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第一章 ティタニアル大陸編 アライア連邦国
第19話 我とそちの仲であろう
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入り口横に昔ながらの銭湯にありそうな番台が配置され、そこにリンが座布団を敷いて寝転がっていた。
今朝、外出する時には番台なんてなかった。きっと僕がゾンビ狩り……介抱に精を出していた時にでも置いたのだろう。
ここに来るまでに見てきた彼らの高揚した表情や声から何となく察してはいたが、僕の読みは当たっていた。彼らは看板猫として働くウチの子の可愛さに魅了されてしまったのだと。なら、こんな状況に陥ってしまうのもごく自然なことだ。彼らは何も悪くない、リンが可愛すぎるのがいけないのだ。
昼間でも夜間でも、いつどのタイミングでリンを見たとしても可愛さは不変。
ただ太陽が出ている時間帯に見るリンは、猛烈に可愛い。語彙力がなくなるほどに可愛いのだ。
日の光を浴びて艶やかな銀毛がキラキラと輝いて、その姿はまさに神よりの御使いを彷彿させる。
この過度な表現は何一つ間違ってはいない。なぜなら、両手を合わせて拝んでいる人や涙を流す人、果物やお菓子を献上している人が跡を絶たなかったからだ。
僕も彼らと同じ客の立場であったならば、きっと同じことをしていたと思う。
僕が依頼を一つ達成する間に、ウチの子は崇め奉られるアイドルになっていた。
飼い主である僕としては鼻高々なわけだけど、心がざわめくというか見ていて少しモヤモヤする。
この複雑な感情を例えるならば、そうだな……ホームシックならぬキャットシック?
「それにしてもこの招き猫、本領発揮し過ぎじゃないか?」
リンの仕事を実際にこの目で見るまでは、ただ看板猫としてその場にいるだけだと思っていた。トニアさんもそんな風なことを言っていたし、リン自身も日光浴をして昼寝する気満々だったからだ。
だけど、目の前にいるリンはテキパキと来客をさばいていた。宿泊だったらトニアさんに、食事だったらニーナへと客を振り分けつつ、順番待ちの客が不満を漏らさないように声掛けしたりと、気だるそうな姿勢とは正反対な仕事っぷりだった。
猫泊亭が大繫盛しているのは、世話になっている僕としても喜ばしく思う。
「でも、これはさすがに……」
僕は歩いて来た道を振り返り絶望し頭を抱えた。分かり切っていたことなのだが、再認識すると結構厳しいものがある。
ここで昼ご飯を食べる場合は、僕もこの行列に並ばないといけないのだろうか。
食事を終えるのに早くても大体一人十分くらいはかかるだろうし、今から並んだとして昼ご飯にありつける頃には、もう晩ご飯の時間になっていそうだ。
美味しそうな料理の匂いが鼻腔をくすぐるなかで、我慢して待ち続けるのはさすがに辛すぎる。
リンと一緒に昼ご飯を食べる予定だったが、今日は無理そうだ諦めよう。明日また……あれ待てよ、リンが仕事を手伝う限り、一生無理なんじゃないか……。
「仕方ないか……」
仕事の邪魔をしないように僕はリンに声をかけることなく、その場を後にしようとした時だった。リンは僕の顔を見ながら不思議そうに問いかけてきた。
「メグルよ、どうして我に声をかけぬのじゃ?」
「いや忙しそうだったから……」
「なんじゃ、そのよそよそしい態度はそちらしくもない。我とそちの仲であろう?」
「その言い方いまはちょっとやめておこうか」
「一体何を気にしておるのやら、変なやつじゃの。まあ良いわ、そちは先に部屋で待っておれ。我もあと少しで昼休みじゃから、一緒に昼食をとるのじゃ」
「あ~うん、分かった」
ファンからの鋭利な視線が突き刺さる。今朝の豆腐メンタルで、嫉妬による殺意満ちた目を向けられていたら、パニックを起こして呼吸困難に陥っていたかもしれない。
いまも辛いことには変わりはないが、耐えられないことはない。あの時に感じたガレスの圧に比べたら、こんなものそよ風に等しい。
歯ぎしりをし睨めつけ呪詛を呟く彼らを素通りし、トニアさんに一言声をかけて部屋に戻った。しばらくすると、リンが器用にドアノブにぶら下がり扉を開けて部屋に入ってきた。
リンの後ろにはお盆を持ったニーナの姿があった。食堂が満席のためわざわざ部屋まで運んできてくれたようだ。彼女の好意を無下にしたくはないが、昨夜はあんなに美味しかったはずの料理が喉を通らなかった。ほとんど手つかずのまま僕は食事を終えた。
そんな僕の様子を見るなりリンは何も言わず部屋を出て行った。それから一分ほど経ったあたりで、リンがトニアさんを連れて戻ってきた。
トニアさんはベッド上のお盆に乗った料理を一瞥しため息をついた。
「すいません、トニアさん。なんか食欲がなくて……ごめんなさい」
「あんたが謝る必要なんてないさ。これは私らの責任だからさ。悪いことをしたね、メグル。宿泊客のことを大切にできないなんて……私は女将失格だ。リンも悪かったね」
「我もつい調子に乗ってしまったのが悪いんじゃ」
