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第10話 次女オクタヴィアと三女ヴィヴィアン
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「カサンドラ――それ止めろって、わたし何度も言ってるよな? その病的なやつ自制しろって? しかもこの時期に、日なたでハグとかバカなのか? アリシャを見てみろ、暑さで参ってるだろ?」
「それは無理だって、オク姉。うちらの中で最もあの子を溺愛しているのは、カサ姉じゃん。逆に塩対応してたら……うち、なにかの病気かとマジ疑うし?」
「なるほど――ヴィヴィアンなかなか面白いことを言うわね。確かにその可能性を疑うかもしれないわね。それはそうと――久しぶりね、アリシャ元気だった?」
「おっひさ~、アリシャ♪ 再会を祝して~、ハイタ~ッチ♪」
カサンドラ姉さんに容赦ない毒舌を放つ彼女は魔女姉妹の次女オクタヴィアである。
魔女特有の黒髪に灰色の瞳、透き通った白肌の儚げな女性。服装の好みは私とよく似ていて、足元が隠れるような裾が長い服を着ることが多い。今日の装いはお揃いの三角帽子に、瞳の色と同じ刺繍が入ったワンピースとローファー。
彼女は天才科学者であり最高峰の医師。あの気付け薬や消臭剤を創り出した張本人でもある。またその薬などを使って姉さんは、医師から見捨てられた患者を治療している。名医が手の施しようがないと匙を投げるような患者でさえも完治させる。ただ姉さんにも弱点は存在していて、彼女は血が苦手なため患部はおろか包帯を巻くことにすらままならない。
あと太陽光も大の苦手で外に出るのを拒み続けたことで、夜に活動して昼は眠るという完全な夜行性になってしまった。今日のように日中から外出しているのはまさに奇跡といってもいい。
その神がかった技術と奇跡の薬をもって治療する姿と、宵闇から活動し始めることから、患者からは最後の頼みの綱、治癒の女神として崇敬されている。
それが彼女が冥海の魔女と呼ばれている由縁。
私から見れば、ちょっとぐうたらな可愛くて優しい姉さんにしか見えないんだけど……。
戸惑う私にハイタッチを求めてきた彼女は魔女姉妹の三女ヴィヴィアンである。
魔女特有の黒髪に紺色の瞳、艶やかな柔肌の魅力的な女性。日焼けするのを極端に嫌がる彼女は、頭からつま先まで全身が隠れる服を好んで着ている。お揃いの三角帽子に、瞳の色と同じ刺繍が入ったパーカーにロングパンツとスニーカー。
彼女は天才作曲家であり魅了の歌姫。姉さんがライブを開催しようものなら、そのチケットの争奪戦は一国の情勢を傾けるとまで噂されるほどだ。彼女のファンは大陸全土にいるらしく、私たちが暮らしている王国どころか、他国にまでその人気は広がっている。
私は姉妹のためチケットは無償で貰えるので、開催のたびに本当かと思ってしまうけど、いざライブ会場に訪れると、その人気っぷりに毎回腰を抜かしてしまう。
彼女がひとたび歌声を披露しようものなら、大地は震え海は波を起こして賞賛し、人々は熱狂のもと意識は一つになる。
それが彼女が滄海の魔女と呼ばれている由縁。
私から見れば、ちょっと対応に困る気分屋で陽気な姉さんにしか見えないんだけど……。
私は両手を上げて近づいてくるヴィヴィアン姉さんに合わせて両手を振り上げた。
パーンという破裂音と心地いい衝撃が手に伝わった。六年ぶりに触れた姉さんの手は、相も変わらず絹のようになめらかでスベスベしていた。
私が自分の手と姉さんの手を見比べていたのを彼女に感づかれてしまったようで、ヴィヴィアン姉さんはにやりと笑みを浮かべて、私の手をぎゅっと握りしめてきた。
「うちはそのアリシャの働き屋さんな手が羨ましいし愛らしくて大好きよ♪」
「……ありがとうございます、ヴィヴィアン姉さん」
私たちの仲睦まじく会話を遮るように小柄な影が駆け寄り、重なった手の上にさらに手を重ねてきた。
「なにこっそり好感度を上げようとしている――ヴィヴィアン。わたしもあなたと同じことを思っていますよ、ただ口にしていないだけでね」
「あは……あっはは。なんですか、それ。ふふ……オクタヴィア姉さんもありがとうございます」
三人で談笑をしている横で、カサンドラ姉さんは羨望のまなざしで、ひとりコーヒーをすすっていた。
