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第3章 進窟
第29話 黒蝶
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残った顔色の悪い男達がゆっくりと近づいて来る。
ナナシの命令がなければ動かないかと期待してたが。。。
さて、話は変わるが人間にとって毒の定義は難しい。
直ぐ思いつく蛇毒は概ね蛇の消化を助ける消化酵素だ。唾液が変化したと言われる。
実際に毒を使った獲物と使わずに食べた獲物では消化にかかる時間が違うそうだ。
だが組成としてはタンパク質のため人間が飲んでも無害で簡単に消化吸収される。
体内に入った場合に初めて毒として害を及ぼすのだ。
飲めるかどうかは別問題として醤油も1升飲めば人は死ぬらしい。
つまり致死量を摂取すれば身近なものも毒となる。
毒とは生物の活動に不都合を及ぼす物質の総称。
そして、俺が今簡単に手に入る毒がある。
その毒を使うとしよう。
俺が魔法を唱えると19名全員が気を失ったように倒れた。
俺が使っった毒――空気だ。
この世界の大気は地球と変わらない。
そして魔法という便利なものがある。
器用な俺はすべての魔法を唱えられ、不器用な俺は概ね威力がない。
だが大気の主成分を把握しているから魔法で顔の周りの酸素を抜き出してやれば人はあっという間に気を失う。
巻き込まれただけの人に脳内で魔力を暴発させる『昏倒くん』だと物騒だからね。
ほんの一呼吸で完了だ。一瞬脳に酸素が届かなければ人は簡単に気絶する。
倒れた下には十分な空気があるから安心だ。
……やっぱり始まるか。
ペラペラのドットが19人全員から出てくる。
周りを囲むように出てきて一面真っ黒で既に逃げ場はない。
俺は一つため息を吐いた。
アイテムボックスから『集閉くん』を取り出すと空中に浮かばせる。
本当にこれが初見じゃなくて良かった。
ウェン師からもらった魔道具だ。
ウェン師の報告ではシュバインさんとの時のドットも実は結構綱渡りだったらしい。
『集閉くん』は光の竜巻を発生させると黒いドットを急激に吸い込む。
俺は間違ってもドットに触れないよう注意してそれを見守る。
ラ――――!
モルトが叫ぶ。
その声で俺が振り返るとモルトが背を向けて庇うように手を広げていた。
猛スピードの黒い何かがモルトの頭をすり抜けて俺のうなじに張り付く。
反射的に手でうなじを掴もうとした。
脳の芯が焼けるように熱い。
燃えるような思考の激しさに声に成らない叫びをあげた。
そして俺の意識は暗転する。
かすかに響く鈴の音を聞いた気がした。
§
ノアと名乗った男の子が男を倒すのを見て少女は呟く。
「強化型ラングスウィル300体を相手にするあの子に普通のA級が勝てるわけないじゃない」
動き出す19人の男達。
そしてあっという間に倒れる。
「ヌクレオ。今何が起きたの?」
(風魔法と無属性魔法で空気を動かした? そんなので人が倒れるの?)
そして、現れる黒いドット。
「ヌクレオ。あれは何?」
(――また不明。ダンジョン内でヌクレオが分析できないなんて、類は友を呼ぶのかしら?)
男の子が魔道具を展開して黒いドットを吸い込み出す。
男の子の後方からかなりの速度で真っ黒な飛翔体が近づく。
逆三角形の羽で作った不格好な蝶のような物体だ。
妖精はいち早く気づき魔法で攻撃したが素早く回転するように躱される。
ラ――――!
