豪華客船での結婚式一時間前、婚約者が金目当てだと知った令嬢は

常野夏子

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白きドレスはまだ純白6

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  スクリーンが淡く光を放ち、映像が流れ始めた。
 最初に映し出されたのは、ベリッシマの笑顔だった。
 社交パーティーでの華やかな姿、慈善活動で子どもと握手する場面、港で花束を手にセレーナを迎える姿――どれもが「理想の花婿」として完璧に演出された瞬間だった。

 ……よし、これだ。
 ベリッシマは胸の奥で安堵の息をつく。
 これは自分が事前に提出した映像素材だ。セレーナ側も余計な編集はしていないらしい――そう思わせる、見慣れた映像の連なりだった。

 会場の空気は温かい。
 客席からは「素晴らしい青年だ」「やはりお似合いの二人だ」といった声が漏れ聞こえる。
 ベリッシマは微かに口角を上げ、視線をスクリーンから外してゲストたちの反応を観察した。
 これなら何事もなく終わる。あの小娘(エルヴィナ)の件も、俺と彼女だけの秘密のままだ…

 だが――次の瞬間。
 映像が一瞬、黒く切り替わった。
 そして画面が再び明るくなると、そこに映っていたのは全く別の光景だった。

 甲板の柱陰、赤いドレスの女――エルヴィナが、男の腕に抱かれている。
 男は、ベリッシマがよく知る顔――エムエスだ。
 二人は至近距離で囁き合い、笑みを交わし、唇が近づいて――

「……っ!」
 ベリッシマの心臓が跳ねる。
 それはつい数十分前の出来事。誰にも見られていないはずの場面だ。

 映像は容赦なく続く。
 唇を重ねた二人に、怒声とともに駆け寄る自分――ベリッシマが映っている。
 肩を掴み、エルヴィナを引き剥がそうとする自分の顔は、激情に染まり、もはや先ほどの理想的な花婿の面影はない。

 風が吹き抜け、衣服が乱れ、口元が歪む――
 その表情は怒り、嫉妬、屈辱が混ざり合った生々しいもの。
 しかも、映像は驚くほど鮮明で、表情の細かな震えや、指先の動きまで克明に映し出している。

 ベリッシマは自分のこめかみから血の気が引くのを感じた。
 どうして――誰が――こんな映像を……。

 視界の端。
 セレーナが、横顔のまま、ゆっくりと――にやりと笑った。
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