「はっ、それじゃこれはお互い様ってことだね。まあ任せておきな、あんたらにはもう迷惑かけさせないからさ!」
トニアさんはそう言うと、ドタバタと勢いよく階段を下りていった。その直後に彼女の怒号が轟雷のように響き渡った。
今朝、外出する時には番台なんてなかった。きっと僕がゾンビ狩り……介抱に精を出していた時にでも置いたのだろう。
ここに来るまでに見てきた彼らの高揚した表情や声から何となく察してはいたが、僕の読みは当たっていた。彼らは看板猫として働くウチの子の可愛さに魅了されてしまったのだと。なら、こんな状況に陥ってしまうのもごく自然なことだ。彼らは何も悪くない、リンが可愛すぎるのがいけないのだ。
昼間でも夜間でも、いつどのタイミングでリンを見たとしても可愛さは不変。
ただ太陽が出ている時間帯に見るリンは、猛烈に可愛い。語彙力がなくなるほどに可愛いのだ。
日の光を浴びて艶やかな銀毛がキラキラと輝いて、その姿はまさに神よりの御使いを彷彿させる。
この過度な表現は何一つ間違ってはいない。なぜなら、両手を合わせて拝んでいる人や涙を流す人、果物やお菓子を献上している人が跡を絶たなかったからだ。
僕も彼らと同じ客の立場であったならば、きっと同じことをしていたと思う。
僕が依頼を一つ達成する間に、ウチの子は崇め奉られるアイドルになっていた。
飼い主である僕としては鼻高々なわけだけど、心がざわめくというか見ていて少しモヤモヤする。
この複雑な感情を例えるならば、そうだな……ホームシックならぬキャットシック?
「それにしてもこの招き猫、本領発揮し過ぎじゃないか?」
リンの仕事を実際にこの目で見るまでは、ただ看板猫としてその場にいるだけだと思っていた。トニアさんもそんな風なことを言っていたし、リン自身も日光浴をして昼寝する気満々だったからだ。
だけど、目の前にいるリンはテキパキと来客をさばいていた。宿泊だったらトニアさんに、食事だったらニーナへと客を振り分けつつ、順番待ちの客が不満を漏らさないように声掛けしたりと、気だるそうな姿勢とは正反対な仕事っぷりだった。
猫泊亭が大繫盛しているのは、世話になっている僕としても喜ばしく思う。
「でも、これはさすがに……」
僕は歩いて来た道を振り返り絶望し頭を抱えた。分かり切っていたことなのだが、再認識すると結構厳しいものがある。
ここで昼ご飯を食べる場合は、僕もこの行列に並ばないといけないのだろうか。
食事を終えるのに早くても大体一人十分くらいはかかるだろうし、今から並んだとして昼ご飯にありつける頃には、もう晩ご飯の時間になっていそうだ。
美味しそうな料理の匂いが鼻腔をくすぐるなかで、我慢して待ち続けるのはさすがに辛すぎる。
リンと一緒に昼ご飯を食べる予定だったが、今日は無理そうだ諦めよう。明日また……あれ待てよ、リンが仕事を手伝う限り、一生無理なんじゃないか……。
「仕方ないか……」
仕事の邪魔をしないように僕はリンに声をかけることなく、その場を後にしようとした時だった。リンは僕の顔を見ながら不思議そうに問いかけてきた。
「メグルよ、どうして我に声をかけぬのじゃ?」
「いや忙しそうだったから……」
「なんじゃ、そのよそよそしい態度はそちらしくもない。我とそちの仲であろう?」
「その言い方いまはちょっとやめておこうか」
「一体何を気にしておるのやら、変なやつじゃの。まあ良いわ、そちは先に部屋で待っておれ。我もあと少しで昼休みじゃから、一緒に昼食をとるのじゃ」
「あ~うん、分かった」
ファンからの鋭利な視線が突き刺さる。今朝の豆腐メンタルで、嫉妬による殺意満ちた目を向けられていたら、パニックを起こして呼吸困難に陥っていたかもしれない。
いまも辛いことには変わりはないが、耐えられないことはない。あの時に感じたガレスの圧に比べたら、こんなものそよ風に等しい。
歯ぎしりをし睨めつけ呪詛を呟く彼らを素通りし、トニアさんに一言声をかけて部屋に戻った。しばらくすると、リンが器用にドアノブにぶら下がり扉を開けて部屋に入ってきた。
リンの後ろにはお盆を持ったニーナの姿があった。食堂が満席のためわざわざ部屋まで運んできてくれたようだ。彼女の好意を無下にしたくはないが、昨夜はあんなに美味しかったはずの料理が喉を通らなかった。ほとんど手つかずのまま僕は食事を終えた。
そんな僕の様子を見るなりリンは何も言わず部屋を出て行った。それから一分ほど経ったあたりで、リンがトニアさんを連れて戻ってきた。
トニアさんはベッド上のお盆に乗った料理を一瞥しため息をついた。
「すいません、トニアさん。なんか食欲がなくて……ごめんなさい」
「あんたが謝る必要なんてないさ。これは私らの責任だからさ。悪いことをしたね、メグル。宿泊客のことを大切にできないなんて……私は女将失格だ。リンも悪かったね」
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「はっ、それじゃこれはお互い様ってことだね。まあ任せておきな、あんたらにはもう迷惑かけさせないからさ!」
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