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第3章  進窟

第27話  計画

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 少女は2日ぶりのアラームで目を覚ます。

 いつもより素早く机を前に椅子に腰かけ、計画していたプランを実行する。

 机の上の何もない空間に手を置くとコマンドを入力する。

 少女が手を動かすと半透明のボードが現れて、指を置いた場所が光り目の前の画像にコマンドが書き込まれた。

 少女が立てたプラン。

 21階層中の大猿ラングスウィル300体を集めて男の子へ攻撃させる。

 21階層は危険と認識して逃げ帰ってくれれば儲けもの。

 それくらいの強度をかければ、さすがの男の子も精霊も使うだろう。

 まだ力の底を見せていない彼の全力を試しておきたい。

 精霊の攻撃力も確認しないと今後の対応が取れない。

 今までの少女の観察で男の子の探知魔法の範囲はおよそ20m。

 その範囲にモンスターや冒険者が現れると小さなリアクションがある。

 他にも試していたことがある。

 隠密奇襲型モンスターのオベンガ。

 液体モンスターのそれを男の子の探知魔法の範囲に入れて観察してみたが気が付いた様子はなかった。

 300体のラングスウィルでも2霊の精霊には勝てないだろう。

 だが、大群のラングスウィルを倒した瞬間。その気の緩みを利用してオベンガに頭上から奇襲をかける。

 探知できない攻撃は躱しようがない。

 切り札で倒せることを願い少女はオベンガをそっと盤上に配置する。

 今日の日の為にラングスウィルは知能と素早さと器用度を上げていた。

 本能的なラグスウィルをコントロールして組織立った攻撃をさせるためだ。

 少女は男の子に向かって攻撃開始の実行キ-を押した。

 300体のラングスウィルが一斉に投てき武器カイリーを放つ。

 モンスターの第一ターゲットは男の子に固定。

 男の子の立っていた場所に砂塵が舞う。

 ――走り出す男の子。

 左右に飛ぶように駆け、男の子は無軌道なジグザグを描きラングスウィルとの距離を詰める。

 遠距離攻撃は未来への攻撃だ。

 到着予測地点へ向けてカイリーを放つが当たる瞬間に横に飛び退り、あるいは一瞬スピードをあげ舞うように攻撃を避けてゆく。

 距離が縮まったら第2段階へ移行だ。

 素早くコマンドを打ちこみ先頭集団を頭上から襲いかからせる。

 素早さを上げたラングスウィルは空中で男の子の攻撃を躱し殴りかかった。

 そこへ少女は実行キーを押す。

 男の子へ近接攻撃中のラングスウィルもろとも、周りを囲う集団がカイリーの投てきを放つ。

 その投てきされたカイリーを男の子は躱すが、近くを取り囲むラングスウィルがそれを受けて再び放った。

 跳ね返ったかに見えるほどの速さで男の子にカイリーが襲い掛かる。

 器用度と素早さを上げて初めて可能な技だ。

 男の子は虚をつかれた表情をするが、反射的に片膝を抜くと重心を移動しその勢いで側宙して避けた。

 ――その足が地についた瞬間。

 周りを囲むラングスウィルに弾むように踊りかかり、槍の一振りで3体のラングスウィルの首が飛ぶ。

 男の子はスピードのギアを1つ上げたようだ。

 今まで男の子と同じスピードだったラングスウィルがついていけない。

 瞬く間に10体のラングスウィルが倒された。

 男の子は投てきを避けながら、自ら囲いの中心に向かって走り出す。

 頭上から襲い掛かるラングスウィルに何もさせず一瞬で倒してゆく。

(ウソでしょ? 相手にすらならないなんて)

 林がまばらな広場で襲いかかるラングスウィルを殲滅すると取り出した半球体のドームに閉じこもった。

 ――鳴り響く侵略アラート。

「――浸透侵略攻撃? どういうこと?」

 少女は投てき攻撃の実行キーを押す。

 243体に減ったラングスウィルが投てき武器カイリーを半球体に当てる。

 ――ドゴゴゴン。

 半球体へダメージの効果はなさそうだ。

 ラングスウィルに持ち上げるようにコマンドを入力する。

「ヌクレオ! 浸透侵略ってどういうこと?」

(えっ? あの半球体をダンジョンと同化させてる? そんなこと出来るの?)

「ヌクレオ。対応策を取って」

 指示と同時に鳴りやむアラート。

(えっ? 完全にダンジョンと同化した。排除不能――なんなのよっっ! あの子! 何してくるか分からないっ! イレギュラーにも程があるっ!!)

 まだ精霊すら使わせていない。

 妖精は男の子の肩に手をかけて後ろを離れずついてくるが今回は一切手を出してはいない。

 すると。

 半球体に小さな入り口が生み出された。

(――誘っているのね? アセットがもったいないけどのってあげるわ)

 少女は計画通り液体モンスターオベンガを近くの樹に配置する。

~~~

 男の子が現れドームを仕舞う。

(涼しい顔なのが腹立つわね。今に見てなさい)

 21階層の主であるラングスウィルはドロップアイテムが投てき武器のカイリーで不人気だ。

 もちろん冒険者が見向きもしないように設定したのは少女だが、ラングスウィルにはレアドロップがある。

 それは――純魔水晶。

 純魔水晶の中では小粒ではあるが価値は高い。

 少女はそれを1つ広場の入り口に出現させておいた。

 男の子を誘い出すための罠だ。気付いた男の子が近づいてくる。

(今ねっ!)

 少女は実行キーを押した。


 ――と

 狙い通り液体モンスターのオベンガが頭上より男の子に襲いかかる。

 その時――男の子は飛び込み前転で回避した。

「……これでもダメなのっ!」

 少女は呟くように叫ぶと体の力を抜いて椅子にもたれた。

 ヌクレオから慣れない事をするものではないと意思が伝わる。

「そうね。――少し焦っていたみたい。取引きも視野に行動の監視ね」

「あれっ? ……何かしら?」
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