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第3章  進窟

第11話  誤解

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 エレオノーラはノアの手を引き、ギルドスタッフのみ入れるバックヤードに案内する。

 緊急時に使用される倉庫兼作業場だ。

 ノアを案内した後は誤って誰かが入ってこないように扉にカギをかける。

「ノアさん。この広さなら大丈夫でしょうか」

 そこは50畳ほどの天井の高いスペースだ。

「はい。このくらいあれば大丈夫です」

 そう言うと彼は奥から順に種類ごとにドロップアイテムを置いて行く。

 どうみても通常の5階層攻略の数倍分のドロップアイテムが並べられてゆく。

(予感はしていたけどやっぱり。――階層殲滅戦でも実施したのかしら?)

「これで以上です」

「――ブルーカのドロップがないようですが?」

「あぁ。ちょっと色々料理してから買取りにするか考えます」

「どの程度をお持ちかお伺いしても宜しいですか?」

「えっ? まぁ。50羽分でしょうか」

 息を呑むエレオノーラはそれを表に出さないように注意した。

(ブルーカのドロップ率はおよそ20%――250羽を殲滅したってことね)

(戦い方など聞きたいけれど。――それを嫌がる冒険者は多い。ここで不興を買っては今後に差し障る。今は我慢ね)

「承知しました。査定にはお時間がかかります。ドロップアイテムの支払いは明日でも良いでしょうか」

「はい。明日でかまいません」

「ノアさん。明日のご予定は如何なさいますか?」

「そうですね。……5階が途中なので6階までは明日のうちに行こうと思います。それ以上進むかは分かりません。拠点を整える時間も取りたいですしね」

「承知しました。それでは明日までに新たな階層の地図とモンスターの要覧を準備しておきます。明日お待ちしております」

 エレオノーラはノアをバックヤードからギルドのホールに案内し挨拶をして別れた。

 ノアのドロップアイテムを査定官に依頼し、ギルドマスターに報告を上げに部屋を訪ねる。


§


「小僧の件で報告? 何だ」

「はい。ノアさんは初回のダンジョンへの入場で5階半ばまで攻略し、恐らく各階層の殲滅戦を実施したと思われます」

「ほうっ」

 ギルドマスターは片頬を吊り上げるように笑うと嬉しそうに声を吐いた。

「そうだろうと思っていたが、あいつの弟子はC級の力は既にあるっと事だな」

「はい。さらに5階層でモルモー20体に遭遇し撃退している模様です。おそらく殲滅戦の結果ダンジョンの防衛本能を刺激しモンスターの過剰放出を促したのだと思われます。ノアさんの5階半ばまでの攻略時間はおよそ5時間です」

「いいじゃねぇか! B級相当の力量ってか! もういっそB級に上げちまうか!」

「本人が早急なランク上昇を望んでいません。調整しながら上昇させるべきと判断します」

「そうか? だがE級の昇格ポイントなんてここのダンジョンに潜っていればあっという間にたまっちまうぞ」

「それも含めて調整の許可をお願いします」

「分かった。エレンに任せる。変わり者の弟子も変わり者って事だな。へそを曲げないように上手く扱ってくれ。それより、どんな戦い方をするんだ?」

「いえまだ聞いていません。手の内を探られるのを嫌がる方は多いですから、ただ、槍を得物としているということは伺いました」

「槍? 剣じゃないのか。剣士が槍士を育てるなんてあまり聞かないが……天才の考えることは凡人には理解できん。……あの小僧がどう戦うのか一度見てみたいもんだ」

(昇格試験でもでっち上げて誰かと戦わせるか? ギルド内なら俺も見れるしな)

「ギルマス。変な策を弄して逃げられても知りませんよ」

 ギルドマスターは笑ってごまかす。

「念のため5階層までの確認巡回のクエストを出しておいてくれ。モルモー大量発生なんてシャレにならないからな」

 エレオノーラは指示を承知してギルドマスターの部屋を後にした。

(あいつも今になって面白れぇもん用意してくれたもんだ。20階層で停滞しているダンジョン攻略に風穴を開けてくれるかもしれないな)

 ノルトライブのダンジョンは21階層から難易度が格段にあがる。B級なら比較的安全に狩れる攻略法が確立された20階層での稼ぎで十分豊かに暮らして行ける。

 命掛けで先に進めとは言わないが、冒険者の先輩として気の抜けた現状に少し物足りなさを感じるのも事実だ。

 ギルドマスターと同時期を過ごし、40階層を軽々と超えて行った天才の背中。隣に並ぶことすら出来ずいつもずっと後ろから見ていた。

 あの出鱈目に強かった男の弟子に期待しない訳が無い。

 後ろから追いついて今の奴らのケツを蹴飛ばしてくれ。

 そのまま追い抜いて先頭で旗を振ってもらいたいもんだ。

 昔の俺たちのように目指す目標背中があれば、人は更に上を目指せるのだから。


§


(やばい! やばい! やばいっ!)

 男が起きると連れがいなくなっていた。

 エレオノーラが喜ぶクエストだとようやく口説き落として、街から連れ出して頭を冷やす時間を取ろうとした。

 男は間抜けにも連れにクスリで眠らされたようだ。

(ノルトライブに戻ったな。あの兄ちゃんにちょっかい出さなければいいが……)

 連れのシュバインはどんどん人相すら悪くなっている。

 何故こんなに支離滅裂な思考で話すようになったのだろう。

 頭の病気か悪い霊にでも憑りつかれたかのようだ。

 2人の付き合いは子供の頃からだ。同じ街で育ち男の職業が探索者で、シュバインの職業が戦士だった。

 冒険者には成るべくしてなった。男がモンスターを索敵し、罠を解除する。
 
 シュバインが戦闘では前衛を担当して、男が攪乱と投てきでモンスターを倒す。

 お互い死にそうな目にもあったが、補い合って命をつなげて来た。

 成人から8年でB級にも上がれたのだから男達には間違いなく才能があった。だが、これから冒険者を続けてもA級に成れるとは思っていない。

 実際にノルトライブにA級は1人もいない。

 A級と呼ばれる英雄は、更に難易度が高くスタンピードが起こりやすい。最前線の危険なダンジョンで力を振るっている。 

 頭のネジが外れたか、力のタガが壊れたような奴らだ。成るのではなく選ばれた人種がA級だ。

(その切符をもった兄ちゃんに喧嘩を売るなんて、俺の相方はどうなっちまったんだ。気は短いが男気のあるいい奴だったのに。まるで別人みたいだ)

 だが、男とシュバインの積み重ねた年月が見捨てることを許さない。

(ぶん殴ってでも止めないと連れが絶界ぜっかいの弟子にやられちまう)

 男は騎獣を急がせる。何も起こらないことを無駄と承知で神に祈りながら。
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