妖精が警戒を上げ男の子へ報せる。
そして、妖精が身を呈すように立ち塞がるが黒い蝶はそれをすり抜け男の子のうなじに張り付いた。
黒い蝶は、うなじをすべるように頭へ移動したように見える。
「……何が起きてるの」
男の子が獣の様な雄叫びをあげる。
すると――――
ダンジョンの地面がうねる。それはまるで大きな顎となり男の子を飲み込んだ。
妖精は飲み込まれる男の子を守るように抱き着く。
「えっ? ――ヌクレオ。……何が起きているの?」
「……ヌクレオ! 返事をして!」
ヌクレオは沈黙する。
と同時に映像に夥しい数のウェインドウが開く。
「――上位権能からの占拠……何、なに、ナニ、何、なんなのよっ!」
今度は部屋の光が落ち、直ぐにぼんやりとした予備灯に代わる。
夥しいウィンドウに書かれている言葉は、”ファギティーヴォ”少女には意味が分からない。
覚束ない光の中少女はヌクレオの元へ向かう。
ダンジョンのヌクレオはいつもの美しい青色の光ではなく。
黒く滑るように怪しく光り宙に浮いている。
「ヌクレオ。大丈夫? あたしの声が聞こえる?」
少女がそっと手を伸ばし、触れると驚いたように引っ込めた。
ヌクレオは焼ける程の熱を持っていた。
§
ノア失踪の報告はギルドからア-ルヴへの配慮のため、詳細な事実が未確定ながら3日後に届けられた。
ナナシの命令がなければ動かないかと期待してたが。。。
さて、話は変わるが人間にとって毒の定義は難しい。
直ぐ思いつく蛇毒は概ね蛇の消化を助ける消化酵素だ。唾液が変化したと言われる。
実際に毒を使った獲物と使わずに食べた獲物では消化にかかる時間が違うそうだ。
だが組成としてはタンパク質のため人間が飲んでも無害で簡単に消化吸収される。
体内に入った場合に初めて毒として害を及ぼすのだ。
飲めるかどうかは別問題として醤油も1升飲めば人は死ぬらしい。
つまり致死量を摂取すれば身近なものも毒となる。
毒とは生物の活動に不都合を及ぼす物質の総称。
そして、俺が今簡単に手に入る毒がある。
その毒を使うとしよう。
俺が魔法を唱えると19名全員が気を失ったように倒れた。
俺が使っった毒――空気だ。
この世界の大気は地球と変わらない。
そして魔法という便利なものがある。
器用な俺はすべての魔法を唱えられ、不器用な俺は概ね威力がない。
だが大気の主成分を把握しているから魔法で顔の周りの酸素を抜き出してやれば人はあっという間に気を失う。
巻き込まれただけの人に脳内で魔力を暴発させる『昏倒くん』だと物騒だからね。
ほんの一呼吸で完了だ。一瞬脳に酸素が届かなければ人は簡単に気絶する。
倒れた下には十分な空気があるから安心だ。
……やっぱり始まるか。
ペラペラのドットが19人全員から出てくる。
周りを囲むように出てきて一面真っ黒で既に逃げ場はない。
俺は一つため息を吐いた。
アイテムボックスから『集閉くん』を取り出すと空中に浮かばせる。
本当にこれが初見じゃなくて良かった。
ウェン師からもらった魔道具だ。
ウェン師の報告ではシュバインさんとの時のドットも実は結構綱渡りだったらしい。
『集閉くん』は光の竜巻を発生させると黒いドットを急激に吸い込む。
俺は間違ってもドットに触れないよう注意してそれを見守る。
ラ――――!
モルトが叫ぶ。
その声で俺が振り返るとモルトが背を向けて庇うように手を広げていた。
猛スピードの黒い何かがモルトの頭をすり抜けて俺のうなじに張り付く。
反射的に手でうなじを掴もうとした。
脳の芯が焼けるように熱い。
燃えるような思考の激しさに声に成らない叫びをあげた。
そして俺の意識は暗転する。
かすかに響く鈴の音を聞いた気がした。
§
ノアと名乗った男の子が男を倒すのを見て少女は呟く。
「強化型ラングスウィル300体を相手にするあの子に普通のA級が勝てるわけないじゃない」
動き出す19人の男達。
そしてあっという間に倒れる。
「ヌクレオ。今何が起きたの?」
(風魔法と無属性魔法で空気を動かした? そんなので人が倒れるの?)
そして、現れる黒いドット。
「ヌクレオ。あれは何?」
(――また不明。ダンジョン内でヌクレオが分析できないなんて、類は友を呼ぶのかしら?)
男の子が魔道具を展開して黒いドットを吸い込み出す。
男の子の後方からかなりの速度で真っ黒な飛翔体が近づく。
逆三角形の羽で作った不格好な蝶のような物体だ。
妖精はいち早く気づき魔法で攻撃したが素早く回転するように躱される。
ラ――――!
妖精が警戒を上げ男の子へ報せる。
そして、妖精が身を呈すように立ち塞がるが黒い蝶はそれをすり抜け男の子のうなじに張り付いた。
黒い蝶は、うなじをすべるように頭へ移動したように見える。
「……何が起きてるの」
男の子が獣の様な雄叫びをあげる。
すると――――
ダンジョンの地面がうねる。それはまるで大きな顎となり男の子を飲み込んだ。
妖精は飲み込まれる男の子を守るように抱き着く。
「えっ? ――ヌクレオ。……何が起きているの?」
「……ヌクレオ! 返事をして!」
ヌクレオは沈黙する。
と同時に映像に夥しい数のウェインドウが開く。
「――上位権能からの占拠……何、なに、ナニ、何、なんなのよっ!」
今度は部屋の光が落ち、直ぐにぼんやりとした予備灯に代わる。
夥しいウィンドウに書かれている言葉は、”ファギティーヴォ”少女には意味が分からない。
覚束ない光の中少女はヌクレオの元へ向かう。
ダンジョンのヌクレオはいつもの美しい青色の光ではなく。
黒く滑るように怪しく光り宙に浮いている。
「ヌクレオ。大丈夫? あたしの声が聞こえる?」
少女がそっと手を伸ばし、触れると驚いたように引っ込めた。
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