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第二章 ティタニアル大陸編 クラーク共和国
第56話 隣に座ることを許す
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彼のように怠体病が発症していたら、彼らを助けるどころではなかっただろう。
僕が戦わなくてもリンが何とかしてくれたかもしれない。だけど、その場合はきっとあの三人はもうこの世にはいないだろう。
僕がリンを最優先にするようにリンもまた僕を最優先にするはずだから。
「狩衣のおかげで命拾いしたのは分かった。で、あれからどれぐらい時間が経った? それと僕が寝ている間の出来事についても教えてくれないか?」
「教えても良いが、その前にグラトンに一言だけでも声をかけておくのじゃ。何なら、あやつの代わりにそちが操縦してやるのもお勧めじゃぞ?」
リンは毛布から飛び降りその足で帳の隙間をかいくぐっていった。
「……それもそうだな。ずっと神経をとがらせて馬車を走らせてくれていたことだし、それぐらいやってあげるべきだよな。それにいきなりぶっ倒れられても困るしな」
毛布を折り畳み端に置くと、彼らを起こさないように揺れる荷馬車内をゆっくりと移動した。
抜き足差し足忍び足――。
帳に指をかけて自分が通れる程度に開けたのち、グラトンに一言声をかけて先頭に移動した。
「グラトンさん隣いいですか?」
「構いませんが、メグル様もう体調はよろしいのですか?」
「ええおかげさまで絶好調です。では、隣失礼します」
「うむ、良いぞ。隣に座ることを許す」
「……なんでリンが偉そうなんだよ」
「直に座ると冷えますんで、良ければこちらの座布団をご使用ください」
彼は背もたれとして使っていた座布団を僕に手渡してくれた。
グラトンの膝の上で何やら勝ち誇るリンを横目に、ほのかに温かい座布団を敷いて腰を下ろした。
外は完全に暗闇に包まれてていた。月明りとランプによる明かりを頼りにグラトンは馬車を走らせていた。数メートル先も薄っすらとしか見えない環境にもかかわらず、彼は速度を落とすことなく操縦していた。
あの巧みな技術もまた長年の経験によるものだろう。
少しでも休息をとってもらおうと思っていたけど、僕には彼の代わりはできそうにない。
寝落ちしないように彼の話し相手にでもなっておくとしよう。というか、それ以外いまのところ僕ができそうはことはない。
徒歩で移動している時は夜間でもさほど気にならなかったが、風を切る馬車に乗っていると少々肌寒く感じる。薄手の布地が一枚間にあるだけで、これほど荷台の中と外では体感温度が違うものなのか。
座布団のおかげで多少は冷え防止にはなっているけど、足元を通過する風が思いのほか涼しい……どころか結構かなり冷たい。
「リン様すいません、少しどいていただけますか? メグル様良ければこれもお使いください。少しはマシになるかと思います」
リンは「ふむ、良いぞ」と快諾し飛び退いた。
グラトンはリンの毛がついたブランケットを手に取り差し出した。
受け取ったブランケットを広げた時にふわりとリンの匂いがした。膝にかけると足元からくる冷気は完全にシャットアウトされた。これなら何時間でも座っていられそうだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ、この時間帯は冷えますので体調が良くなったとはいえお気を付けください」
「あの……グラトンさんは大丈夫ですか?」
「案じていただきありがとうございます。見ての通り体温が高いので、無くても私は大丈夫です。なので、私のことは気にせずお使いください」
グラトンは片手で馬を操りながらもう片手で自分の腹部をさすり微笑んだ。
確かに彼自身がいうようにふくよかな体型をしているが、寒いことには変わらないはずだ。じゃなかったら、ブランケットなんて使うはずがない。
僕が眉をひそめて彼の優しい言動に戸惑っていると、リンが「では、我がそちを温めてやろうかの」と言って、断りもなくグラトンの膝の上にまた飛び移った。
彼は香箱座りで占拠するリンに微笑しつつ感謝の言葉を述べていた。
その様子を見た僕は数か月ぶりにあの感情と言葉を思い出してしまった。
