182 / 186
49-3 軟弱脆弱
しおりを挟む
パチリと目が覚めた。
今朝の目覚めも悪くない。
そんな晴れやかな気分からの第一声が「……う~ん絶不調♪」である。筋肉痛とはまた違う、痛みよりも気だるい感じだ。だからといってこのままベッドの住人になるわけにもいかない。
現時刻を知るためにベッド横のサイドテーブルに目を向ける。
目覚まし時計は朝5時を指し示そうとしているところだった。
「アラームが鳴るまで残り10秒弱か。がんばれぃ~俺」
鉛のように重たい腕を気合で動かし時計の上部ボタンを押す。押したというよりも叩いたといったほうが近いのかもしれない。というか、重力にひれ伏したといったほうが正解か。
仕事を終えた左腕を掛け布団の中に戻そうにも力が入らない。
一旦はこのままでいいや、どうせすぐにベッドから出るんだし……。
こうなった原因も分かっている。夏休みに突入したこともあって、ここ数日朝から晩まで武具を振り回していたからだ。ただ首すらも動かすのが億劫だと思えるほど疲労困憊になるとは予想だにしなかった。勇者時代でもそうそう経験したことがない。今の俺は自分が思っている以上に全能力が低下しているということか。この程度の疲労など当日、遅くても翌日のうちに完治していたというのに。
「若返ったはずなのにな……」
今日は休めと身体が訴えかけてきているようだ。その意見には大賛成なのだが、如何せん脳がそれを拒んでくる。身体は疲れているのに脳が冴えて眠れない現象。寝起きでその感想を抱くのはどうかと思うけど、マァジでダルいったらありゃしない。
そこにつけ入るように『夏休みだし一日ぐらいこういう日があってもいいんじゃないか』という甘美な誘惑が這い寄ってくる。が、聳え立つ塔という新たな脅威が差し迫っている現状で、そんな余裕など1ミリもありはしない。期限は夏休みいっぱいの約一か月。あの駄女神が、それほどの猶予を事前に与えたということを鑑みても、地下迷宮とは段違いの難易度に設定しているはずだ。準備不足で攻略失敗、最悪の場合みんなを失うことにもなりかねない。不安を消すためには、不安が消え去るまで準備するしかない。
ただそれはと別に思うこともある。蓬地先生もとい女神の話を聞く限り姉妹関係は良好。そんな姉が妹を死地に追い込むようなことをするだろうか。聳え立つ塔のことだってそうだ。言伝しなければ、事前準備することもなかった。俺としても駄女神が根っからの悪だとは終えない。
「だからこそ、休んでなど、いられるか……」
どこまで真実だったのか分からない手前、万全を期しておいて損はない。どうせやるのなら全身全霊をもってプレイする。それこそがゲーマー魂というものだ。
さらにいえば奥の手がないわけでもない。どうしても身体の自由が利かなくなった時は、莉緒の手料理を摂取すればいい。数時間、夢の世界に強制転移するだけで完全回復できるのであれば、その代償など安いものだ。一つ難点があるとすれば、目の前で起こった現実を受け入れられない莉緒の姿を見ることだろうか。
そうこうしていると隣でモゾモゾと動く気配を感じた。アラームを止める際に強く叩きすぎたようだ。暫くすると「う~ん」という艶めかしい声とともに、掛け布団からピョンと頭部が飛び出してきた。
「……おはようございます。兄さん」
「ああおはようミーナ。悪い起こしてしまったか?」
「わたくしもそろそろ起きようと思っていました」
菫色の瞳をこちらに向けながらニコリと微笑む。
いつ如何なる時も我が妹は可愛いな。本当に見ているだけでモチベーションが上がる。
(今日はまだ莉緒の手を借りなくてもいけそうだ)
今後の方針を決定したあの日を境にミーナは一人で起きるようになった。今までの彼女なら起きていても、俺が目覚めのキスをしない限り絶対に目を開けることはなかった。頑なに狸寝入りを決め込んでいたはずだ。どういう心境の変化かは分からないけど、とにかく起きてくれるようになったのは助かる。
「兄さん……朝の挨拶……」
「はいはい、分かった分かったから! 首に手を回すのやめなさい!?」
ただ起床しようがしまいが、恒例行事を執り行うのは今も昔も変わっていない。
えっ? ミーナがベッドに潜り込むんだり、目覚めのキスをすることは問題ないのかって? はっ何を言っているんだ。そんなの決まってんだろ。なんの問題もない、だってあれはただのスキンシップ。仲睦まじい兄妹のスキンシップに他ならない。ミーナから想いを打ち明けられても、兄妹としての絆が切れることはない。
今朝の目覚めも悪くない。
そんな晴れやかな気分からの第一声が「……う~ん絶不調♪」である。筋肉痛とはまた違う、痛みよりも気だるい感じだ。だからといってこのままベッドの住人になるわけにもいかない。
現時刻を知るためにベッド横のサイドテーブルに目を向ける。
目覚まし時計は朝5時を指し示そうとしているところだった。
「アラームが鳴るまで残り10秒弱か。がんばれぃ~俺」
鉛のように重たい腕を気合で動かし時計の上部ボタンを押す。押したというよりも叩いたといったほうが近いのかもしれない。というか、重力にひれ伏したといったほうが正解か。
仕事を終えた左腕を掛け布団の中に戻そうにも力が入らない。
一旦はこのままでいいや、どうせすぐにベッドから出るんだし……。
こうなった原因も分かっている。夏休みに突入したこともあって、ここ数日朝から晩まで武具を振り回していたからだ。ただ首すらも動かすのが億劫だと思えるほど疲労困憊になるとは予想だにしなかった。勇者時代でもそうそう経験したことがない。今の俺は自分が思っている以上に全能力が低下しているということか。この程度の疲労など当日、遅くても翌日のうちに完治していたというのに。