オクタヴィア姉さんの威圧によって、カサンドラ姉さんは動けず、ただただその光景を眺めることしかできなかったようだ。その構図はまさに、あのことわざ……蛇に睨まれた蛙そのものだった。
「それは無理だって、オク姉。うちらの中で最もあの子を溺愛しているのは、カサ姉じゃん。逆に塩対応してたら……うち、なにかの病気かとマジ疑うし?」
「なるほど――ヴィヴィアンなかなか面白いことを言うわね。確かにその可能性を疑うかもしれないわね。それはそうと――久しぶりね、アリシャ元気だった?」
「おっひさ~、アリシャ♪ 再会を祝して~、ハイタ~ッチ♪」
カサンドラ姉さんに容赦ない毒舌を放つ彼女は魔女姉妹の次女オクタヴィアである。
魔女特有の黒髪に灰色の瞳、透き通った白肌の儚げな女性。服装の好みは私とよく似ていて、足元が隠れるような裾が長い服を着ることが多い。今日の装いはお揃いの三角帽子に、瞳の色と同じ刺繍が入ったワンピースとローファー。
彼女は天才科学者であり最高峰の医師。あの気付け薬や消臭剤を創り出した張本人でもある。またその薬などを使って姉さんは、医師から見捨てられた患者を治療している。名医が手の施しようがないと匙を投げるような患者でさえも完治させる。ただ姉さんにも弱点は存在していて、彼女は血が苦手なため患部はおろか包帯を巻くことにすらままならない。
あと太陽光も大の苦手で外に出るのを拒み続けたことで、夜に活動して昼は眠るという完全な夜行性になってしまった。今日のように日中から外出しているのはまさに奇跡といってもいい。
その神がかった技術と奇跡の薬をもって治療する姿と、宵闇から活動し始めることから、患者からは最後の頼みの綱、治癒の女神として崇敬されている。
それが彼女が冥海の魔女と呼ばれている由縁。
私から見れば、ちょっとぐうたらな可愛くて優しい姉さんにしか見えないんだけど……。
戸惑う私にハイタッチを求めてきた彼女は魔女姉妹の三女ヴィヴィアンである。
魔女特有の黒髪に紺色の瞳、艶やかな柔肌の魅力的な女性。日焼けするのを極端に嫌がる彼女は、頭からつま先まで全身が隠れる服を好んで着ている。お揃いの三角帽子に、瞳の色と同じ刺繍が入ったパーカーにロングパンツとスニーカー。
彼女は天才作曲家であり魅了の歌姫。姉さんがライブを開催しようものなら、そのチケットの争奪戦は一国の情勢を傾けるとまで噂されるほどだ。彼女のファンは大陸全土にいるらしく、私たちが暮らしている王国どころか、他国にまでその人気は広がっている。
私は姉妹のためチケットは無償で貰えるので、開催のたびに本当かと思ってしまうけど、いざライブ会場に訪れると、その人気っぷりに毎回腰を抜かしてしまう。
彼女がひとたび歌声を披露しようものなら、大地は震え海は波を起こして賞賛し、人々は熱狂のもと意識は一つになる。
それが彼女が滄海の魔女と呼ばれている由縁。
私から見れば、ちょっと対応に困る気分屋で陽気な姉さんにしか見えないんだけど……。
私は両手を上げて近づいてくるヴィヴィアン姉さんに合わせて両手を振り上げた。
パーンという破裂音と心地いい衝撃が手に伝わった。六年ぶりに触れた姉さんの手は、相も変わらず絹のようになめらかでスベスベしていた。
私が自分の手と姉さんの手を見比べていたのを彼女に感づかれてしまったようで、ヴィヴィアン姉さんはにやりと笑みを浮かべて、私の手をぎゅっと握りしめてきた。
「うちはそのアリシャの働き屋さんな手が羨ましいし愛らしくて大好きよ♪」
「……ありがとうございます、ヴィヴィアン姉さん」
私たちの仲睦まじく会話を遮るように小柄な影が駆け寄り、重なった手の上にさらに手を重ねてきた。
「なにこっそり好感度を上げようとしている――ヴィヴィアン。わたしもあなたと同じことを思っていますよ、ただ口にしていないだけでね」
「あは……あっはは。なんですか、それ。ふふ……オクタヴィア姉さんもありがとうございます」
三人で談笑をしている横で、カサンドラ姉さんは羨望のまなざしで、ひとりコーヒーをすすっていた。
オクタヴィア姉さんの威圧によって、カサンドラ姉さんは動けず、ただただその光景を眺めることしかできなかったようだ。その構図はまさに、あのことわざ……蛇に睨まれた蛙そのものだった。
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