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第4章 飄々
第3話 胡乱
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――――王都
エステラが店に戻った後の修練場でバルサタールはウェンに方針を尋ねる。
「錬金術師さんよ。嬢ちゃんは料理人だろ? 鍛えても高が知れてるぜ。いいとこB級。運が絡めばA級に届くかどうかだ。それで良いのかい?」
「えぇ。可能な限りでいいわ」
「それじゃあ。坊主の隣には立てないぜ。あいつは軽くA級に届く。或いはその先へも。近くにいれば守ってもらえるだろうが、嬢ちゃんの眼はそれを望んでいない」
「大丈夫。ノアは遠距離攻撃が苦手だから、エステラには弓を持たせるわ。そちらでの育成をお願い」
「苦手ねぇ。嬢ちゃんが追い付く頃には苦手じゃなくなっているんじゃねぇか? あいつ頭がいかれてるからな」
「ふふふっ。ノアに剣の志を折らせた男が何言ってるのよ」
「剣の振り方は覚えて行ったよ。ただ、剣が一番ろくでもない武器が多かったな。飛んでくる刀身とか打ち込むとくっついて取り込む刀身とか。その調子で苦手も克服するだろう。苦手っていっても威力が普通なだけで弓も上手かったぞ」
「ふふふっ。そんなの折るに決まってるじゃない。弓では敵わないってね。じゃないとノアの隣にエステラの場所を作ってあげられないもの」
(……弟子が弟子なら師も師ってなぁ。折るの好きだな。上げ底はあんまり関心はせんが、――よその流派だ。口は出すまい好きにしたらいい)
「俺は剣士だ。弓で俺が出来るのは基礎だけだな。だが近接の出来ない弓士なんて固定砲台と変わらない。接近戦での回避と防御。それに攻撃も覚えさせるぞ」
「冒険者の流儀にまかせるわ。強弓を引いてノアの弓の志も半分折った英雄さんなら安心よ」
バルサタールは苦笑いをする。
バルサタールの基準で他の武器や楯の扱いは人並みだが、弓は得意な方だった。
彼にとって弓は遠当てをするただの遊びの範疇だ。
なにしろ剣で片付けたほうが早い。
そのせいでノアには剣と弓には苦手意識を植え付けてしまった。
だが、おかげで槍に比重を置けた。
杖術と槍術を合わせる槍を両手持ちするノアには光るものがあった。
そこには我流ではなく長い年月錬られた武術の片鱗が見える。
剣の握り方も知らないかと思えば、驚くほど老練な杖術を操る。
その型にはまらない弟子もどきはどうやらダンジョンで路に迷ったらしい。
バルサタールも経験したが、若いときには良くあることだ。
(坊主! 早く光の当たる場所へ出て来いよ)
今はここにいない。心を奮い立たせて無事を信じる少女の為にも。
§
少女は男との距離が十分離れていることを確認して部屋に入りコアルームをロックする。
少女が入室すると男はまた尋ねてくる。
「……もしかして、ここって病院ですか?」
少女はそれに答えずにヌクレオがいれば言わなくても用意されるもろもろを手動で入力して椅子とテーブルに紅茶を用意する。
男は急に現れたそれらに驚いて後ずさりし呟く。
「……手品?」
「座って下さい。まず、あなたの話をしましょう」
「あっ。はい」
男は言われた通りに椅子に座る。
少女が男を放り出さないのは男がヌクレオから出て来たから。
(この男にはヌクレオを取り戻すヒントがあるかもしれない)
少女はその可能性がある限り男を監視下に置かなければならない。
「あなたの事を教えてください」
「えっと。自己紹介ってことですかね? ――名はカミタケです。職業は神社の権禰宜をしています。年は二十八歳です。趣味は食べ歩きかな? 血液型はA型で――」
「ちょっと待ってっ! 訳分からない言葉が多い。何処から来たの?」
男はとりあえず少女の言うことを聞いていたが、いい加減茶番じみてきて要求する。
「んっ? っていうかもっと大人の人いないの? ――説明できる人連れてきてよ」
男の目の前の美しい少女は長いストレートの黒髪で肌は抜けるように白い。
目だけがルビーのように赤く豪華なネグリジェにもみえるドレスを着ている。
(ハーフか外国系かな日本語が流暢だし、十九ぐらいの未成年に見えるけど外国の血が入ると大人びて見えるからもっと若いかもね。ルビー色のカラコン入れてるんだ。今どきだね)
男は自分の服装からここが病院だと想像している。一切記憶がないが何かあって運び込まれたと推測する。
「ここが何処かは教えられません。私の質問に答えて。どこから来たの?」
少女は余計な情報を男に与えたくない。
「なんだよ。まったく。〇〇県〇〇市だよ。住所まで聞く?」
その男は強気の女性に弱い。
「――それはどこ?」
「えっ?」
「それは――どこ?」
「――日本だけど。まさか! ここ海外じゃないよね?」
男は慌てだした。
「ちょっと外に出してくれ。確認する」