猫を取られた。
そんなモヤっとした気持ちを抱えながら僕は彼らが口にする言葉に耳を傾けた。
夜が更けて日が昇るまで――。
僕が戦わなくてもリンが何とかしてくれたかもしれない。だけど、その場合はきっとあの三人はもうこの世にはいないだろう。
僕がリンを最優先にするようにリンもまた僕を最優先にするはずだから。
「狩衣のおかげで命拾いしたのは分かった。で、あれからどれぐらい時間が経った? それと僕が寝ている間の出来事についても教えてくれないか?」
「教えても良いが、その前にグラトンに一言だけでも声をかけておくのじゃ。何なら、あやつの代わりにそちが操縦してやるのもお勧めじゃぞ?」
リンは毛布から飛び降りその足で帳の隙間をかいくぐっていった。
「……それもそうだな。ずっと神経をとがらせて馬車を走らせてくれていたことだし、それぐらいやってあげるべきだよな。それにいきなりぶっ倒れられても困るしな」
毛布を折り畳み端に置くと、彼らを起こさないように揺れる荷馬車内をゆっくりと移動した。
抜き足差し足忍び足――。
帳に指をかけて自分が通れる程度に開けたのち、グラトンに一言声をかけて先頭に移動した。
「グラトンさん隣いいですか?」
「構いませんが、メグル様もう体調はよろしいのですか?」
「ええおかげさまで絶好調です。では、隣失礼します」
「うむ、良いぞ。隣に座ることを許す」
「……なんでリンが偉そうなんだよ」
「直に座ると冷えますんで、良ければこちらの座布団をご使用ください」
彼は背もたれとして使っていた座布団を僕に手渡してくれた。
グラトンの膝の上で何やら勝ち誇るリンを横目に、ほのかに温かい座布団を敷いて腰を下ろした。
外は完全に暗闇に包まれてていた。月明りとランプによる明かりを頼りにグラトンは馬車を走らせていた。数メートル先も薄っすらとしか見えない環境にもかかわらず、彼は速度を落とすことなく操縦していた。
あの巧みな技術もまた長年の経験によるものだろう。
少しでも休息をとってもらおうと思っていたけど、僕には彼の代わりはできそうにない。
寝落ちしないように彼の話し相手にでもなっておくとしよう。というか、それ以外いまのところ僕ができそうはことはない。
徒歩で移動している時は夜間でもさほど気にならなかったが、風を切る馬車に乗っていると少々肌寒く感じる。薄手の布地が一枚間にあるだけで、これほど荷台の中と外では体感温度が違うものなのか。
座布団のおかげで多少は冷え防止にはなっているけど、足元を通過する風が思いのほか涼しい……どころか結構かなり冷たい。
「リン様すいません、少しどいていただけますか? メグル様良ければこれもお使いください。少しはマシになるかと思います」
リンは「ふむ、良いぞ」と快諾し飛び退いた。
グラトンはリンの毛がついたブランケットを手に取り差し出した。
受け取ったブランケットを広げた時にふわりとリンの匂いがした。膝にかけると足元からくる冷気は完全にシャットアウトされた。これなら何時間でも座っていられそうだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ、この時間帯は冷えますので体調が良くなったとはいえお気を付けください」
「あの……グラトンさんは大丈夫ですか?」
「案じていただきありがとうございます。見ての通り体温が高いので、無くても私は大丈夫です。なので、私のことは気にせずお使いください」
グラトンは片手で馬を操りながらもう片手で自分の腹部をさすり微笑んだ。
確かに彼自身がいうようにふくよかな体型をしているが、寒いことには変わらないはずだ。じゃなかったら、ブランケットなんて使うはずがない。
僕が眉をひそめて彼の優しい言動に戸惑っていると、リンが「では、我がそちを温めてやろうかの」と言って、断りもなくグラトンの膝の上にまた飛び移った。
彼は香箱座りで占拠するリンに微笑しつつ感謝の言葉を述べていた。
その様子を見た僕は数か月ぶりにあの感情と言葉を思い出してしまった。
猫を取られた。
そんなモヤっとした気持ちを抱えながら僕は彼らが口にする言葉に耳を傾けた。
夜が更けて日が昇るまで――。
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