豪華客船での結婚式一時間前、婚約者が金目当てだと知った令嬢は

常野夏子

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白きドレスはまだ純白5

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  式場は〈オーシャン・グレイス〉の最上甲板に設けられていた。
 四方を海に囲まれ、紺碧の波が遠くまで伸び、白い帆のヨットが点のように浮かんでいる。
 アーチには真っ白な百合と胡蝶蘭が飾られ、潮風が花弁を揺らすたび、甘やかな香りが広がった。

 ゲストたちは上質なリネンの椅子に腰掛け、貴婦人たちの帽子の羽飾りが風に踊る。楽団が弦を鳴らし、チェロの低音がゆったりと空気を包んでいた。

 純白のドレスに身を包んだセレーナが、ゆっくりとバージンロードを歩く。
 長いヴェールの下で、唇には柔らかな笑み――だが、その奥に何を秘めているかを知る者は、会場にはほとんどいない。
 彼女は一歩ごとに花びらを踏み、陽光を背に受けて進む。

 ベリッシマは、タキシード姿で祭壇の前に立っていた。
 口元には余裕の笑み。だが、視線の奥にはまだ先ほどの苛立ちの残滓がちらつく。それでも、周囲の目を意識してか、誰よりも堂々とした新郎の顔を作っていた。

 セレーナが隣に並ぶと、神父が穏やかな声で祝詞を唱え始める。
 誓いの言葉、指輪の交換、拍手――すべてが順調に進み、会場には幸福の空気が満ちていた。
 ゲスト同士が微笑み合い、カメラマンがシャッターを切る音が重なる。

 やがて、司会役のクルーズマスターが壇上に立った。
「さて皆様、本日はお二人の晴れの日を、より鮮やかに思い出に残すため……こちらをご用意いたしました」

 会場の視線が一斉に移る。
 祭壇の横、純白のスクリーンが立ち上がり、最新型の映写機が静かな機械音を立てた。
「お二人の幸せな軌跡を、映像で振り返っていただきましょう」

 ゲストたちから期待の声が上がる。
 「見たいわ」「きっとロマンチックよ」――香水の甘い香りと、シャンパンの泡のようなざわめきが広がった。

 ベリッシマは軽く顎を上げ、片手でネクタイを整えた。
 だが、その指先にわずかな硬直が走る。
 映像、と聞いた瞬間、心の奥に得体の知れぬ不安が灯ったのだ。
 ……まさかな。いや、あれは誰も……

 セレーナは静かに隣に立ち、スクリーンを見つめていた。
 横顔は変わらず優美だが、視線の奥には冷たい光がわずかに閃く。

 照明が落ち、会場が薄闇に包まれる。
 機械音が低く唸り、スクリーンに最初の光が走る――

 ベリッシマの呼吸が、一瞬、止まった。
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