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第3章  進窟

第21話  頭痛

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 ベッドでまどろむ少女を目覚まし時計が起こすように、いつも通りの規則正しい時間にアラームが鳴り響く。

 要注意人物としてマークした男の子がダンジョンに入った音だ。

「ヌクレオ用意をお願い」

 ベッド前方が明かりに照らされて机と映像が現れる。

 少女がサァルヴモードと呼んだ監視体制だ。

 少女はベッドを降りると椅子に腰かけて映像を見つめる。

 男の子がダンジョンに来るようになり6日。

 1日来なかった日を除くと、今日で3日連続でダンジョンに来ていた。

 1日に1階層づつ下りるペースを守り、昨日9階層入口の転移門に触りダンジョン外へと出ていた。

 その3日間は侵略アラームが鳴りっぱなしの脳が痒くなるような日々だった。

 悠久をたゆたうように過ごした少女に、こんなにも明確な1日を意識させられた事はほとんどない。

 当初は寝る間も惜しんで対策を立てたが、徐々にダンジョンが安定した。

 その後の数少ない事案は数百年前に少女が逢いに行った冒険者と数十年前50階層まで攻略した冒険者の2件だけとなる。

 そして3件目の男の子は問題が大きかった。

(飽きて他のダンジョンに行ってくれないかな?)

 6階~8階までの傍若無人な攻略はなりを潜め。

 他の冒険者が少数はいる9階層からは普通に攻略をしだした。
 
 6~8階層の映像を思い出して頭が痛くなる。

 妖精がスキップしながら男の子を先導して、ダンジョン地面へ侵略攻撃を仕掛け続ける。

 なり止まない侵略アラーム。

 妖精の前方で侵略攻撃により誰もいないのに暴発するトラップ。

 妖精はスキップで進みすぎると丸い円を描きながら男の子が来るのを待つ。

 ここが何処だと思っているのか疑いたくなるメルヘンな映像だ。

  妖精の侵略攻撃により冒険者を妨害するためのトラップが完全に無力化されている。

 少女は男の子に余計な刺激を与えないように監視のみを続ける。

 3段階強化のモルモー20体でも対処できないのだ。

 どの階層まで来るか分からないなら敵対的な行動は取らない方がいいだろう。

 何しろ相手は精霊使いだ。

 今のところ妖精のみで精霊の力を使ってはいないが、いつでも使えるのだ。

 男の子は実験して確認するようにモンスターを倒している。

 手足を切り飛ばしたり、首を落としたりしてモンスターの消滅を観察している。

(それにしても一言も話さない子ね。目的が分かれば対処もしやすいのだけれど)

 いつも同じ時間に現れる男の子と少女の観察生活はしばらく続く。





 家を大幅リノベーションしてから4日が経った。

 今日はとうとうピッピとチッチの旅立ちの日だ。

 霞がたなびくような早朝。

 快晴とは言えないが天気の良い――晴れの日だ。

 俺からこいつらに餞別を送る。

 アンクルというのが正しいかは分からないが、アンクルリング型アイテムボックスだ。

 軽量化の効果も追加しているから違和感は感じないだろう。

 治療の霊薬やお菓子と焼いた肉が沢山入っている。

 もう俺が焼いてやる訳にもいかないからな。

 去年巣立ったカルルとクルルにも渡したが、今年の方が性能が良い。

 俺の研鑽の結果だね。

 去年はどっちも雄だったからピッピと同じかっこいい系にしてある。

 ツンツクともオソロだから会うことがあればわかるだろう。

 チッチは雌だから綺麗系で細工も細やかにしてあるんだ。

 オナイギと一緒の形だぜ。

 食べ過ぎるなよと注意して付けてやる。

「ありがとう! だんな! ととさまが持ってて羨ましかったんだ! 大切にするね」

(霊薬も入れてあるから何かあったらすぐに使えよ)

「ありがとう! だんなさん! あたしが見張ってるから大丈夫」

 ピッピとチッチは一緒に旅をするそうだ。

 俺もその方が安心だしな。

(体に気を付けて旅をするんだぞ)

 俺の出番はここまでだ。

 あとはツンツクとオナイギの時間だ。

 そっと遠くへ離れる。

「せがれにむすめ。お前ぇらなら大丈夫だ。あっしも安心して送り出せるってもんよ。あっしのガキの頃よりよっぽどしっかりしてるからな。無理せずにゆっくり旅を続けろや」

「あなた達。私達が教えたことを忘れずにしっかり励むのよ。雨の日はちゃんと羽を休めて、あなた達で補い合って旅を続けなさい。旅路の幸福を願っています」

「「ととさま。かかさま。今までありがとう! 行ってきます!」」

 そう言うとピッピとチッチは風のように飛び立った。

「「みんなまた会おうね」」

(うん。――またな)

 ピッピとチッチはあっという間に見えなくなった。

 感傷的な気分になるが俺が泣くのは筋違いだ。

 むしろ笑顔で送り出してやるのが正解だ。俺は無理に笑顔を作った。


§


 ――――王都

 ルルの司書長の執務室に、3人のエルフが集まる。

 ルル。イ-ディセル。ウェンの3人だ。

「ノアから届いたナイトシールドを解析したわ。これもプロトタイプね。そしてこれが”暴走”よ」
 ルルが質問する。

「この間言っていた”脱獄”と対をなす兵器ということだな?」

「そうね。まだ実用には堪えないけどね」

「御使いからの報告では男から決闘を申し込まれ倒すと黒いドットが飛び出たと言っていたが、そのドットが兵器ということなんじゃな?」

「正確には”暴走”兵器は別でその影響の結果。決闘を申し込んだ男は”暴走”状態だったのよ。そして、男を”暴走”させていたものが、黒いドットね。設計を見るに倒した相手に感染するようにされていたわ。今回はノアの武器がミスリル製で魔力を帯びていたから、倒した人間の一部と誤認されたみたいね」

「感染するとどうなるのじゃ?」

「”暴走”状態になる。試算ではどの程度影響が出るか分からないけれど。ノアは初見では最善手で対処したという事だわ。わが弟子ながらもってるのよねあの子。魔法金属以外の武器では感染していた可能性が高い。ノアが”暴走”状態に陥るかは私でも分からないわね。不思議な導きがあの子にはあるから」

「”暴走”兵器はまだあるのか?」

「あると見るべきでしょう。それとね。ノアが言っていた黒いドット。ナイトシールドに完全に定着しているわ。感染者を倒すとその者を2次感染者にして定着する。――つまり、1人目は正気を取り戻せるのに2人目は倒されても救われないということ。怖いでしょ?」

「おぬしでも無理なのか? 対策はなんじゃ?」

「対策は考えるわ。でも定着後に治療するのは難しいと言わざるを得ないわ。それにこの”暴走”兵器は開発段階のデータ収積用よ。欠点は修正されるものよ」

「この件をレオカディオに伝えても問題ないか?」

「残念。それを私に確認した時点で『いいえ』しか私には答えられないわ」
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