エセ陰陽師と猫又の不自由気ままな散歩旅~飼い猫から魂を分けてもらったので、二度目の人生はウチの子と異世界を謳歌してみせる~

虎柄トラ

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第二章 ティタニアル大陸編 クラーク共和国

第55話  メグル良かったの、狩衣の実験ができて

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 身体に響く騒音と地震かと錯覚するような激しい揺れで僕は目を覚ました。

 雨避けように張られたクリーム色の幌が視界に入った。背中に伝わる振動と風を切る音といい、ここは荷馬車のようだ。

 どうやら僕は生きているらしい。
 感覚的にはあの草原で目を覚ました時のあれに似ている。

 隣にふと目を向けると、ゼルが毛布に包まって眠っていた。前に比べて随分と表情が穏やかになっていた。その毛布に覆いかぶさるようにキャナルもまたスヤスヤと寝息を立てていた。彼の症状が落ち着いたことで、看病していた彼女もまた緊張の糸が切れたのだろう。
 彼らを囲むように救助した? 三人もまた力尽きたように座り込んだまま眠りについていた。

 胸元には我が物顔で座しているお猫様の姿があった。毛布越しにリンの体温や鼓動を感じる。生きて戻ってくれたという実感が湧いた。

 あれから何時間経過したのかは分からないが、継続してグラトンが手綱を握ってくれているようだ。

 グラトンが商品の大半を捨て去ったことで、僕たちはこうやって足を伸ばすことができている。
 逃げるためとはいえ商人の命である大事な商品を躊躇いもなく捨てる潔さ、護衛のために私財を投じる漢気。

 僕のことも知っていたようだし、彼とは仲良くしておいて損はなさそうだ。情報通で信頼のできる行商人は確保しておくべきだ。世界一周をするためにも今後絶対に必要になる。

 仰向けのまま手足を動かして神経毒の後遺症が残っていないか、確認してみるが思い通りスムーズに動く。目もぼやけていないし、耳も問題なく聞こえる。頭もスッキリとしているし、呼吸も全然息苦しくない。

 猛毒に侵されていたはずなのに、信じられないぐらい体調がいい。

 リンか、彼らの誰かが解毒薬アンチドートを使ってくれたのだろう。万能だとは聞いていたけど、マンティコアの毒にまで効果があるとは知らなかった。

 予定通り首都まで馬車にのせてもらえてるっぽいし、なんとかなって本当に良かった。

「……もう声をかけても良いかの?」

 リンは首を伸ばし僕の顔を覗き込みながらそう問うた。

「うん、もう大丈夫」

「おはようメグル。身体の方は特に支障はないかの?」

「見ての通り絶好調。それどころか体調がよすぎて気持ち悪いぐらいだ」

「じゃろう~な。僥倖、僥倖。メグル良かったの、狩衣の実験ができて」

 前段はともかく後段に不吉な文言が聞こえたような……。

「……かりぎぬ? 何を言っている? 完治したのって解毒薬のおかげじゃ?」

「あの薬にそこまでの効能はないぞ。我が狩衣に施した対呪のおかげに決まっておろう。完全に防ぐことができなかったことだけは悔やまれるがの。でもまあ、今回で更なる改良が行えたので良しとするかの~」

 さらにリンはまだ理解がおいついていない僕を無視し話を続けた。

「ついでに教えておこうかの。そちは気づいておらんかったようじゃが、そこのゼルの病はこの森で蚊に刺されたことで、発症しておるんじゃぞ。そちがその病、怠体病だいたいびょうが発症せんかったのも、狩衣を着ていたからじゃぞ」

「えっ、ウソだろ……?」

「そんなしょうもない嘘をそちにつくわけなかろうが……」

「は、はは……それもそうか。って、僕はいいとして。彼は大丈夫なのか?」

「あ~ゼルなら安静にしておれば回復するじゃろうて、彼が獣人族であることが功を奏したの。じゃなければ、灼熱薬ヒーティアルポーションに耐えられなかったじゃろうな~」

 怠体病とはフォルス大森林にのみ生息する蚊を媒体に感染し発症する病。名の由来は四肢に力が入らなくなることから。
 この病に感染すると、三日ほどかけて徐々に体温が低下し身体も鉛のように重く怠くなる。最終段階に入ると、四肢どころか指の一本も動かせなくなり、体温も継続して低下し続け食事もできずに死に至る。

 名前以上に恐ろしい病だが、決して治療できない不治の病というわけでもなく特効薬が存在している。
 唯一治せる薬こそが灼熱薬。こちらもまた恐ろし気な名前をしているが、実際に体調が芳しくない状態で服用すれば、治療する前に体力がもたず命を落とす。そのためこの薬を使用する場合には、回復薬を併用することを推奨されている。
 この薬を服用すると、血液が沸騰したかのように体温が極限まで上昇する。その圧倒的な高温によって病魔を死滅させる荒治療。
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