席を立ち外に出ようとする男へ少女は睡眠の魔法をかける。
抵抗されることなく男は眠りについた。
エステラが店に戻った後の修練場でバルサタールはウェンに方針を尋ねる。
「錬金術師さんよ。嬢ちゃんは料理人だろ? 鍛えても高が知れてるぜ。いいとこB級。運が絡めばA級に届くかどうかだ。それで良いのかい?」
「えぇ。可能な限りでいいわ」
「それじゃあ。坊主の隣には立てないぜ。あいつは軽くA級に届く。或いはその先へも。近くにいれば守ってもらえるだろうが、嬢ちゃんの眼はそれを望んでいない」
「大丈夫。ノアは遠距離攻撃が苦手だから、エステラには弓を持たせるわ。そちらでの育成をお願い」
「苦手ねぇ。嬢ちゃんが追い付く頃には苦手じゃなくなっているんじゃねぇか? あいつ頭がいかれてるからな」
「ふふふっ。ノアに剣の志を折らせた男が何言ってるのよ」
「剣の振り方は覚えて行ったよ。ただ、剣が一番ろくでもない武器が多かったな。飛んでくる刀身とか打ち込むとくっついて取り込む刀身とか。その調子で苦手も克服するだろう。苦手っていっても威力が普通なだけで弓も上手かったぞ」
「ふふふっ。そんなの折るに決まってるじゃない。弓では敵わないってね。じゃないとノアの隣にエステラの場所を作ってあげられないもの」
(……弟子が弟子なら師も師ってなぁ。折るの好きだな。上げ底はあんまり関心はせんが、――よその流派だ。口は出すまい好きにしたらいい)
「俺は剣士だ。弓で俺が出来るのは基礎だけだな。だが近接の出来ない弓士なんて固定砲台と変わらない。接近戦での回避と防御。それに攻撃も覚えさせるぞ」
「冒険者の流儀にまかせるわ。強弓を引いてノアの弓の志も半分折った英雄さんなら安心よ」
バルサタールは苦笑いをする。
バルサタールの基準で他の武器や楯の扱いは人並みだが、弓は得意な方だった。
彼にとって弓は遠当てをするただの遊びの範疇だ。
なにしろ剣で片付けたほうが早い。
そのせいでノアには剣と弓には苦手意識を植え付けてしまった。
だが、おかげで槍に比重を置けた。
杖術と槍術を合わせる槍を両手持ちするノアには光るものがあった。
そこには我流ではなく長い年月錬られた武術の片鱗が見える。
剣の握り方も知らないかと思えば、驚くほど老練な杖術を操る。
その型にはまらない弟子もどきはどうやらダンジョンで路に迷ったらしい。
バルサタールも経験したが、若いときには良くあることだ。
(坊主! 早く光の当たる場所へ出て来いよ)
今はここにいない。心を奮い立たせて無事を信じる少女の為にも。
§
少女は男との距離が十分離れていることを確認して部屋に入りコアルームをロックする。
少女が入室すると男はまた尋ねてくる。
「……もしかして、ここって病院ですか?」
少女はそれに答えずにヌクレオがいれば言わなくても用意されるもろもろを手動で入力して椅子とテーブルに紅茶を用意する。
男は急に現れたそれらに驚いて後ずさりし呟く。
「……手品?」
「座って下さい。まず、あなたの話をしましょう」
「あっ。はい」
男は言われた通りに椅子に座る。
少女が男を放り出さないのは男がヌクレオから出て来たから。
(この男にはヌクレオを取り戻すヒントがあるかもしれない)
少女はその可能性がある限り男を監視下に置かなければならない。
「あなたの事を教えてください」
「えっと。自己紹介ってことですかね? ――名はカミタケです。職業は神社の権禰宜をしています。年は二十八歳です。趣味は食べ歩きかな? 血液型はA型で――」
「ちょっと待ってっ! 訳分からない言葉が多い。何処から来たの?」
男はとりあえず少女の言うことを聞いていたが、いい加減茶番じみてきて要求する。
「んっ? っていうかもっと大人の人いないの? ――説明できる人連れてきてよ」
男の目の前の美しい少女は長いストレートの黒髪で肌は抜けるように白い。
目だけがルビーのように赤く豪華なネグリジェにもみえるドレスを着ている。
(ハーフか外国系かな日本語が流暢だし、十九ぐらいの未成年に見えるけど外国の血が入ると大人びて見えるからもっと若いかもね。ルビー色のカラコン入れてるんだ。今どきだね)
男は自分の服装からここが病院だと想像している。一切記憶がないが何かあって運び込まれたと推測する。
「ここが何処かは教えられません。私の質問に答えて。どこから来たの?」
少女は余計な情報を男に与えたくない。
「なんだよ。まったく。〇〇県〇〇市だよ。住所まで聞く?」
その男は強気の女性に弱い。
「――それはどこ?」
「えっ?」
「それは――どこ?」
「――日本だけど。まさか! ここ海外じゃないよね?」
男は慌てだした。
「ちょっと外に出してくれ。確認する」
席を立ち外に出ようとする男へ少女は睡眠の魔法をかける。
抵抗されることなく男は眠りについた。
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