあなたに。
今、あなたの瞳に映るのは───
──── END ────
隣に座りシャンパングラスを傾けていた友に向かって俺は小声で囁いた。
あれから──ティアラとやっと気持ちが通じ合ってから、2年の歳月が経過していた。
今日はレオンハルトとローズの結婚式がアストレア城前の庭園で行われており、多くの招待客達で賑わっていた。
アストレア城は、ライオネル王国軍による襲撃で焼け落ちてしまった為、今現在も修復中だった。
「用が済んだからって、別れる訳にもいかなかったんだ。彼女には酷い目に合わせてしまった負い目もある。結婚には色んなかたちがあるんだよ。君達みたいに心から想い合って結婚する者もいれば、そうでない者もいる。どちらが正しくて、どちらが間違っているとかはない。それに妃教育をひたむきに頑張っているローズは案外可愛いものだよ」
そんなものだろうかと、俺は首を捻った。
「この気持ちは、君には一生分からないだろうね。密かにずっと恋焦がれていた相手と、やっと両想いになれて舞い上がっている君には」
棘のある言い方に腹が立って、隣に座る友の顔を睨むと、レオンハルトは憂いを帯びた瞳である一点だけを見つめていた。
その先にいたのは、久しぶりに再会した友と楽しそうに談笑するティアラだった。
「……2年前、ライオネル王国との戦いに勝利して俺の屋敷で彼女と再会した時、どうして本当の事を伝えなかった。婚約破棄したのも、代わりにローズと婚約したのも、全てはティアラを守る為だったと伝えれば、彼女はお前と寄りを戻したかもしれないのに」
「あの時、僕が正直に話しても無駄だったよ。彼女に言われたんだ。友を自国の戦争に巻き込んだ最低な人だと。あの言葉は、本当に心に突き刺さったよ……」
今でも心が痛むのか、レオンハルトは整った顔を歪ませていた。
「俺は自らの意思で隣国の戦いに首を突っ込んだだけだが」
「違うよ。僕はね……友である君がきっと自分を助けてくれるだろうと何処かで期待していたんだ。だから立ち向かう事を最初から諦めて、自分の力で解決しようともしなかった。そんな幼稚な自分をティアラに見抜かれて……羞恥心で死にたくなったよ」
未だにティアラを見つめているその眼差しには、大切なものを失った後悔が滲み出ていた。
「僕は彼女を守る事を諦めてしまった。でも、君は諦めなかった。彼女を守る為に最後まで戦い抜いた。そんな君を選んだ彼女の判断は正しい」
そう言うとレオンハルトはティアラから視線を外した。
「アイラス様!」
友との談笑が終わったのか、ティアラが弾けるような笑顔でこちらに向かって手を振っていた。
それに答えるように片手を上げると、今度は彼女が走り出した。
「ティアラ!」
制止させようと慌てて名前を叫んだが、彼女はそれに構わず自分の胸に勢い良く飛び込んできた。
「走らないでくれ。大事な身体なんだから」
俺は彼女の身体を抱き止めると、その腹部に目をやった。
ゆったりとしたドレスで目立っていないが、彼女の中には新しい命が芽吹いていた。
「あなたにこの花を渡したかったのです」
ティアラは手に持っていた鮮やかな深紅のサンブリテニアを差し出した。
「あなたの瞳と同じ色の花を、この場所で渡したかったのです」
この場所──噴水の前に俺達はいた。
ここは昔、ティアラからネモフィラの花を渡された場所だった。
「私はここでネモフィラの花をあなたに渡してしまった事を、ずっと後悔していました。だから、もう一度やり直させて欲しいのです。あなたのためだけに用意したこの花で」
俺は小さくて愛らしいその深紅の花を受け取った。
「後で押し花にしてロケットペンダントに入れましょう。……前に渡したネモフィラは、どうか捨て下さい」
無情にも彼女はそう言い放った。
ネモフィラの押し花だって、自分にとってはティアラから初めて貰った大切なものなのに。
「ジェミリオン国王陛下と何を話していたんです?あの方はまたあなたを戦いに巻き込もうとしているのですか」
レオンハルトを嫌悪するかのような口調でティアラは言った。
俺をライオネル王国との戦闘に巻き込んだ張本人だと信じ、彼女はレオンハルトを毛嫌いしていた。
それを訂正してやりたいが、友はそれを望んではいなかった。
「そうじゃない。昔話をしていただけだ」
気がつくと、隣にいたレオンハルトはいつの間にか何処かへ消えていた。
「もう二度とあなたが戦いに巻き込まれるなどごめんですからね」
口を尖らせながら言う彼女が可愛らしくて、俺は思わずフッと笑った。
「笑わないで下さい。私は真剣に言っているんですから」
ティアラは責めるような瞳で見上げると、俺の胸の辺りを軽く叩いた。
自分を心配してくれているティアラが、とても愛おしかった。
「ありがとう」
謝る代わりに感謝を伝えた。
サンブリテニアをくれたあなたに。
レオンハルトではなく自分を選んでくれたあなたに。
今、あなたの瞳に映るのは───
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