「若返ったはずなのにな……」
今日は休めと身体が訴えかけてきているようだ。その意見には大賛成なのだが、如何せん脳がそれを拒んでくる。身体は疲れているのに脳が冴えて眠れない現象。寝起きでその感想を抱くのはどうかと思うけど、マァジでダルいったらありゃしない。
そこにつけ入るように『夏休みだし一日ぐらいこういう日があってもいいんじゃないか』という甘美な誘惑が這い寄ってくる。が、聳え立つ塔という新たな脅威が差し迫っている現状で、そんな余裕など1ミリもありはしない。期限は夏休みいっぱいの約一か月。あの駄女神が、それほどの猶予を事前に与えたということを鑑みても、地下迷宮とは段違いの難易度に設定しているはずだ。準備不足で攻略失敗、最悪の場合みんなを失うことにもなりかねない。不安を消すためには、不安が消え去るまで準備するしかない。
ただそれはと別に思うこともある。蓬地先生もとい女神の話を聞く限り姉妹関係は良好。そんな姉が妹を死地に追い込むようなことをするだろうか。聳え立つ塔のことだってそうだ。言伝しなければ、事前準備することもなかった。俺としても駄女神が根っからの悪だとは終えない。
「だからこそ、休んでなど、いられるか……」
どこまで真実だったのか分からない手前、万全を期しておいて損はない。どうせやるのなら全身全霊をもってプレイする。それこそがゲーマー魂というものだ。
さらにいえば奥の手がないわけでもない。どうしても身体の自由が利かなくなった時は、莉緒の手料理を摂取すればいい。数時間、夢の世界に強制転移するだけで完全回復できるのであれば、その代償など安いものだ。一つ難点があるとすれば、目の前で起こった現実を受け入れられない莉緒の姿を見ることだろうか。
そうこうしていると隣でモゾモゾと動く気配を感じた。アラームを止める際に強く叩きすぎたようだ。暫くすると「う~ん」という艶めかしい声とともに、掛け布団からピョンと頭部が飛び出してきた。
「……おはようございます。兄さん」
「ああおはようミーナ。悪い起こしてしまったか?」
「わたくしもそろそろ起きようと思っていました」
菫色の瞳をこちらに向けながらニコリと微笑む。
いつ如何なる時も我が妹は可愛いな。本当に見ているだけでモチベーションが上がる。
(今日はまだ莉緒の手を借りなくてもいけそうだ)
今後の方針を決定したあの日を境にミーナは一人で起きるようになった。今までの彼女なら起きていても、俺が目覚めのキスをしない限り絶対に目を開けることはなかった。頑なに狸寝入りを決め込んでいたはずだ。どういう心境の変化かは分からないけど、とにかく起きてくれるようになったのは助かる。
「兄さん……朝の挨拶……」
「はいはい、分かった分かったから! 首に手を回すのやめなさい!?」
ただ起床しようがしまいが、恒例行事を執り行うのは今も昔も変わっていない。
えっ? ミーナがベッドに潜り込むんだり、目覚めのキスをすることは問題ないのかって? はっ何を言っているんだ。そんなの決まってんだろ。なんの問題もない、だってあれはただのスキンシップ。仲睦まじい兄妹のスキンシップに他ならない。ミーナから想いを打ち明けられても、兄妹としての絆が切れることはない。
10
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4がスタートしました! 既に完成しており、全8話でお送りします(2026.2.15)
※1日1話ずつ公開していく予定です。
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~
仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。
ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。
ガチャ好きすぎて書いてしまった。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~
仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。
付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜
咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。
そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。
「アランくん。今日も来てくれたのね」
そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。
そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。
「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」
と相談すれば、
「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。
そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。
興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。
ようやく俺は気づいたんだ。
リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる