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第3章 進窟
第28話 名無
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……20人か。
剣呑な話じゃなければいいけど。……無理だよね。
俺の探知魔法の範囲のギリギリを等間隔で円を描くように囲んでいる。
その円はゆっくりと狭まっていた。
全員男だな。
1人以外の顔色が悪い。
そして――見覚えのある顔色だ。
顔色の悪くないガタイがいい男がニヤニヤ笑いながら話しかけて来た。
「英雄の兄ちゃん。初めましてだな? まぁ。俺は兄ちゃんのこと知ってるが」
抜き身の剣を肩でポンポンしている。
「どうも。初めましてノアです。お名前を伺ってもいいですか?」
「ナナシっていうんだ。覚えてくれなくてもいいぜ?」
「そうですか。ナナシさん。私は用事があるので失礼します。また、機会があればお話しましょう」
ナナシさんはハハハと笑う。
「まぁ。そう言うねぇ。ちょっと付き合えよ」
「いやっ! 実は時間が迫っていまして、ケツかっちんなんですよぉ!」
「ケツかっちん? なんだ? そりゃ」
「やっぱぁ! 成人男性として時間は守らないといけないじゃないですかぁ。このあとぉ。予定があるんですよぉ」
「なんだ? 急にその気持ち悪いしゃべり方。――それより兄ちゃん消えれるんだろ見せてくれよ」
――あぁぁっん?
「なんだ。――あんたあのクソ野郎の仲間か?」
俺は身内には甘々だが、敵には容赦しねぇ!
俺が姿を消すことを敢えて見せたのは1人だけ。帝国は敵認定済みだ。
「どうだかね? それより俺に一手ご指南頼めねぇか? 兄ちゃん。絶界の弟子なんだろ?」
ゼッカイ? ――誰だろ。
俺の師匠はウェン師だが、ウェン師って有名なのかな?
「あのクソ野郎は弱すぎて手応えが無かったぞ? あんたがそれなりなら相手してやってもいいぜ」
あの時は頭に来過ぎて一撃で倒してしまった。
そのせいで発散できるほどぶん殴り足らなかった。
「あいつは工作員だ武官じゃねぇ。それに俺は冒険者ではA級でね。兄ちゃんで相手になるかね」
なんだよ。煽ったらクソ野郎ことマグスオン・ミ-シャスとの繋がりを吐いたな。
バカは扱いやすくて助かるよ。
「この胸くそ悪い顔色の人はなんだよ? また、シュバインさんみたいに巻き込んだのか?」
「さてね? 勝ったら教えてやるぜ」
残りの19名はまるでシュバインさんと同じような形相だ。
胸クソ悪い奴らの事だ。
自分の関係者には”暴走”兵器を使わないだろう。
体よく現地調達とでも考えて無関係な人を巻き込んだ筈だ。
人間の持つ最大の権利。
思考と自由意志を奪い取る非人道兵器は許しがたい。
まったく。頭にくる理由が1つ増えた。
あの後に何度か食事したがシュバインさんは気のいい兄ちゃんだった。
シュバインさんの分までぶん殴ってやらないと気が済まない。
俺は楯と槍をしまい杖を手に持つ。
「おっ? やる気になったか? お前ぇらは手を出すな! サシで勝負だ」
戦力の分散なんてアホのやることだよ。
俺だったら全員で襲撃を選ぶね。
俺はナナシを名乗る男と対峙する。
おっと!
言うだけあってシュバインさんより早くて強いな。
俺の杖でのいなしにも踊らされず剣の距離に入り込んでくる。
ナナシの薙ぎ払いの一撃を俺はうしろへ飛んで回避した。
幾度かの差合いのあとナナシが言った。
「英雄の兄ちゃん。冒険者に成り立ての割になかなかやるじゃねぇか。そうだ。あれ見せてくれよ。決闘のときの棒を担ぐやつ」
――杖なっ!
希望の通り俺は”霞段”の構えをとる。
杖を両肩に乗せその上に両手をのせてテンションをかける。
ナナシがニヤニヤ笑う。
俺はいつも通り左手を外し右手で打ち下ろす。
「そいつは見たぜっ!」
ナナシは一気に間合いを詰めて杖の根本を受けようとする。
――見た?
見せたんだよっ!
右手で打ち下ろす杖に左手を添えて巻き込むように打ち下ろす。
上段に構えた剣をスルりとすり抜け杖は驚くナナシの鎖骨を強烈に打ち抜いた。
「ぐぁわっ」
ただの変則上段打ちに”霞段”なんて大仰な型名は付かない。
同じ初動から霞のように幾通りにも変ずる一撃だ。
眉間を打ち、こめかみを払い、鎖骨を打ち抜き、喉笛を付く。その間合いさえも自在に操る理。
この型は相手の動きに合わせてリアクションする攻撃だ。
先の先も、先の後も、後の後も選べる俺の最速最強の一撃。
そして――
連なる段撃の初手でもある。
怯んだナナシの左下から杖を回し剣を巻き込み下げさせる。半身はガラ空きだ。
すかさず8の字を描き滑らかな軌道で杖が左鎖骨を叩き折った。
「ぐふぅっ!」
初めの打ち合いでナナシの値踏みは終わった。一撃で終わらないように調整する。
同じA級でも師匠のおっさんの手抜きより弱いわ。
「お前ぇら――」
言わせねぇよっ!
喉を付く。
「ごひゅっっ」
ほらね戦力の分散投入なんていいことないね。
俺は腰の裏に杖を構え肩幅より少し外を両手で持つ。
じいさまはこの型を”弧月”と呼んでいた。
下からの払いあげと上段からの打ち下ろし。刹那の二連撃がこの型だ。
俺の下からの払い上げでナナシの剣を弾き飛ばす。
体の崩れたナナシの眉間を上段から打ち下ろした。杖の軌道は美しい上弦を描く。
ゆっくりと崩れるナナシ。
すると。
俺の周りを囲む男たちが得物を構えてにじり寄ってくる。
――あぁ。楽は出来ないね。
剣呑な話じゃなければいいけど。……無理だよね。
俺の探知魔法の範囲のギリギリを等間隔で円を描くように囲んでいる。
その円はゆっくりと狭まっていた。
全員男だな。
1人以外の顔色が悪い。
そして――見覚えのある顔色だ。
顔色の悪くないガタイがいい男がニヤニヤ笑いながら話しかけて来た。
「英雄の兄ちゃん。初めましてだな? まぁ。俺は兄ちゃんのこと知ってるが」
抜き身の剣を肩でポンポンしている。
「どうも。初めましてノアです。お名前を伺ってもいいですか?」
「ナナシっていうんだ。覚えてくれなくてもいいぜ?」
「そうですか。ナナシさん。私は用事があるので失礼します。また、機会があればお話しましょう」
ナナシさんはハハハと笑う。
「まぁ。そう言うねぇ。ちょっと付き合えよ」
「いやっ! 実は時間が迫っていまして、ケツかっちんなんですよぉ!」
「ケツかっちん? なんだ? そりゃ」
「やっぱぁ! 成人男性として時間は守らないといけないじゃないですかぁ。このあとぉ。予定があるんですよぉ」
「なんだ? 急にその気持ち悪いしゃべり方。――それより兄ちゃん消えれるんだろ見せてくれよ」
――あぁぁっん?
「なんだ。――あんたあのクソ野郎の仲間か?」
俺は身内には甘々だが、敵には容赦しねぇ!
俺が姿を消すことを敢えて見せたのは1人だけ。帝国は敵認定済みだ。
「どうだかね? それより俺に一手ご指南頼めねぇか? 兄ちゃん。絶界の弟子なんだろ?」
ゼッカイ? ――誰だろ。
俺の師匠はウェン師だが、ウェン師って有名なのかな?
「あのクソ野郎は弱すぎて手応えが無かったぞ? あんたがそれなりなら相手してやってもいいぜ」
あの時は頭に来過ぎて一撃で倒してしまった。
そのせいで発散できるほどぶん殴り足らなかった。
「あいつは工作員だ武官じゃねぇ。それに俺は冒険者ではA級でね。兄ちゃんで相手になるかね」
なんだよ。煽ったらクソ野郎ことマグスオン・ミ-シャスとの繋がりを吐いたな。
バカは扱いやすくて助かるよ。
「この胸くそ悪い顔色の人はなんだよ? また、シュバインさんみたいに巻き込んだのか?」
「さてね? 勝ったら教えてやるぜ」
残りの19名はまるでシュバインさんと同じような形相だ。
胸クソ悪い奴らの事だ。
自分の関係者には”暴走”兵器を使わないだろう。
体よく現地調達とでも考えて無関係な人を巻き込んだ筈だ。
人間の持つ最大の権利。
思考と自由意志を奪い取る非人道兵器は許しがたい。
まったく。頭にくる理由が1つ増えた。
あの後に何度か食事したがシュバインさんは気のいい兄ちゃんだった。
シュバインさんの分までぶん殴ってやらないと気が済まない。
俺は楯と槍をしまい杖を手に持つ。
「おっ? やる気になったか? お前ぇらは手を出すな! サシで勝負だ」
戦力の分散なんてアホのやることだよ。
俺だったら全員で襲撃を選ぶね。
俺はナナシを名乗る男と対峙する。
おっと!
言うだけあってシュバインさんより早くて強いな。
俺の杖でのいなしにも踊らされず剣の距離に入り込んでくる。
ナナシの薙ぎ払いの一撃を俺はうしろへ飛んで回避した。
幾度かの差合いのあとナナシが言った。
「英雄の兄ちゃん。冒険者に成り立ての割になかなかやるじゃねぇか。そうだ。あれ見せてくれよ。決闘のときの棒を担ぐやつ」
――杖なっ!
希望の通り俺は”霞段”の構えをとる。
杖を両肩に乗せその上に両手をのせてテンションをかける。
ナナシがニヤニヤ笑う。
俺はいつも通り左手を外し右手で打ち下ろす。
「そいつは見たぜっ!」
ナナシは一気に間合いを詰めて杖の根本を受けようとする。
――見た?
見せたんだよっ!
右手で打ち下ろす杖に左手を添えて巻き込むように打ち下ろす。
上段に構えた剣をスルりとすり抜け杖は驚くナナシの鎖骨を強烈に打ち抜いた。
「ぐぁわっ」
ただの変則上段打ちに”霞段”なんて大仰な型名は付かない。
同じ初動から霞のように幾通りにも変ずる一撃だ。
眉間を打ち、こめかみを払い、鎖骨を打ち抜き、喉笛を付く。その間合いさえも自在に操る理。
この型は相手の動きに合わせてリアクションする攻撃だ。
先の先も、先の後も、後の後も選べる俺の最速最強の一撃。
そして――
連なる段撃の初手でもある。
怯んだナナシの左下から杖を回し剣を巻き込み下げさせる。半身はガラ空きだ。
すかさず8の字を描き滑らかな軌道で杖が左鎖骨を叩き折った。
「ぐふぅっ!」
初めの打ち合いでナナシの値踏みは終わった。一撃で終わらないように調整する。
同じA級でも師匠のおっさんの手抜きより弱いわ。
「お前ぇら――」
言わせねぇよっ!
喉を付く。
「ごひゅっっ」
ほらね戦力の分散投入なんていいことないね。
俺は腰の裏に杖を構え肩幅より少し外を両手で持つ。
じいさまはこの型を”弧月”と呼んでいた。
下からの払いあげと上段からの打ち下ろし。刹那の二連撃がこの型だ。
俺の下からの払い上げでナナシの剣を弾き飛ばす。
体の崩れたナナシの眉間を上段から打ち下ろした。杖の軌道は美しい上弦を描く。
ゆっくりと崩れるナナシ。
すると。
俺の周りを囲む男たちが得物を構えてにじり寄ってくる。
――あぁ。楽は出来ないね。
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